他産業とは開くばかりの賃上げ状況。 補正予算、期中改定にどこまで期待できる?

ある程度予想されていたとはいえ、やはりショッキングな数字でしょう。厚労省が公表した、最新の介護職員等の処遇改善等調査結果の速報についてです。2025年と2024年のそれぞれ9月時点の基本給等(常勤・月給の者)の比較で、伸び率はプラス2.5%。対前年調査のプラス4.6%から大幅減となりました。

全産業との賃金引上げ差はもはや絶望的⁉

この2.5%(一時金等を含めた平均給与額はプラス2%)という数字は、先に介護関連13団体による共同調査での2025年度賃上げ率2.58%とほぼ同じです。いずれにせよ、全産業の賃金引上げ率5.25%と比較すると、その差の拡大はもはや絶望的とも言えます。

厚労省は、2024年度の処遇改善加算の見直しに際し、2024年度に2.5%、2025年度に2.0%のベースアップにつなげることを狙いとしていました。今回の賃上げ率は、確かにその数字にはマッチしていますが、物価上昇および全産業の賃上げ率は、その想定をはるかに上回っています。施策効果の見込みが完全に外れてしまったことは明らかです。

もっとも、現場としては2024年度時点で「2.5%アップではまったく足りない」と見込んでいたはずです。それゆえ、本来なら2025年度の賃上げに活用する分の加算を2024年度に使い切り(事業所・施設の「持ち出し」も加え)、それがプラス4.6%という厚労省の見立てを上回る賃上げにつなげていた状況が浮かびます。それでも、この数字が現場にとって「最低限以下」だったことは、他産業の賃上げ動向を見れば明らかです。

事業者による「持ち出し」も息切れ状況

こうした事業者の「持ち出し」を含めた賃上げも限界があり、2025年度には「息切れ」する可能性が高い──というのは、本ニュース解説でも何度か指摘してきました。

今回の速報値で深刻なのは、賃上げ率の減速もさることながら、この「息切れ」の状況も色濃くなっている点です。今調査では「加算額の一部の繰り越し状況」について、「加算額の一部を2025年度に繰り越した」が14.9%に対し、「加算の全額を2024年度分の賃金改善にあてた」が81.0%にのぼります。

2024年度の調査では、この「繰り越し状況」は「予定」でしたが、この時は「2025年度への繰り越し」が14.3%に対し、「2024年度に全額活用」が80.7%。そして、2025年度は、8割以上の事業所・施設で、見立て以上に「繰り越しができていなかった」ことになります。

2025年度に「繰り越し」できなかったのであれば、仮に処遇改善加算の区分アップが図れても、2026年度への「繰り越し」も困難となるのは明らかです。2024年度の補正予算で、介護職員1人あたり5.4万円相当の一時金が支給されましたが、あくまで一時金なのでベースアップに資するものではありません(今調査で「賞与」による賃金改善を図った割合の上昇が、これをうかがわせます)。

野党が打ち出した経済対策を目安とすると…

となれば、少なくとも2026年度の期中改定は必須、そして遅まきながらも期中改定までの「つなぎ」となる補正予算による臨時の処遇改善が頼みの綱となります。いずれも実施は確実ですが、問題はその「規模」が現場の危機解消に即したものになるかどうかです。

本稿がアップされる時点で、補正予算が閣議決定されている可能性は高いでしょう(21日の予定)。ここでは、あくまで「最低限」と思われる数字を示しますので、実際の規模を評価する目安にしていただきたいと思います。

ちなみに、最大野党の立憲民主党が11月14日に緊急経済対策を発表し、その中で介護従事者に対する月額1.5万円の処遇改善を打ち出しています。今年1月に野党3党で提出した介護従事者等処遇改善法案では月額1万円の処遇改善だったので、50%の引上げです。

冒頭の調査結果の速報では、平均給与額で対前年度比プラス6,840円(伸び率2%)。ここに先の1.5万円が上乗せされれば、前年度比2万1,840円でプラス6.5%となります。仮にこれを年間通した数字とした場合、全産業のプラス5.25%を上回ります。

補正予算での支給額、1人7.5万円のライン

もちろん、全産業との月額賃金には8万円以上の差があるので、1.5万円の上乗せは微々たる数字です。しかし、これを当面の「最低ライン」とすれば、実際に出てくる補正予算案がこれにどこまで上積みされるかを量る目安となります。仮に年明け施行で、4月の期中改定(報酬の支払いは6月)までの5ヵ月間分の上乗せとなれば、1.5万円×5=7.5万円。2024年度補正予算の一時金が5.4万円でしたから、約2万円増となる計算です。

一部報道で、今補正予算案での児童手当1人2万円の上乗せが伝えられましたが、それと比較すれば現実味のある数字かもしれません。ただし、先に述べたように、全産業平均との賃金差を考慮すれば、7.5万円は最低ラインです。ここにどこまで上積みがなされるかにより、政権の本気度が問われるでしょう。

事業者の中には、たとえば福祉医療機構等の融資を受けて事業を続けるか、ここで事業を撤退するかという瀬戸際に立つケースも少なくありません。単に予算規模を示すという以上に、地域の介護サービスの動向を大きく左右するタイミングととらえたいものです。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。