
2025年度の特養ホーム入所申込者の状況が公表されました。入所申込をしているものの「入所していない」人数を、4年ごとに公表しているデータです。今調査では、4年前の2022年度調査から4.7万人の減少で、減少率は18.4%にのぼります。要介護者の増加と反比例する数字の背景に何があるのでしょうか。
入所希望者は「入りやすく」なっているか?
まずは、2022年度以前の調査までさかのぼって、その推移を改めて確認しましょう。
全体では、2019年度が29.2万人⇒2022年度が25.3万人(減少数3.9万人・減少率13.5%)⇒2025年度が20.6万人(減少数4.7万人・減少率18.4%)。このように、減少数・減少率ともに大きくなっています。
一方、在宅の人だけを取り上げると、2019年度・11.6万人⇒2022年度・10.6万人(減少数1.0万人・減少率9.1%)⇒2025年度・8.6万人(減少数2.0万人・減少率18.5%)。直近の3年間で減少率は大きくなり、全体を上回る数字となりました。
単純に考えれば、「入所を望んだ人が入りやすくなっている」となるかもしれません。実際、特養ホームは2024年度までの直近4年で施設数にして207施設(伸び率2.4%)、定員数で1万8,408人(伸び率3.1%)増えています。最新調査の年度は1年ズレていますが、トレンドで見ると、おおむね「入所したい人」の数を吸収できている計算となります。
特養以外の「選択肢」の増加も考えられる?
しかし、実際の特養ホームの受給者数を見ると、2022年から2025年の各4月時点の数字を比較すると1.1万人(プラス2%)の増加にとどまります。直近4年間の要介護(要支援)認定者数の伸びは32万人(プラス4.6%)ですから、ニーズに対して「申し込んでいない」という人も増えていることになります。
そうなると、「なぜ入所申込みに至らないのか」という状況を掘り下げなければなりません。仮説としては、有料老人ホームやサ高住などの増加により、特養に代わる「住まい」の選択肢が増えたことも挙げられるでしょう。
特養の場合、2015年度の制度改正から入所者が原則要介護3以上に絞られました。もちろん、要介護1・2でも特例入所は可能です。ただし、「入れない可能性が高い」という先入観が入所相談を受ける専門職(ケアマネや医療機関のSWなど)にも強い中で、「(有料ホームなどの)別の選択肢」の提示機会が多くなっている傾向もあるかと思われます。
特養入所を含めた相談体制の揺らぎも…
これらの状況に加え、注意したい点がもう1つあります。それは、「在宅での生活が厳しい」あるいは「入院の後、在宅での生活への復帰が難しい」となった場合、「では、今後どうするか」を身近で相談できる体制が揺らいでいる可能性はないかということです。
たとえば、居宅のケアマネも、事業所の人員不足により「担当利用者のために特養ホームの空きを探す(特例入所に向けて意見書を記すなど含む)」といった対応の余裕がないということも考えられます。医療機関のSWも転院の手配などの業務量が増え、なかなか対応しきれないケースも耳にします。
また、最近は「特養等への入所待ちの間の療養・リハビリ支援」を担う老健の施設数・定員数なども減少傾向にあります。老健という受け皿が縮小する中で、特養入所に向けた対応もこれまでのように機能しなくなっている状況もあるかもしれません。
このように、「これから先、どこでどのような介護を受ければいいのか」についての相談対応体制が揺らいでいるとすれば、たとえば要介護者に家族がいるケースであれば、「家族が(有料老人ホームの検索サイトなどを駆使して)直接探す」といった行動パターンがますます増えていく可能性もあるでしょう。
実際、ネット上では「口コミ」も含めた多様な検索サイトが目立っています。入居費用がそれほど高額にならない住宅型有料ホームなども散見される中では、「ケアマネ等に相談するまでもない」という人もいるでしょう。
ケアマネも入居アドバイスしにくい環境に
ただし、「口コミ」も含めた検索サイト等の信頼性は、まだ十分に確立されているわけではありません。何より、「そこでどのようなケアが提供されるのか」について、一般家族の専門的知識は十分とはいえません。
仮に家族自身が「候補」をいくつか探し出したとして、やはり「できればケアマネ等と話し合って、専門職からの意見を聞きたい」という想いもあるでしょう。しかし、ケアマネ側に親身に対応できる余裕がなく、仮にあっても「有料老人ホーム選びのアドバイスはしにくい」という事情もあります。安易な判断を口にすることで、入居後のトラブル時にケアマネに責任が負わされるというリスクが常に頭をよぎることになるからです。
このように、近年の特養ホームの入所申込者の減少の背景には、さまざまな事情が絡み合い、その中で「利用者および家族が孤立しつつ(自己責任的に)判断を迫られる」という状況が見え隠れします。
国は、入所申込者減少をめぐり、老健事業等による実態調査を行なうとしています。今何が起こっているのかについて、「住み替え」にかかる伴走型の相談支援のあり方も含め、深掘りが求められるテーマといえます。
【関連リンク】
特養待機者、減少傾向も依然20万人超 要介護3以上 在宅は8.6万人 厚労省調査 | ニュースコメント | ケアマネドットコム

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。