与野党ともに「業界支援」の声は大きいが…。 なぜ合意できない? 政府は動かない?

与党・自民党が、医療・介護・福祉の現場に対する支援策拡充を訴える集会を開催し、首相への「申し入れ」の緊急要望を決議しました。介護報酬等の賃金・物価スライド導入や期中改定の検討を求めたものです。政府の施策を大きく動かす契機となるのでしょうか。

自民党の緊急申し入れで注目すべきポイント

今回の集会に先がけ、昨年12月に厚労大臣や財務大臣宛てで出された緊急申し入れの趣旨をもう一度整理してみましょう。

A.介護報酬等(診療報酬、障害福祉サービス報酬含む)に物価・賃金スライドを導入すること。さらに、期中改定も視野に入れること。

B.社会保障予算の目安対応について、財政フレームの見直しを行ない、「高齢化の伸びの範囲内の抑制」の取扱いを改め、「物価・賃金の上昇」を踏まえたしくみに見直すこと。

C.機械的な薬価引き下げの廃止を含め、薬価改定のあり方を見直すこと。

D.小児医療・周産期体制について、人口減少で対象者が激減していることから、体制整備を維持するための別のしくみを検討すること。

介護現場として注目するのは、もちろんA.でしょう。ただし、報酬以外のより幅広い社会保障予算のあり方に言及している点で、実はB.も見逃せないポイントであるとともに、利用者・患者負担(以下、当事者負担)のあり方とも大きくかかわります。

社会保障予算のあり方を根本から変える?

たとえば、昨年末から今年にかけて、当事者負担をめぐって大きな課題となったのが、高額療養費の負担限度額の引き上げです。これについて、日本医師会などは「社会保障関係費の伸びを高齢化の伸びの範囲内に抑制する(いわゆるシーリング)という考え方に起因している」という問題点を指摘しました。

これは高額療養費の問題だけでなく、介護保険における利用者負担増などの議論にもかかわってきます。日本医師会などは、このシーリングの考え方を撤廃し、「賃金・物価の上昇を踏まえること」と主張しています。それは、そのまま今回の自民党の緊急申し入れにも反映されたことになります。

ちなみに、このシーリングは、財政規律を維持するために、各省庁が毎年度予算で提出する概算要求の上限を縛るルールという位置づけです。厚労省が社会保障関係予算の概算要求を提出する際には、先の「高齢化の伸びの範囲内」に抑えることが求められます。

この考え方を見直し、「他産業の賃金や物価の上昇」という新たなフレームを構築するということは、社会保障予算のあり方を根本から変えることにもつながってくるでしょう。

野党提出の法案にも同様のビジョンが…

この考え方は、今国会で複数野党が共同提出している「介護・障害福祉従事者処遇改善法案」の内容にも関係しています。

同法案では、従事者1人あたり月額平均1万円の賃金上昇を図るための助成金支給等が中心です。ただし、それ以外に「報酬の基準を定めるにあたっての配慮」も示されています。その配慮とは、⑴事業者のサービス提供の安定的な継続に資すること。⑵従事者の賃金改善等による、将来にわたる職業生活の安定・離職の防止に資することというものです。

⑴は物価上昇への配慮が当然含まれ、⑵は他産業の賃金上昇が考慮されることになります。その点では、やはり現状のシーリングの考え方を転換することになります。

このように、与野党ともに社会保障にかかる財政のあり方の大幅見直しとその方向性については、一致していることになります。「国会」の見解がこの点で一致しているとなれば、議員内閣制で成り立っている「政府」としては、何らのアクションを起こさざるを得ない──これが「筋道」となるはずです。

次期選挙の一大争点ゆえ身動き困難の皮肉

しかし、ここにさまざまな政治的思惑が絡んでくると、「筋道」がなかなか通らなくなるという現実も立ちふさがります。

たとえば、4月23日の国会の厚労委員会では、野党議員が「与党の政府への緊急申し入れや集会」の件や「夏の参議院選挙で与党が介護等従事者の処遇改善を公約に盛り込むと聞き及んだ」旨を取り上げています。

そのうえで、与野党ともに介護現場の苦境に関する問題意識を共有できているのなら、野党提出の「介護・障害福祉従事者処遇改善法案」を審議してほしいと訴えました。というのは、今年1月に提出された同法案が、審議されないままとなっているからです。

一方、与野党の動きに対する厚労大臣の見解ですが、すでに施行された追加施策(処遇改善加算の要件弾力化や補正予算による支援策など)の効果などをまずは精査する。さらなる施策については、「状況を見極めたうえで」──という答弁にとどまっています。

こうして見ると、やはり今年夏の参議院選挙に向けての駆け引きが強まっている感があります。それだけ介護現場の苦境が、次期選挙の一大争点になってきたとも言えますが、それゆえ、与野党ともに(かけ声は大きいものの)、合意形成への身動きが取りにくくなっているという皮肉な状況も浮かびます。

しかし、今の介護・医療・障害福祉の状況に向けては、選挙をはさむ・はさまないに関係なく、迅速かつ継続的な支援策の必要性は誰の目にも明らかです。与野党合意を速やかに進めつつ、政府の動きをいかに促すか。ここは、業界・職能・労働団体が足並みを揃え、調整力を発揮することが求められそうです。

 

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。