
政府のデジタル臨時行政調査会の方針にもとづき、介護現場の人員配置基準上の「情報通信機器を活用した遠隔での業務の実施(以下、テレワーク)」の取扱いの留意事項が示されました。管理者については、2023年9月に通知が出されていますが、今回は「管理者以外」にまで広げた解釈基準となります。
テレワークの規定をめぐる3つのパターン
まず、テレワークにおける「働く場所」の定義ですが、「事業所や施設以外」あるいは「居宅等のサービス提供の場以外」となります。たとえば、従事者の自宅などで情報通信機器を活用しながらの業務が想定されます。
この場合の「管理者以外」の従事者について人員配置基準との関係をめぐる留意事項は、3つのパターンに分けられます。(1)基準上に定められた人員数を上回っているケース(人員基準に定められた人員は事業所内等で働いているケース)、(2)基準上で定められた人員数を上回っていないケース(人員基準に定められた人員もテレワークを行なうケース)、(3)基準上で具体的な人員数が定められていないケース(たとえば、特養ホームの配置医などがテレワークを行なうケース)という具合です。
(1)については、「個人情報の適切な管理」を前提にテレワークを認めています。(3)は「個人情報の適切な管理」に加え、テレワークを行なう職種が職責を果たせればOKです。いずれも、条件は比較的緩やかです。
「利用者の処遇に支障が生じない範囲」とは
問題は、(2)です。この場合、「利用者の処遇に支障が生じないと認められる範囲内」という条件が付されています。今回の通知(留意事項)では、この点が職種別に詳細に定められているのがポイントといえます。
ちなみに、厚労省の2022年度老健事業で実施された従事者対象の調査では、「業務の一部でテレワークを行なっていい」という回答と「テレワークを行なうべきではない」という回答の比較が示されています。
それによれば、サービス種別を問わず、A.介護・看護職員についてはおおむね後者が前者を上回っています。逆に、B.ケアマネ(施設等ケアマネ含む)や生活・支援相談員は前者が上回っています。C.サービス種別によって前者が上回ることもあるのが、機能訓練指導員や管理栄養士・栄養士です。
A.については、「書類作成等の事務作業」は、利用者の処遇に支障がないよう十分配慮すればテレワークはOK。ただし、「直接処遇の業務」については認められないとしています。
C.の機能訓練指導員についても、「直接処遇による機能訓練」はテレワークNG。「集団による機能訓練で、他の従事者のサポートがあった場合」でもやはりNGです。大画面モニター等で集団による機能訓練を行なうといったケースなどが想定されますが、今回の通知ではこれも「支障あり」という判断です。
テレワークによるケアプラン作成上の条件
では、B.にあたる居宅ケアマネはどうでしょうか。このケースで、「書類作成等の事務作業」はA.等と同様に「支障なし」としています。ただし、ケアプラン作成については、適切なアセスメントやモニタリングが行われることへの「留意」が示されています。
このアセスメントやモニタリングですが、アセスメントについては、基準省令第13条7項で「利用者の居宅を訪問し、利用者・家族に面接して行わなければならない」とされています。この省令上の規定から、テレワークは想定されていないことになります。
一方、モニタリングについては、2024年度改定で「一定条件を満たした場合のオンラインによるモニタリング」が可能となりました。ただし、条件ハードルは決して低くありません。ちなみに、このオンラインによるモニタリングを含め、オンラインによるサ担会議でも「利用者・家族との意思疎通が十分にとれるよう、留意すること」としています。
後進教育などについて方針の明確化が重要に
こうして見ると、居宅ケアマネに関しては、「利用者とのコミュニケーションを通じた情報収集」について「十分な意思疎通」が大きなポイントとなっています。ただし、逆に言えば、的確な意思疎通のもとに利用者情報が収集できれば、ケアプラン作成も「十分な個人情報保護のもとでのテレワークはOK」とする事業所も増えていくかもしれません。
そうなると、居宅ケアマネの働き方としては、「利用者宅(あるいは医療機関やサービス提供事業所)に直行し情報収集を行なう」⇒「その後は直帰してテレワークでケアプラン作成などを手がける」ことも想定されます。
問題は、複数ケアマネがいる事業所での利用者情報の共有や、ケース検討などの機会をどのように確保するかにあります。
基準上や加算要件上の各種委員会等の開催は、「オンラインでもOK」という流れは強まっています。ただし、後進への適切な相談援助や指導・教育を考えたとき、テレワークの拡大に際し、事業所としての独自方針をより明確にすることが必要になりそうです。
このあたりの現場教育に絡むケアマネ実務について、厚労省が基本報酬上できちんと評価する流れが確立されないと、今回のテレワークにかかる規定は、かえって現場に混乱をもたらしかねません。15日から「ケアマネジメントにかかる諸課題に関する検討会」がスタートしますが、「事業所内のケアマネ同士のコミュニケーション」などについても重要課題として取り上げる必要がありそうです。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。