全産業との賃金格差の放置により 想定を超えた危機の「加速」も

UAゼンセン日本介護クラフトユニオンが、組合員対象の「2024年の賃金実態調査」の結果を公表しています。全産業平均との賃金格差が広がる中、介護従事者の処遇の厳しさが改めて示されました。この状況を放置することで、介護人材をめぐる危機は想定以上に「加速」する可能性も浮き彫りとなっています。

賃金もさることながらサポート体制にも注目

訪問・入所・通所系の介護職員やケアマネの賃金状況については、全産業(中小企業含む)の賃金引上げ率との格差が顕著になることで、人材流出の危機が高まっています。介護職員に関しては、2023年10月時点で対前年比2.9万人減少しましたが、今後の国会審議などでもクローズアップされそうです。

ここでは、現場の賃金が十分に上がらないことによる、介護職員やケアマネをサポートする環境の弱体化に注目します。

国は加算算定や補助金支給の要件として、長年にわたりさまざまな実務の上乗せを図ってきました。つまり、一定の賃金を確保するためには、それなりの実務をこなさなければなりません。介護現場の処遇が、国民の保険料や税金によって支えられている点を考えれば、サービスの質を向上させるための「一定の実務」は、確かに求められるでしょう。

しかし、その実務が現場の体制構築を超えたスピードで積み上がるとなれば、そのサポートにいかにお金をかけるかが、前提として問われてきます。その部分がしっかりと固められないと、「加算も補助金も取れない(あるいは取るのに時間がかかる)」まま、実務負担だけが先行しかねません。これが人材確保をさらに困難にするという悪循環を生みます。

事務職の声からも浮かぶ、現場の「悪循環」

その「悪循環」は、今回の調査の自由記述の中からも浮かび上がっています。

注目したいのは、いわゆるサポート業務を担う事務職の声です。たとえば、「事務業務は日々増やされているのに、最低賃金のまま(時給制組合員)」という声。あるいは「新しいしシステムに変わるたび、私たち事務員は必死になって業務に滞りがないように業務しているけれど、それを評価されることは一切ない(月給制組合員)」という声もあります。

これだけを見ても、国が設定する処遇改善加算の「介護職員以外への賃金反映」がほとんど進んでいない様子も現れています。

また、以下のような声もあります。「私は介護スタッフではありませんが、事務所にいながら要介護の方の見守りや認知症の方の対応を多くしております」というものです。

小規模な施設や事業所の場合、利用者のいるフロアと事務作業を行なうフロアが明確に分かれていないこともあります。いわゆる介護助手等が手がける「間接業務」もそうですが、「間接」とはいえ「利用者対応」をしなければならない場面は、現場の状況によって多々あることも想定しなければなりません。

業務改革のフローは、一律には動かない

こうしたケースは、居宅介護支援でも同様でしょう。確かに、一定の規模がある事業所であれば、事務職は給付管理業務などに専念して「電話対応」などは、別の職員が手がけるという業務分担ができるかもしれません。

しかし、それだけの明確な業務分担を図れる余裕がない場合、事業所内に管理者や担当ケアマネが不在となるケースであれば、事務職が「利用者からの電話対応」などを手がけなければならない場面もあります。

こうした状況に対して、「業務の切り分けを明確にできるマネジメントが必要」とか「事務業務は事業所間で協働化して、事業所内業務の効率化を図る」といった生産性向上策を打ち出すだけでいいのかどうか。

たとえば、現場の業務改革を進める一定のフローチャートがあるとして、チャートを進行させていくうえでは、必ずどこかで現場の業務に負荷がかかります。規模の限られた事業所であれば、できるだけ特定の人員に負荷が集中しないように、フローの流れを「分散」させることが必要になります。

物価上昇加速という時代状況を考えるなら…

「フローを分散させる」ということは、必要な業務改革を完成させ、それを軌道に乗せるまでに一定の時間を要することになります。

その間、「分散させる」とはいえ、(事務職を含めて)従事者1人あたりには、それなりの業務負荷が継続します。そうなれば、継続的な諸手当等の上乗せも必要となるでしょう。

それが行われず、たとえば先に述べた「最低賃金額」が長期にわたって続いたりすれば、「背に腹は代えられない。生活が苦しくなるから他産業へ転職する」という動機も高まりかねません。特に物価上昇のスピードが速くなっている昨今では、フローの分散で「時間が延ばされる」のは死活問題になりがちです。

これをカバーするには、国が想定する処遇改善加算でのベースアップだけでは足りず、(事務職を含めて)全従事者にまんべんなく業務負担手当て等が行き渡るだけの継続的な「基本報酬の引き上げ」が必要となります。

こうした昨今の状況に照らせば、継続性を可能とする「期中改定」はもちろん、「賃金・物価スライド」などの導入の検討も不可欠でしょう。事務職を含めた幅広い職種の離職が進めば、介護職やケアマネの働きづらさは目指すべき賃金アップを超え、介護現場の苦しさは「加速する」ことになりかねません。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。