
今年も新年度(2026年度)予算の概算要求が示されました。予想される期中改定は、その動向がまだ明らかでないため今概算要求時点では反映されていません。あくまで給付以外での現場支援の上乗せが焦点です。今回は、特に存続が危ぶまれる訪問介護に着目します。
訪問介護のタスクシェア・シフト推進の事業
訪問介護に特化した支援策として示されたのが、「訪問介護における人材確保のためのタスクシェア・タスクシフト推進支援事業」です。具体的には、都道府県による「訪問介護事業者」と「地域の多様な人材等」との連携・調整に始まり、業務の切り分けに関するガイドライン作成等を支援するというものです。
言い換えれば、訪問介護事業所が、地域のボランティア組織や就労支援事業所、家政士(日本看護家政事業協会が認定する資格)などと連携しつつ業務分担(タスクシフト・タスクシェア)を進め、それによりホームヘルパーの負担軽減を進めるというものです。
この施策の概要を見ると、タスクシフト・シェアによって多様な人材等が担う内容に「生活援助」の内容が含まれています。素直に受け取るならば、訪問介護から「生活援助」を切り出したうえで、そのニーズを介護保険外の多様な資源にマッチングさせる施策像が浮かびます。それにより、「ホームヘルパーは身体介護など専門性を活かした支援に注力」し、負担軽減につなげるというわけです。
同事業における「生活援助」の位置づけとは?
もちろん、上記の概要では「生活援助」を「切り出しの対象にする」とは明記されていません。ホームヘルパーにもたらす負担軽減効果も、「身体介護に注力(できる)」ではなく、「身体介護など専門性を活かした支援に注力(できる)」という表現になっています。
では、この「専門性」に「生活援助」は含まれるのでしょうか。含まれるとするなら、「専門性のある生活援助」と「そうでない生活援助」の違いは何か。この点が「分かりにくい」というより、あえて「あいまい」にしているのでは──とつい考えてしまいます。
ちなみに、この概算要求の「補助対象経費」を見ると、「業務の役割分担ルールの策定や実証事業の実施」が示されています。これだけを読むと「訪問介護の役割を再編するためのモデル事業」などが思い浮かびます。
さらっと記してはいますが、ここには重大な施策転換が潜んでいると言えます。なぜなら、訪問介護による給付範囲をどこまで絞り込むのかについて、将来的な改編をにらんだモデル事業等を実施するといった「今後の施策工程」が示唆されているからです。
訪問介護の業務を絞り込むなら、報酬は?
今概算要求の意図を整理すると、以下のようになります。すでに「訪問介護事業者がない地域」も出現している中で、A.訪問介護の機能を再編し、B.従来ニーズの一部に保険外の多様な資源をあてる──という具合です。
Aの「再編」が「生活援助の一部をタスクシフトさせる」のであれば、先に述べたように「業務の絞り込み」を意味します。しかし、生活援助にも専門性はあるわけですから、その「絞り込み」はイコール「報酬減」という連想が当然働くでしょう。「訪問介護の報酬引下げ」が社会的にも大きな批判となっている中、大きな問題に発展しかねません。
だからこそ、「専門性の範囲」は地域の実証事業(モデル事業)等に委ねて「あいまい」にしつつ、「ホームヘルパーの負担軽減」に資することを強調したのではないでしょうか。
なお、仮に期中改定が行われれば、訪問介護の基本報酬引き上げの可能性は高いでしょう。ただし、すでに相当なダメージを負っている訪問介護が、それで立ち直れるかといえば楽観はできません。長期的な厳しさを考えれば、厚労省が「訪問介護の機能の一部を保険外資源に移す」という方向に舵を切りつつあるとしても「ありえる話」かもしれません。
今こそ「訪問介護の専門性」に適切な評価を
とはいえ、訪問介護が築いてきた社会的価値を考えれば、安易な話でしょう。たとえば、生活援助を通じて利用者の変化に気づき、重度化防止に資した事例はたくさんあります。そこには確かに専門性があり、もっと言えば、身体介護との一体的な評価が安定して行なわれれば、その専門性はさらに発揮される──これが長年現場が訴えてきた認識です。
そうした「利用者の生活を総合的に支えていく」観点から、その専門性をしっかり評価する作業が行われてきたのか。「生活援助など家族が担う家事の延長」といった根強い偏見が、適切な評価作業を阻んできたのではないか。その専門性軽視の流れが、今の訪問介護の苦境を生み出したと言えないでしょうか。
この点を見据えれば、本来行なうべきは「訪問介護の専門性を正しく評価する」ための事業であり、「専門性をあいまいにしたままのタスクシェア・シフト」ではないはずです。
今概算要求では、通所介護等に訪問機能追加を推進する事業も見られます。これも本来なら、「訪問介護の専門性」をきちんと評価・整理したうえでなされるべきでしょう。それなくしては、「通所介護が果たすべき役割」とう基盤まで揺るがすことになりかねません。
資源が枯渇しつつある中、やらないよりまし──でしょうか。しかし、本来大切なものが後回しされ続ければ、どのような施策も「焼石に水」は見えています。長年放置されてきた課題に向き合うことが、今こそ問われます。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。