要介護1・2の生活援助の給付見直し、 改めて認知症の人への影響を掘り下げる

「給付と負担の関係」にかかる論点のうち、軽度者(要介護1・2)の生活援助等のあり方について取り上げます。これを議論するうえでの焦点の1つが「認知症がある利用者」への影響です。訪問介護以外のサービスにも影響を与える可能性に注意が必要です。

要支援者と要介護1・2での大きな差

過去の統計ですが、要介護度別の認知症日常生活自立度の割合は、同自立度II以上で要支援1・2と要介護1・2の差が8倍以上となっています。「家庭外」のみ周囲の人による注意を要するIIaも含まれますが、II以上で8倍以上という開きを見れば、要支援者と要介護1・2の人の自立生活状況には、極めて大きな差があると見なければなりません。

これだけ見ても、要介護1・2の給付のあり方を要支援者と同様に取り扱うことは、慎重さが求められます。このあたりは以前から指摘される課題ですが、認知症基本法も施行された今、改めて十分な分析を行なうことは、同法に規定された国の責務でもあるでしょう。

もちろん、認知症日常生活自立度II以上に該当する人については、身体介護に位置づけられる「見守り的援助」を適用すればよい──という考え方もあります。ただし、給付の範囲にかかわる問題となれば、「認知症専門医の診断を受けること」といった要件の厳格化が論点となる可能性も出てきます。

そうした受診の負担をいかに軽減するか、たとえば、認知症初期集中支援チームとケアマネジメントの連携をいかに円滑化するかという検討も必要でしょう。受け皿となる総合事業の資源状況も問われますが、上記のような認知症の初期診断・支援にかかる地域状況についても、踏み込んだ検討が不可欠です。

身体介護である「見守り的援助」は機能する?

仮に、認知症の人はすべて、「見守り的援助」による身体介護を適用するとします。しかし、本人自身の「できる」範囲が限られていると、現実的には生活援助に近くなるケースも想定されます。そうなると、サービス実態によって保険者の指導が入りやすくなりがちです。

このあたりの判断基準もきちんと統一しておかないと、さまざまな混乱も生じかねません。たとえば、本人の意向に沿わないことを(訪問時間も限られる中で)一緒にしてもらおうとするなどのケース。これは、本人の意をきちんと汲む対応ができないと、認知症の人のBPSDを悪化させる要因ともなりえます。

業務負担が課題となる担当ケアマネとしても、なるべく保険者との軋轢を避けたいという思考が生じやすいでしょう。結果、「総合事業によるサービスとして位置づけた方が無難」という方向に流される可能性も高まります。

そうなると、利用者状況との乖離が十分に解決されないまま、給付見直しの流れが形成されるという懸念も付きまといます。

認知症の人の「生活援助」がなぜ大切か?

以上の点を頭に入れたうえで、「認知症の人にとって生活援助がなぜ大切か」を改めて考えます。すべての要介護者にとって、生活をめぐる環境を整えることが、自立支援や重度化防止の点で重要なのは明らかです。

たとえば、調理は栄養状態の維持・改善に大きく寄与します。掃除は衛生の保持(夏場は食品等の腐敗リスクが問題となりがち)に加え、屋内事故の防止にもつながります。洗濯を支援することで、気持ちよく外出できるとなれば、社会参加の促進にもつながります。

これらの効果に加え、認知症の人にとっては、屋内の整理整頓が心理的な落ち着きをもたらしやすくいなります。汚れや食品の(同じものを買いためてしまうこと等での)腐敗による「臭い」を防ぐことで、心の安定を図りやすくなります。いずれにせよ、環境面からBPSDの悪化を防ぐ期待は高まるわけです。

先に述べた栄養状態の悪化防止や動線等の問題による事故防止により、入院のリスクも減らせます。入院によってせん妄やBPSDの悪化が生じやすい点を考えれば、その意味でも穏やかな生活の継続の可能性は高まります。

生活援助の給付見直しの他サービスへの影響

こうしたBPSDの悪化等を防ぐことは、通所系等の他サービス現場の負担軽減にもつながるでしょう。仮に(運動機能や療養の面で)在宅生活が困難となり、施設やGHに移ったとしても、その環境の変化によるBPSD悪化等を最小限に防ぎやすくなります。

つまり、在宅生活時の生活援助を起点として、他サービス現場での本人の「穏やかな生活」は継続しやすくなり、全般的に現場職員の負担軽減に寄与するわけです。人員不足による現場負担が増大しやすい時代には、ますます考慮しなければならないポイントです。

こうした「効果」が、総合事業で果たして実現できるのかどうか。認知症の人の心理を理解したうえで、生活環境を整えるには、プロとしての十分なスキルが必要です。これが担保できない限り、要介護1・2の生活援助の総合事業移行で制度の持続性を確保しようという考え方は、机上の空論となりかねません。

厚労省としては、先に述べた「確実な認知症診断の遂行」により、日常生活自立度IIb以上の人は「除外する」というあたりを着地点にするかもしれません。しかし、その認知症診断がどこまで担保されるかを考えた場合、やはり今回の給付範囲見直しはリスクが高すぎるという点を見すえる必要がありそうです。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。