
人口減少等地域でのサービス提供体制のあり方の議論が進んでいます。厚労省から輪郭は示されましたが、人員基準等の弾力化や柔軟化、包括報酬の導入、市町村事業でのサービス実施など、いずれも「サービスの質の担保」という課題が、最後まで付いて回りそうです。
災害発生時の特例措置?にも見えかねない…
基準適用を弾力化し、柔軟なサービス提供による包括報酬を導入、そしてサービス資源が足りない状況を市町村事業によって補完する──こうしたしくみが「人口減少等」の前提抜きで示されたとします。事情を知らない人であれば、「自然災害発生時などの特例措置?」と受け取ってしまうかもしれません。
自然災害等なら、(規模によって時間に差はあるものの)いつかは「復旧する」という見通しのもと、現場や地域社会として「できる限り今までのサービスの質を維持しよう」といった意思統一ができる望みはあるでしょう。
しかし、今回の改革案は「自然災害」などの突発的かつ一時的な状況を想定しているわけではありません。あくまで人口減少や立地状況の変化による居住利用者の点在化など、中長期的な環境変化にもとづくものです。となれば、「いつまでこの状態が続くのか」という見通しを立てるのは簡単ではありません。
もちろん、地域ごとの創意工夫をもって、危機の時代に対応できる「共創力」を高めようという動きは見られます。たとえば、官民連携による新たなサービスやテクノロジーの開発・普及、多様な民間法人による協働のしくみなど、地域単位で活発に進んでいます。
しかしながら、危機的状況が好転するという見通しがなかなか立たない場合、どのような好事例でも、ある時点で限界が生じやすくなります。地方財政の持続性もさることながら、従事者の働く意欲の継続性も問題です。
テクノロジーが生み出す「介護の価値」とは
ポイントは、「サービスの質」にあります。たとえば、最新のテクノロジー等を導入しつつ、人員基準の緩和を図るなどの特例的な体制を築くとします。これにより、深刻な事故や重篤な健康悪化が防げても、「その人らしい生活の実現」に向けたQOL改善などのビジョンは見えているでしょうか。
確かに、テクノロジー導入や多様な人材によるタスクシフトなどが推進されれば、従事者の業務負担を軽減させることは可能でしょう。それにより、先の「QOL改善」などに取り組む余裕が生まれれば、それによって「サービスの質」を高めることにつながります。
一方で、仮に人員基準の緩和等がセットとなる場合、従事者の取組み余力が打ち消されてしまうという指摘がたびたび見られます。
これに対しては、「危機的状況だから仕方ない。今は、利用者の生命の保持や重篤な健康悪化を防ぐことが最優先であり、それが実現できれば自立支援の土台は形成される。それを介護保険の使命として評価するべき」という考え方もあるでしょう。しかし、それが真の「介護の未来」と言えるのでしょうか。
従事者が見すえている「未来」は何か?
先に述べたように、自然災害発生時であれば、利用者の生命を保持したり重篤な健康悪化を防ぐなど、「最低限の業務継続」に注力することは、介護現場の重要なミッションです。
しかし、それはあくまで「非常時だから」に過ぎません。自然災害等では、地域インフラの復旧等が視野に入った時点で、「いかに利用者の生活を日常に戻していくか」という思考を起動させるタイミングはやがて訪れます。
もちろん、その時点での利用者の被災状況や健康状態によっては、「元の日常生活」を回復させることは難しいこともあります。それでも、「その人らしさ」を取り戻すための目標を設定し、その実現に向けたケアに取り組むというフローを動かすことに、非常時でも介護サービスの重要な価値があるはずです。
この価値に向けて尽力できるのも、「復旧」という未来を見すえているからに他なりません。その希望が見いだせず、延々と危機的状況が続くとなれば、従事者はどこまで頑張り続けることができるでしょうか。
従事者にもそれぞれ生活があり、未来に向けた職業人生があります。「利用者がその人らしい人生をまっとうできるような自立支援の可能性を追求したい」という未来があるとして、それは叶えることができるでしょうか。
「介護サービスの質」にかかる未来像を示す
そうした「灯り」が見えない中で働き続けるしかなく、どんなにテクノロジーが発達しても、自分たちが求める「サービスの質」に力を注ぐ余力が生まれない──となれば、特に若い人材はどうしても離れていきがちです。
この点を考えた時、「サービスの質」にかかる未来像と、その価値に見合った処遇のあり方を議論することが最優先のはず。テクノロジー等で働きやすさは増したとして、自分たちの技能は社会的に評価されるのか、評価される未来はあるのか──この疑問に答えを出すことが今後の施策の使命となるはずです。
これから人口減少期に入るとして、その前に人が離れる状況を作ってしまえば、その後の「限られた人材」を育てることもままなりません。人口減少を超えるスピードで介護従事者がいなくなっているのは、国が示す「介護の未来像」が若い世代に届いていないからではないか。サービス体制を問うのなら、この点に正面から切り込むことが必要でしょう。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。