じわじわ進行する資源の地域格差。 国も恐れる?大規模化での撤退加速

2024年度の介護報酬改定に向けて、見逃せないテーマの1つが、地域によって「サービス資源そのものが足りなくなる」という危機への対応です。受けたいサービスが受けられないとなれば、制度自体への信頼も揺らぎかねません。国はどう考えているのでしょうか。

同一事業者割合の説明が「努力義務」に

地域の資源不足について述べる前に、ケアマネ関連の改革案に着目しておきましょう。

厚労省が示した居宅介護支援にかかる改革案の中に、2021年度に導入された利用者への説明義務の一部緩和があります。具体的には、前6か月に作成したケアプランにおける、訪問介護や通所介護のサービス割合や同一事業者によって提供された割合です。この説明義務を「努力義務」にするというものです。

背景には、現場における事務負担の大きさや、利用者が(安心感があるといった理由から)割合の高い事業者を選んでしまうといった状況が指摘されています。特に後者のケースは義務化の直後から指摘されていたことで、公正中立を逆にはばむ要因になりかねないという点が大きな問題となっていました。

こうした実態を受けての今回の緩和案は、出されるべくして出されたと言えるでしょう。なお、努力義務化後も、介護サービス情報公表制度を活用しての「公表」は引き続き行なうとしています。利用者としては、これにより情報を得ることはできるわけです。

資源不足が進めば「公正中立」策も無意味に

もっとも、情報公表制度が残ったとしても、利用者からすれば「公正中立」よりも違った観点から注目が集まる可能性があります。たとえば、地域でのサービス事業所の撤退や事業規模の縮小が目立ち始めている中、結果的に特定の事業所に利用が集中せざるを得ないという実情も現れるという点です.

そうした実態が浮き彫りになれば、仮に先の義務規定が緩和されなかったとしても、「そもそもサービス資源が不足しゆく中で、その数字自体に意味はあるのか」という議論も当然出てくるでしょう。厚労省として、まさかそこまで見すえたわけではないでしょうが、いみじくも「資源が足りなければ、特定事業所への利用集中を論じても意味はない」という状況が生じつつあるわけです。

中でも深刻なのは、言うまでもなく人材確保が危機的レベルにまで達している訪問介護です。財務面での厳しさはもとより、2024年度の訪問介護の報酬改定状況により、ヘルパー不足による倒産・撤退が本格的に進んでいくのは、これからと考えていいでしょう。

非効率な事業運営をカバーする加算が誕生?

そうした中、11月6日の介護給付費分科会では、訪問介護について「中山間地域等における移動距離等を踏まえた報酬の見直し」が提案されました。これは、地域資源の状況などでやむを得ず移動距離を要したりすることにより、事業運営が非効率にならざるを得ないケースを念頭に置いたものです。

これにより、特別地域加算などの対象にならない事業所であっても、サービス提供体制を維持している事業所を新たに評価する──これが厚労省の改革案です。もっとも、新加算を設けるとして、移動時間やかかったガソリン代等を正確に記録しておくことが必要なのか──など、要件設定が難しくなりそうです。いずれにせよ、こうした手立てが少なくとも急務となっているという厚労省側の危機感が感じられる提案と言えるでしょう。

とはいえ、地域における訪問介護などの資源不足を押しとどめるには、こうした改革案では足りません。しかし、地域の特殊性を念頭に置いたさらなる加算の設定については、2024年度から運用される経営情報データベースの活用を待って……としています。
結局は、2024年度改定については、基本報酬がどうなるのか、そのベースとなる改定率はどうなるかを待つほかはなさそうです。

大規模化・協働化ビジョンも揺らぎかねない

問題は、事業所の収支改善や人員確保を行ないやすい環境づくりとして、国は事業の大規模化や協働化をさらに推し進めようとしていることです。現時点では、好事例の横展開などの施策が中心ですが、将来的には「吸収・合併等による大規模化への移行」や「事業の協働化を進めているケース」について、報酬上で評価するしくみができるかもしれません。

もっとも、こうした誘導策などで大規模化が進めば、事業所配置の効率化という経営戦略も強まる可能性があります。利用者密度の低い地域からの事業所撤退などが、今以上に進みかねない懸念もあるわけです。

また、事業の協働化にしても、そもそも地域に事業所が少なくなる中では、協働化のメリットそのものが働かなくなる可能性があります。国がいくら旗振りをしても、その恩恵を受けられる地域・受けられない地域との格差はむしろ広がる可能性も出てきます。

こうして見ると、2024年度の改定率次第では、事業所経営の安定化に向けた国の政策パッケージ自体が崩れてしまうという事態にも追い込まれかねません。国がとれる選択肢が少なくなれば、介護保険制度そのものの信頼性は危機的に揺らぐことになるでしょう。

このように、国のあらゆる政策が追い込まれるという状況を考えても、地域における介護基盤の立て直し機会は今をおいてありません。その点で、2024年度の改定率は大きな分水嶺になると考えるべきでしょう。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。