
経済財政諮問会議で、「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)2024」の原案が示されました。介護保険関連で、2割負担者の範囲やケアマネジメントに対する給付のあり方などの論点が上がっていますが、ここでは「経済成長」とのかかわりも深い「ビジネスケアラー」への対応を中心に取り上げます。
親等の介護に直面する労働者は今後も増加
ビジネスケアラーについては、1年前に出された骨太の方針2023でも「介護と仕事の両立支援の促進」がうたわれています。この方針の具体化に関しては、今国会での育児・介護休業法の改正によって、雇用側のビジネスケアラーへの配慮義務が強化されました。
ただし、ケアラーにとっての直接的な受け皿となる介護サービス基盤(人材確保含む)となると、2024年度の報酬改定を経て、ますます危うい状況になっています。介護休業制度などを適切に使える環境が整ったとしても、肝心のサービスが地域に不足すれば、介護と仕事の両立を長続きさせることはできません。
今後、若年の労働力人口が減少するとなれば、「現役世代」の中でも、タイミング的に親や配偶者の介護に直面する労働者は増えていきます。そうした人々に対し、いくら雇用側が両立支援制度の適用に熱心になったとしても、介護離職を防ぐのも限界が生じがちです。
介護離職が抑えられず、企業の人材不足が進めば、政府の目指す経済成長にも大きな足かせとなるでしょう。労働収入が減少すれば、税収や社会保険料の徴収もままならなくなり、国の財政悪化も進むことになります。
ビジネスケアラー対策は介護保険「外」で?
ビジネスケアラーをめぐる課題について、「骨太の方針2024」の原案で打ち出しているビジョンを見てみましょう。冒頭で述べた第10期介護保険事業期間の開始前までの検討課題に加え、以下のように述べています。
それが、「深刻化するビジネスケアラーへの対応も念頭に、介護保険外サービスの利用促進のため、自治体における柔軟な運用、適切なサービス選択や信頼性向上に向けた環境整備を図る」という内容です。「介護保険サービス基盤の充実」ではなく、「介護保険外サービスの利用促進」が打ち出されています。
介護保険外サービスが、「給付外」のいわゆる総合事業(その他の地域支援事業含む)を指すのか、「保険財政を使わないサービス」を指すのかという範囲は不明です。ただし、同じ項で「軽度者への生活援助サービス等に関する給付のあり方」を上げている点で、「総合事業の範囲拡大」のビジョンとの整合性をつけようとしていると考えるのが自然でしょう。
介護基盤を支える人材確保にも力強さ見えず
ちなみに、「骨太の方針2024」の原案で目立つ文言が「歳出改革努力の継続」です。ビジネスケアラーへの対応として、「介護保険外」のしくみが前面に出るのも、この「歳出改革努力の継続」との矛盾を生じさせないという苦心の現れかもしれません。
とはいえ、それによって「ビジネスケアラーへの対応」の中身がかすみがちなのは事実です。出口戦略となる「介護保険サービスの担保」という点での力強さが欠けているために、先に成立した改正育児・介護休業法の効果も見えにくくなるでしょう。
こうした力強さが欠けるのは、ビジネスケアラーをめぐる対応ビジョンだけではありません。介護サービス基盤を大きく左右する介護人材の確保についても、要介護世帯の安心を生み出す力強さが見えにくくなっています。
たとえば、介護サービスの提供体制の確保に向けて、「処遇の改善や業務負担軽減、職場環境改善が適切に図られるよう取組む」とはしています。ただし、現状の危機と照らしての具体的な踏み込みには触れていません。
なお、上記の取組みの前提として「医療機関との連携強化」、「介護サービス事業者のテクノロジーの活用」、「協働化・大規模化」、「経営状況の見える化」の推進がかかげられています。いずれも、2024年度改定で実現されたり論点となったテーマです。あくまで「これまでの取組みの継続」が前提であり、今の危機的状況を乗り切るための新たなビジョンが示されているわけでもありません。
介護の経済・財政への貢献を再評価する時代
そもそも、「骨太の方針」は経済・財政の立て直しに向けた方針であり、リアルの経営難や人材不足に苦しむ現場に向けたメッセージではない──という見方もあるでしょう。
しかし、先に述べたように、介護サービス基盤の揺らぎは、国の経済や財政の揺らぎに直結しつつあるのが現代の状況です。となれば、この方針に現場へのメッセージをどこまで込められるかが、経済・財政運営のあり方を左右する時代になっているといえます。
たとえば、これまでの介護現場の取組みがなければ、今以上に介護離職が進み、家計の損失とそれによる消費低迷により、経済状況はさらに悪化していた可能性もあります。それを押しとどめてきた介護現場の貢献やそこから生み出される価値をきちんと評価する姿勢がなければ、いわゆるプライマリー・バランス(税収等と社会保障費等の拠出のバランス)と考え方も、リアリティが損なわれます。
介護現場が担ってきた社会的価値を政府がきちんと認め、「言葉」で発信すること。これ自体が「介護業界に人を集める求心力」となるはずです。今こそ、「骨太の方針」そのもののあり方が問い直される時代かもしれません。
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◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。