元日の現場を襲った能登半島地震。 BCP機能をめぐり想定される3つの課題

元日、能登半島を中心とした北陸地方で大きな地震が発生しました。被災された方々には、心よりお見舞いを申し上げます。懸念されるのは、極寒の季節に避難所生活が長引くことでの健康被害などです。介護施設・事業者も大きな被害を受け、業務継続や利用者の安否確認についても困難な状況が続いています。

BCPでは、平時の「渉外力」も問われる

今回のような大規模災害が発生した場合、4月から完全義務化される業務継続の取組みがどこまで機能したのか、機能していないとすれば課題はどこにあるのか──いずれ、国および業界全体で考えなければなりません。

たとえば、BCP(業務継続計画)では、自事業所・施設が被災した場合の応援要請に向けて、日頃からどのような連携体制を築くかをきちんと定めておくことも必要です。厚労省のガイドラインでは、個別に連携体制を構築するケースにおいて、平時からの連携先との協議や協定書の締結なども求めています。

もちろん、広域からの災害派遣福祉チーム(DCAT。介護福祉士やホームヘルパー、看護師などで構成)などが派遣されることもあります。その場合でも、円滑な受入れに向けて、利用者情報等の共有のあり方などを、派遣元の業界団体などと事前に協議しながら定めておくことが望まれます。

つまり、BCP策定に際しては、事業所・施設内で話し合うだけでなく、外部との実務協議の機会が求められるわけです。現場の「渉外力」が試される部分と言えるでしょう。

改定年の1月というタイミングに注意

ただし、ここに懸念される問題があります。第1に、災害発生のタイミングです。今回のケースでいえば、2024年度に向けた介護報酬・基準改定が間近に迫り、1月中には詳細な単価・基準が示されます.

次の改定案などを見ても、現場実務にさらなる上乗せが生じています。先の業務継続の取組みなど、2024年度から完全義務化される実務もあります。つまり、被災地への応援派遣を想定している事業者・法人としては、いつも以上に、組織内でのさまざまな実務負担が生じている可能性が高いといえるでしょう。

もちろん、「被災地のことを考えれば、そんなことは言っていられない」と、ほとんどの事業者・法人は考えるでしょう。派遣される職員も同様かと思います。しかし、いつもと異なるバイアスのかかり方は無視できません。

どんなに応援意欲が高くても、派遣側にかかる負担増は、被災地でのさまざまな対処にかかる限界値を下げる可能性があります。限界値が下がれば混乱も増え、それがまた限界値を下げるという悪循環も懸念されます。結果、応援に入る職員も受け入れる側の職員も燃え尽きのリスクが高まりかねません。

物価高騰で、平時からの備蓄確保の状況は?

2つめに注意したいのが、被災地において「平時からの備蓄確保」が追いついていないという可能性です。大きな要因は、言うまでもなく物価高騰です。これにより、BCPで必要な備蓄計画を設定しても、実際の確保が先送りされているケースを聞くこともあります。

もちろん、BCPで設定した備蓄の確保については、自治体等の助成金(地域医療介護総合確保基金を使ったものを含む)が利用できるケースもあります。小規模事業所についても、たとえば中小企業振興公社では「BCP実践支援助成金」を設けている所もあります。助成対象の中には、緊急時用の非常食や簡易トイレなども含まれています。

とはいえ、これらの助成金の多くは、BCPをすでに策定していることが要件となっています。小規模事業所の中には、2024年3月末のぎりぎりまでかかる所もあるでしょう。そうなると、今回の被災地でも、物価高騰により十分な備蓄確保ができていないケースが想定以上に多くなっている可能性もあります。

被災直後にこうした状況が広がっているとすれば、応援派遣が入った時点での現場の受け入れ体制にも影響がおよびます。やはり、応援側・受入れ側双方で対処の限界点が下がっている可能性を想定しなければなりません。

東日本大震災時と比べ、専門職数も気になる

加えて3つめの問題となるのが、専門職人員の不足です。東日本大震災の時と比べれば、深刻な被災地域の範囲は限られます。しかし、当時より要援護の高齢者は増え、専門職の不足も進んでいる中で、「人員は足りる」と見込むのは早計でしょう。仮にボランティアは集まっても、専門職が足りないという状況がじわじわと浮上してくるかもしれません。

以上の点を考えたとき、国として介護現場への支援体制を構築する際に、さまざまな社会的バイアスがかかっているという点を意識することが欠かせません。場合によっては、2024年度の報酬・基準の一部についても、被災地や大規模な応援派遣等を行なう事業所・施設での施行を遅らせたり、応援派遣のための人件費等のさらなる上乗せなどを図るといった対応策が必要になりそうです。

BCP策定等の義務化が進む中で、国としては「一定の効果は上がっている」と見込んでいるかもしれません。しかし、被災地の介護現場をめぐる状況は、それ以上に厳しさを増しているという見立てを怠らないこと。これが、今後の被災地支援を左右しそうです。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。