与党・自由民主党の新総裁が誕生し、約2か月空白だった国会の再稼働にめどが立ってきました。本来であれば、一段と物価上昇や賃金格差が広がりがちな10月を前に、介護・医療への迅速かつ手厚い支援が必要でしたが、その分の巻き返しは可能でしょうか。
2026年期中改定までの「つなぎ」策が焦点に
自民党新総裁の選出を受け、新首相選出に向けた臨時国会は10月半ば以降に召集される見通しとなりました。実際の政策に向けた議論は、さらにその後となります。新総裁は補正予算の編成方針を示しましたが、実際の閣議決定は11月になることが予想されます。
昨年の2024年度の補正予算の工程を見ると、11月29日に閣議決定、12月9日に国会提出、同17日に成立しています。かなりのスピード審議となりますが、今回は衆参ともに少数与党となる中で、審議が滞ることも考えられます。いずれにしても年内ぎりぎりの成立になるかどうかと言えるでしょう。
問題は、その補正予算で何が行われるのかという点です。現場としては、早期の期中改定が望まれるところでしょう。ただし、先の「骨太の方針」が踏襲されるとすれば、「年末までに検討⇒2026年度の予算編成で反映⇒2026年度に(診療報酬と同時に)改定」という流れになる可能性が高いといえます。
となると、補正予算は「2026年度の期中改定までの“つなぎ”」の施策が焦点となります。期中改定による報酬の引き上げ幅と同等規模の補助金支給等を公費で行なうわけです。
近年の物価上昇と賃金格差をどう考慮する?
そこで気になるのは、仮に補助金支給が行われるとして、その名目と規模がどうなるかという点です。仮に、2026年度の期中改定が「近年の物価上昇」と「他産業との賃金格差の拡大」を考慮したものになるとします。
その場合、補正予算では、A.物価高騰に対応した重点支援地方交付金の上乗せや介護・医療に特化したメニュー追加、B.2024年度補正予算で設けられた介護人材確保等事業の枠組みの拡充というやり方が考えられます。
その規模ですが、2026年度の期中改定が行われると想定した場合、それに準じた「つなぎ」となるのかどうかがポイントとなります。
A.については、消費者物価指数の動向がポイントです。現下では2024年度との比較で3%程度の上昇となっています。現場としては、この規模の基本報酬引き上げに相当するだけの支給額が最低ラインとなるでしょう。
ちなみに、2024年度改定が当時の物価上昇を十分に反映していないという声も上がりそうです。そうなると、2026年度の期中改定は、上記の最低ラインからの上乗せも焦点となります。次年度予算編成の過程で、4~5%の上乗せを求める声も出てくるかもしれません。
他産業との賃金格差を埋める金額規模は?
B.については、他産業との賃金格差をどこまで埋められるかがポイントとなります。
厚労省が示したデータによれば、全産業平均(役職者抜き)と介護職員の「賞与込みの月額給与」の差は8万3000円にのぼります。介護職員に関しては新たな処遇改善加算が十分反映されていない数字ですが、それを加味した場合(+約1万4000円)でも7万円近い開きが生じていることになります。
2024年度の補正予算では、介護職員1人5.4万円相当の補助金が支給されています。ただし、あくまで一時金なので、仮にこれを1年分とすると月あたり4500円となる計算です。上記の7万円から差し引いても、まだ6万5000円程度の開きが残ります。
仮に2026年度の期中改定で、(実現可能性はともかくも)この差額を埋めるだけの処遇改善加算の上乗せが行われたとします。補正予算が年明けに執行されるとして、これに準じた規模にするとなれば、1~3月分で介護職員1人あたり約19.5万円となります。
注意したいのは、介護分野の有効求人倍率が高まるのが毎年10月頃であること。その時期を乗り越える人員確保を考えれば、さかのぼる11~12月分を上乗せさせ、事業所の持ち出し分を埋めることも必要になるでしょう。つまり、介護職員1人あたりに対する支給総額は30万円を超えることになります。
1人あたり15万円支給を補正予算の目安に
介護職員が約200万人として、予算規模は約6000億円(ここにケアマネ等の多職種を含めれば1兆円規模も)となります。さすがにそこまでの規模にはならないだろう──と思われるかもしれません。ただし、当初夏の参院選で自民党がかかげた「国民1人あたり2万円の給付金」の公約が実施されたとして、全国民一律で予算額は2兆円規模となります。
この数字と比較した場合、介護人材確保を緊急課題として予算配分を集中させれば、決して不可能な数字ではありません。もちろん、それを介護報酬で永続させるとなれば、財源構成等の議論は必要です。ただし、それくらいのインパクトがなければ、現状の介護危機は回避できないという認識も求められます。
確かに非現実的な規模かもしれません。とはいえ、少なくとも漸進的な措置として、少なくともその半分(介護従事者1人あたり15万円、予算規模3000億円)に至れるかどうか。間もなく誕生する新政権による「覚悟」のあり方を推し量る目安としたいものです。
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◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。