
12月1日の介護保険部会で、「持続可能性の確保」のうち、2割負担者等の範囲、補足給付に関する負担のあり方、ケアマネジメントへの利用者負担という3つのテーマに関してさまざまな見直し案が示されました。
ソフトランディングを模索する厚労省
制度の「持続可能性確保」に向けた利用者負担増については、多くの改革案がこれまで見送られてきました。しかし、今回は雲行きがやや異なります。政府としては、2023年の「全世代型社会保障構築を目指す改革工程」や本年の「骨太の方針2025」にもとづき、負担増の実現への「本気度」を高めています。
厚労省としても、こうした流れの中で再び「見送り」というゼロ回答を示すのは厳しいと認識しているようです。そのため、負担増はもはや避けられないという認識のもと、政府案に沿ったソフトランディングを模索する方向に舵を取りつつあるのかもしれません。
12月1日の介護保険部会でも、「急激な負担増とならないようにする」という配慮として、さまざまな選択肢が提示されています。
配慮措置への苦慮がさらなる制度の複雑化も
たとえば、2割負担者の拡大では、所得基準を(単身世帯で230万円から260万円の範囲で)10万円単位の4段階に区切る案が示されています。そのうえで、負担増加の上限(月7000円)を設定したり、預貯金額が一定額未満の者に対して(申請により)1割負担に戻すという配慮措置も示されました。
一方、ケアマネジメントへの利用者負担導入については、介護保険の利用控えの懸念に対して、「利用者の所得状況を勘案する」という配慮策が打ち出されています。と同時に、「利用者の所得状況」にかかわらず負担を求めるケースも示されています。
たとえば、ケアマネジメントの独立性担保の観点から、住宅型有料老人ホームやサ高住の入居者に関して利用者負担を求めるという考え方。さらに、ICTによる業務効率化が十分に進展するまでの間、ケアマネの給付管理業務等の「事務に要する実費相当分」を利用者負担として求めるという具合です。
利用者への配慮措置を「どこに・どのように設定するか」に苦慮する一方、現場や行政の実務負担の増加はもとより、制度そのものの複雑化も懸念されます。そのあたりの課題は、議論の取りまとめまで尾を引きそうです。
「現役世代の保険料減」と「利用者負担増」
先の見えない物価上昇の中、現場実務を複雑化してまで、なぜ政府が「利用者負担増」を急ごうとするのか。そこには、「今」というタイミングの問題もありそうです。
どういうことかと言えば、若年・現役世代にも物価上昇による生活苦が広がる中、特に社会保険料の負担減を求める声がこれまでになく高まっていることです。介護保険でも、現役世代が減少していく見通しの中で「2号保険料引下げ」を求める声が広がりがちです。
そうした社会状況において、「現役世代の保険料負担減のためにも、利用者負担を引き上げる必要がある」という主張は、これまでより受け入れやすい素地ができつつあります。政府としても、「今なら国民の納得を得やすい」といった見立てがあるのかもしれません。
第2号被保険者といえば、もちろん親の介護にも直面しがちな世代です。その点では、利用者負担の増加による「家計面での重荷」や、サービス控えからの「家族の介護負担増」リスクを気にする人は少なくありません。
しかし、65歳以上(第1号被保険者)のうち要介護・要支援認定者数は約2割ですから、そうした世代の子のうち「まだ親の介護には直面していない」という人が多数です。そうなると、介護サービス費用がいくらかかるかについて熟知する人も限られ、利用者負担の重さにピンと来ないケースもありそうです。
「自分ファースト」が高じる時代の介護保険
もっとも社会保険制度は、「今は当時者でなくても将来は分からない。その時に支えてもらえるよう、支え合いの理念のもとに保険料を負担する」という考え方が根っこを形成しています。その考え方は、「もし自分がその立場になったら…」という、自身と異なる立場への想像と理解が整っていることが前提です。
ところが、先の見えない物価上昇と「自己責任論」が闊歩するような厳しい競争社会の中で、「今の自分をどう守るかに精一杯」という風潮がますます強まっています。そうなると、異なる立場の人々への理解を示したり、「自分がいつそうなるか分からない」という想像を巡らせる余力は乏しくなりがちです。
こうした「分断」の構図は、利用者にとって身近な介護現場でも見られつつあります。SNSなどでは、「介護職の賃金を上げるためにも、ご利用者の負担増は仕方ない」という言説を目にする機会も増えています。
誰もが余裕を失って視野が狭まり、「自分ファースト」になってしまいがちなのは仕方ない面もあるでしょう。しかし、その国民不安に乗じた改革を断行することが、本当に「支え合いの理念を根っことする介護保険制度の持続可能性」につながるのでしょうか。
その先にあるのは、「介護保険を使うのは裕福な人で、困っている自分たちは切り捨てられる」という究極の制度不信です。介護保険が置かれているのは、そうした不信感が連鎖する社会を象徴する局面なのかもしれません。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。