
介護保険部会で、中山間・人口減少地域等におけるサービス提供のあり方の議論が進んでいます。厚労省案では、特に事業所減少が著しい訪問介護等を対象に、包括報酬のしくみの導入や市町村事業によるサービス提供も上がりました。こうしたしくみは、ケアマネ実務にどのような影響を与えるでしょうか。
ケアマネ負担が減る予測、増える予測
厚労省案にもとづき、地域の実情に応じた新サービス類型として訪問介護に包括報酬が導入されたとします。その場合、ケアマネの負担は軽減されるのか、それとも増えるのか。部会でもさまざまな意見が上がっています。
たとえば、「包括報酬が導入されることで給付管理業務等が簡素化され、ケアマネの実務負担は減る」という見方があります。定期巡回・随時対応型でも同様ですが、(区分支給限度基準額との関係により)包括報酬外の加算がより整理される流れになれば、実務負担の軽減が期待できる部分もありそうです。
一方で、包括報酬は、「サービス提供量を(必要以上に)抑えたい」という事業者側の思惑が生じやすいという指摘もあります。こうしたモラルハザードを抑制するための方策として、「利用者にとっての適切なサービス」を判断するためのケアマネジメントのあり方がどうしても議論の中心になりがちです。
同時に、そのケアマネジメントにもとづいて事業者と交渉したり、「もっとサービス量を増やせないか」といった利用者からの相談等にケアマネが対応せざるをえない機会が増える可能性もあります。その結果、ケアマネの業務負担は増していくという見方もあります。
サービスの質を保つためのモニタリング強化
また、事業者のモラルハザード等が生じがちとなれば、利用者の意向に沿ったサービスの質をいかに保つかという点で、ケアマネによるモニタリングの重要度も高まります。
もちろん、包括報酬によってサービス提供が柔軟化されるとなれば、「サービスのあり方がこのままでよいか」をサービス提供者自身が随時モニタリングし、ケアマネに報告する責務もより強く問われることになるでしょう。
しかし、そもそも包括報酬等を導入するのは、人員不足等によりサービス提供体制が極めて不安定な地域です。そうした環境下において、サービス提供者によるモニタリング体制を充実させることは困難をともないます。
となれば。「利用者のどのような状況に注意してほしいか」というケアマネからのオーダーのあり方が焦点となりがちです。
ちなみに、2024年度改定の「オンラインによるモニタリングを可能とする規定」において、事業者との協働モニタリングが条件として定められました。同時に、協働モニタリングのための情報連携シートも示されています。
こうした様式を活用しつつ、「オンラインか否か」にかかわらず、協働モニタリングの体制強化が図られる流れとなるかもしれません。
市町村事業によるサービス提供の場合は?
こうした点を見すえると、包括報酬の導入は、どちららかと言えば(潜在的な)ケアマネの負担を増やす可能性が高いといえます。
では、もう1つ提案されている「市町村事業によるサービス提供を可能とする案」をめぐってはどうでしょうか。こちらは、人口減少等の加速により、サービス資源の確保がさらに困難な地域を想定したしくみです。
基本となる案は市町村による事業委託ですが、委託先を見つけること自体が極めて難しくなるのは明らかです。そのため、サービス提供のパターンには地域のさまざまなサービスを柔軟に組み合わせたり、地域外からのサービス提供なども想定されています。
いずれにしても、「委託先がなかなか見つからない」場合の市町村によるサービス調整の負担は大きくなるでしょう。ただし、急速な人口減少等で資源のぜい弱性が高まる地域であれば、対応する市町村側の人材も追いつきません。包括も業務過多の状況が強まる中で、かかわる余力には限界が生じるはずです。
負担増レベルの問題ではなくなる未来像も
そうなると、市町村にとっては「サービスの質がどうの」とは言っていられない状況も生じます。最悪の場合、「なるべく利用者のニーズに叶うサービスが実現できるよう、委託先の各事業者との調整などはケアマネに任せる」という流れになる可能性もあります。
こうなると、ケアマネには負担増というレベルの問題ではなくなります。厚労省は「適切なケアマネジメントを経てのサービス提供は指定サービスと変わりはない」としていますが、見立てはかなり甘いかもしれません。
そもそも、地域のサービス確保が極めて困難ということは、居宅介護支援事業所、およびそこで働くケアマネの確保自体も厳しい状況となっているはずです。たとえば、1つの法人にサービスをまるまる委託して、その内部でケアマネジメントも担わせるなどというしくみも提案されるかもしれません。
上記のような特例中の特例とも言えるケースは、一部地域のみならず、将来的に全国に広がる懸念もあります。本来、国として手当てすべきは、自然災害発生時並みの予算と人材の投入による「地域のサービス復興」にあるはずです。地域の実情に合わせた制度の組み換えだけでは、真っ先にケアマネへのしわ寄せ、ひいてはケアマネジメントのゆがみが加速しかねません。それは、介護保険への国民の信頼を一気に崩壊させる危機となります。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。