
訪問介護などの訪問系サービス(ケアマネによる居宅訪問含む)については、利用者宅への移動にかかる負担への報酬上の評価が、かねてから議論となっています。中山間地域等が主な検討対象となっていますが、より広い視野での現場実態の把握も求められそうです。
経営実態調査での「移動」にかかる調査
2027年度改定に向け、介護給付費分科会での「2026年度介護事業経営実態調査」の実施方針が提示されました。施設系サービスにおける食事提供回数の把握や、介護テクノロジー機器のランニングコストの把握に保守・点検等を加味することなどが示されています。
加えて提示されたのが、訪問・通所系サービスにおけるサービス提供状況のあり方です。たとえば、訪問先の状況や訪問にかかる移動手段・移動時間について。いずれも2025年度の概況調査で加えられた項目ですが、2026年度の実態調査でも引き続き反映されます。
ちなみに、2026年度調査では、訪問回数における訪問先の状況をより精緻に把握できるように見直すとしています。具体的には、高齢者向け住まい(住宅型有料やサ高住など)への延べ訪問回数があげられます。これにより、住宅型有料など同一建物への訪問が主となっている事業者が、それ以外の事業者と収支状況の差を詳細に把握することが狙いです。
効果検証等調査でも「移動」実態がテーマに
この経営実態調査の一方、2024年度改定の効果検証等調査の2026年度実施案では、離島・中山間地域・豪雪地帯等における各種加算等のあり方がテーマとなりました。
現行報酬では、上記地域の「やむを得ず移動距離等を有し、事業運営が非効率にならざるを得ない」という事情を考慮し、幅広い居宅系サービス(居宅介護支援含む)で特別地域加算などが設けられています。これらについて、報酬上の評価を含めた議論のためのデータを収集することになります。
具体的な調査項目の中には、移動距離や移動手段、移動時間等が含まれます。先の介護事業経営実態調査の結果も含めて、「移動」にかかる現場実態がどうなっているのかを掘り下げ、加算等の評価を議論するうえでの基礎資料とすることが目的です。これにより、現場の実態や従事者の負担感を反映した評価につながるのかどうかが注目されます。
訪問従事者の年齢層が上昇する中で…
訪問系サービスの移動については、徒歩や自動車、自転車、公共交通機関の利用などが想定されます。事業所と利用者宅、あるいは利用者宅間の距離がある場合、当然ながら多大な移動時間がかかることになります。
こうした状況が現行の特別地域加算などでまかなえているのかという点が、まず精査されなければなりません。特に訪問介護のヘルパーや居宅ケアマネの年齢層が上がる中、時間のかかる移動は時間がかかりやすいだけでなく、気候変動による猛暑日の増大などで従事者の健康問題にもかかわってきます。
近距離でも自動車による移動が基本になるとしても、従事者の年齢層がさらに上がると運転技能の問題が付きまといます。そうなると「今は自動車による移動が中心」というケースでも、ある時期から「近距離は自転車等による移動」が増えるかもしれません。
その場合、先の健康問題が、あるタイミングで拡大することも起こりえます。その点を考えると、各種実態調査においても、「従事者の運転技能の状況」や「訪問時の健康状況」について、何らかの客観的データによる把握なども求められてくるでしょう。
4月からの自転車に関する新制度にも注意
さらに考慮したいのは、社会状況との関係です。たとえば、今年4月から自転車に関して「交通反則通告制度(いわゆる青切符)」が導入されます。もちろん、今まで通り自転車に関する交通ルールを順守していれば、何ら変わりはない─という見方もあるでしょう。
しかし、この制度改正を機に警察による取り締まりが強化される可能性があります。警察庁交通局が示したパンフレットでは、(事故の起こりやすい)朝や日没前後の重点的な取り締まりを行なうとしています。特に訪問介護等において、訪問が多い時間帯です。
そうなると、「歩道における徐行」を心がけてはいるものの、スケジュールが詰まってくると「取り締まりの対象」にならないよう、大型車等の通行が多い地帯でも「車道走行」を選ぶケースが増える可能性もあります。従事者の年齢層が上がって運動能力が低下すると、これも事故の危険が増しかねません。
こうした社会状況を考えれば、「移動」について、中山間地域だけでなく大都市含むその他の地域も含めた検討も必要となります。
訪問介護への包括報酬適用との関連は?
2027年度に想定される制度見直しとの関連も気になります。たとえば、豪雪によって除雪作業が完了するまで、自動車はもちろん自転車移動もできないというケースがあります。問題は、地域の人口減少や高齢化によって除雪作業が滞り、それまで「訪問ができない」といった状況が増えることです。
このような地域事情での「訪問キャンセル」が増えるとして、そうした状況も考慮した包括報酬の適用が円滑になされるのかどうか。その報酬は、事業者の経営を支えるレベルに設定されるのか──。「移動」1つとっても、さまざまな変動要因が浮上しやすい時代に、議論の精度を上げることが求められます。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。