ケア労働者の全国一斉ストライキ。 スタンスを問わず広げておきたい視野

物価上昇にともない、全産業で4%超の賃金増が図られる中、介護・医療業界では同等のベースアップが追いつかず、逆に一時金などの減少も見られます。こうした状況を受け、日本医療労働組合連合会(医労連)は、3月13日に介護・看護職が働く事業所の全国一斉ストライキを行なうこととなりました。

「命の砦」でのストライキをどう考えるか?

介護・医療現場は、他産業と異なり、国民にとってはいわば「命の砦」です。そうした現場でのストライキについて、医労連は「苦渋の決断」としていますが、社会的にはさまざまな意見がどうしても生じがちです。

確かに、一時金の減少で実質的に「賃下げ」という状況を見れば、介護・看護の離職者が急増し、人々の命を守る体制が揺らぐのは必至です。その点で、「介護・看護職の早期賃上げが不可欠」という社会の理解はあるでしょう。しかし、いったんストライキとなれば、通常と異なる業務体制を取らざるを得ません。

医労連としては、ストライキ中は現場に保安要員を配置して利用者の安全を確保する、利用者・患者の命にかかわる部署では行わないなどの対策を打ち出しています。

とはいえ、私たちの健康を担う現場、特に重度化しやすい高齢者が中心となる介護現場などを想定した場合、働く人々の間でも「ストライキという手段」について、人によって見解が揺らぐことも考えられます。

看護職等のストライキの歴史を振り返ると…

そうした時、1つの考える材料としたいのが「過去の状況」と「世界の状況」です。時間と空間の視野を広げることで、自分たちの取るべき立ち位置も浮かんできます。

これまで、介護現場でも法人・事業所単位で、職員の待遇改善等を求めてストライキが行われたケースはあります。ただし、今回は国の施策改善を求めて、全国一斉で行なわれるという点が大きなポイントです。

これに対し、看護職に関しては1968年に夜勤制限(夜勤の2人体制・月8日以内)などを求めた、いわゆる「ニッパチ闘争」でのストライキがあります。また、国の総医療費抑制策を受けて始まった1989年からの「ナースウェーブ行動」では、10万人の看護師が半日ストライキなどを行ないました。その際には、患者も含めた医療改善署名も500万以上集まり、過去最高水準の賃上げのほか、看護師確保法の制定にもつながっています。

昨年の春闘の時期でも、全国の国立病院で働く医師や看護師が、やはり賃上げを求めて全国一斉ストライキを行ないました。このように、近年に至るまで看護職を中心としたストライキは幾度となく実施されています。

コロナ禍を得た世界各地でのストライキ状況

世界の状況を見てみましょう。たとえば、福祉先進国とされる北欧諸国では、新型コロナの感染拡大を主たる契機として、全国規模での看護師等のストライキが頻発しています。

2021年にはデンマークで、賃金改善を求めた看護師の全国組合が政府の協定案を不服として、ストライキを実施。デンマーク内の看護師の約1割が参加したとされます。

2022年には、フィンランドで医療・福祉従事者によるストライキが断続的に行われ、最終的に3万5000人が参加しています。2024年には、スウェーデンでも公共部門の看護師等が、長時間労働などの改善を求めて16年ぶりにストライキを行いました。

北欧以外でも、2023年にはアメリカで7万5000人以上の看護師等がストライキを決行したことが話題となりました。2024年には、イギリスで介護職員がストライキを行なっています。こうして見ると、多くの国々で介護・看護従事者の処遇への不満が高まり、強い要求行動につながっている様子が浮かびます。

なお、公共サービス部門の国際労働組合であるPSIによれば、世界保健機構(WHO)の事務局長が「すべての国に対し、医療・介護従事者の労働権を保護するよう呼びかける」と発言した旨を報じています。WHOの事務局長の発言は、極めて重い意味を持ちます。

ストライキ前提の現場従事を考える時代に?

このように、わが国の過去の状況や世界の現状において、(主に看護師中心とはいえ)ストライキは時代の節目ごとに、国や事業者に処遇改善等を求めるための重要な手段として行なわれてきました。先に述べたように、ストライキの結果、現場の従事者保護に向けた施策や法制定が実現したケースもあります。

一方で、ストライキによって処遇改善等を切り開くには、影響を被る利用者・患者の支持があってこそという歴史もあることを忘れてはなりません。今回の医労連の患者・利用者の安全確保等に向けた対応は、他国のストライキ事情と比べても、過去の経験を十分に考慮した様子がうかがえます。

そもそも、ストライキは労働者の団体行動権として憲法された基本的人権の1つです。と同時に、「現場が今どのような状況に追い込まれているか」という認識を、社会全体で共有するための不可欠な手段でもあります。

基本的かつ不可欠な手段であるからこそ、現場としては「ストライキを前提とした場合、利用者や家族の理解をいかに得るか」を常に考えることが、今後は従事者の必須スキルの1つとなるのかもしれません。厳しさが募る介護労働現場だからこそ、よりよい未来を切り開くために、心に留めておきたいものです。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。