
厚労省の「ケアマネジメントにかかる諸課題に関する検討会」では、ケアマネの業務範囲も論点の1つです。背景には、利用者ニーズの多様化・複雑化がありますが、そこに制度が追いつかず、ケアマネ心理の揺らぎを強めているといった点も注意が必要です。
「ペットの世話」、1割が業務外と断言できず
介護関連業界の職業別組合である日本介護クラフトユニオン(NCCU)が、組合員の所属する事業所のケアマネ向けに実施したアンケート調査の結果を公表しました。実施時期は今年の4月下旬から5月上旬と、2024年度改定以降の直近の状況が反映されています。
本稿で注目するのは、本来ケアマネの業務か否かを項目別に尋ねた質問です。示された項目から「本来ケアマネの業務範囲でないと思うもの」を複数回答で選択するものです。上位3つは(1)「ペット、植物の世話」(88.6%)、(2)「利用者の入退院時の生活用品等の調達」(81.1%)、(3)「介護保険上では対応できない生活支援(買い物、銀行等の手続き、粗大ごみの対応等)」(79.9%)となっています。
以上の3つなら、さすがに「業務範囲でない」の回答は高率にはなるでしょう。一方で、1~2割が「業務範囲ではない」と断言できていない点も気になります。また、実際に「それをしたことがある」という回答を見ると、上記の(1)は1割強ですが、(2)は5割、(3)は6割にのぼります。「業務範囲ではない」とは思いつつ、「やらざるを得ない」状況に追い込まれている様子も浮かんでいます。
2024年度改定等による環境変化も影響?
ちなみに、厚労省も老健事業で同様の調査を実施していて(2023年10月時点)、それによれば、(2)(3)にあたる項目を「対応した」という回答は2~3割となっています。
老健事業調査の方が回答者数は3倍近いので信頼度は高そうですが、気になるのは、4月の改定以降に現場のケアマネから「利用者から業務外の要求を受ける頻度が高まった」という声をたびたび聞くことです。
改定、あるいはその他の社会状況の変化(物価上昇や年金改定など)を機に「要求度合いが高まった」かどうかは定かではありません。しかし、たとえば制度上の変化がもたらす要因も想定される中、厚労省としても、継続的に「業務範囲」をめぐる調査が必要でしょう。
その際に特に意識すべきなのが、介護保険外ニーズにかかる対応だけでなく、「介護保険の範囲内」におけるケアマネ実務の状況にも着目することです。ここには、ケアマネが陥りやすい状況を掘り下げるヒントがあります。
「介護業務も業務範囲」とするケアマネも…
冒頭で述べたNCUUの調査では、「ケアマネの業務範囲でないと思うもの」の選択肢の中に「介護業務」が入っています。訪問介護の生活援助的な業務なども含まれると思われますが、恐らくは身体介護(トイレや着替えの介助など)も含まれていると思われます。
調査では、この「介護業務」について「業務範囲ではないと思う」の回答は54.1%。つまり、4割強は「業務範囲かもしれない」という意識がうかがえます。たとえば、モニタリングで訪問した際、トイレ介助の必要な利用者の意向を受けて、ケアマネ自らが介助を行なったという話を聞くこともあります。
多くの場合、「本来ケアマネの業務ではないが…」という意識はあります。それでも、地域にサービス資源が足りず、うまく調整できない…などの「負い目」があったりするとどうなるでしょうか。もともと「介護専門職がいるのに、家族にさせていいのだろうか」という迷いが生じがちな中、「やらざるを得ない」という空気に追われることも考えられます。
とはいえ、「業務範囲ではない」という意識と相反する行動を起こすのは、専門職としてストレスであることに違いありません。そこで、たとえば「利用者のADL状況を確認する機会にもなり、モニタリングの一環である」といった理屈を、自身に言い聞かせるといった心理が生じている可能性もあります。
こうした「自身への言い聞かせ」が積み重なると、「そもそもケアマネにとって業務範囲かもしれない」という自己暗示も強まるでしょう。これが、先の「介護業務」をめぐり「業務範囲ではないと断言できない」という割合の高さにつながっているのかもしれません。
現場の「前のめり」を転換させる役割再編を
倫理観のぜい弱さと言ってしまえばそれまでですが、ケアマネをこうした心理に陥らせる環境は強まる方向にあります。
利用者の生活課題が多様化・複雑化する中で、保険外の支援策の必要性は高まる一方です。国は、そうした支援策との連携やインフォーマルサービスのケアプランへの位置づけなどをケアマネに求める動きを強めています。
そうなると、利用者の生活をトータルで支援するという意識が強いケアマネほど、介護保険外の支援に自らがタッチ(保険外手続き等にかかわるなど)しようといった「前のめり感」はどうしても生じがちです。
これを防ぐには、ケアマネの業務範囲の明確化や利用者・家族への理解促進も重要ですが、地域において利用者のパートナーとなりえる公的・民間の支援職の立ち上げや育成に力を注ぐことも不可欠でしょう。
ケアマネは、常に「自分がやらなければやる人がいない」という立場に立たされやすく、それゆえに「自身への言い聞かせ」が生じやすい専門職でもあります。国は長年それに依存してきた流れもあり、それを転換させるだけのインパクトある役割再編が必要です。
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◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。