処遇改善の一部を「基本報酬」へ⁉ 大胆な制度再編も必要な時代に

介護業界の労働組合であるUAゼンセン日本介護クラフトユニオン(以下、NCCU)が、組合員を対象とした「2025年賃金実態調査」の結果を公表しました。厚労省の2025年の賃金構造基本統計調査(速報)の結果との比較で、他産業との賃金差がさらに開いていることが明らかになっています。

今春の全産業賃上げが5%超──という中で

NCCUの調査では、2025年7月時点での月給別組合員の月額賃金は26万9,194円(対同年3月比でプラス2.9%)。これは、基本給に毎月決まった手当(職務・役職手当。通勤・時間外手当等は除外)を含んだ金額です。

ちなみに、厚労省が2024年9月時点を対象に調査した介護従事者処遇状況調査では、上記と同じ条件での月額賃金は25万3,810円。調査母体が異なるので単純比較はできませんが、2024年度改定での新たな処遇改善加算の施行以降も、段階的に介護従事者の賃金引上げが果たされている様子が浮かびます。

しかしながら、厚労省の賃金構造基本調査統計(以下、厚労省統計)では、2025年6月時点での全産業の月額賃金は34万600円。本ニュースでも触れている通り、7万円以上の格差があり、前年より差は開いています。

注目は、この格差が、今般の処遇改善補助金や2026年度の期中改定によって縮まるのかどうか。日本労働組合総連合(連合)によれば、今春季での賃上げ率は5%超になるとしています。2026年度改定では、介護職員で最大6.3%の賃上げ想定なので、この数字に限れば介護分野の伸び率が上回ります。

ただし、これはあくまで「介護職員の最大」です。居宅ケアマネを含む「幅広い従事者の賃上げ」は月1万円増でアップ率は3.3%。この数字と照らした場合、全産業との賃金格差はさらに開く恐れが強いことになります。

処遇改善のすそ野を広げるための基本報酬化

そうなると、2027年度改定で望まれる方向性は以下の2点となります。1つは、「(ケアマネ含む)幅広い従事者の賃上げ」について、少なくとも今春闘の5%超を上回る設定とすること。もう1つは、「幅広い従事者」の「幅」をさらに拡大するため、ベースとなる賃上げの要件をこれまで以上に緩和することです。

ここで、以下のような方策は考えられないでしょうか。たとえば、現行の処遇改善加算を2つに分類し、ベースとなる部分は「すべての従事者」に恩恵が行き渡るよう「処遇改善(を目的とした)基本報酬」と位置づけることです。現行の基本報酬と同じく、事業所・施設が人員・運営基準等を満たしていれば、報酬が受け取れるようにするわけです。

視点を変えれば、現行の基本報酬を「事業運営報酬」と「処遇改善報酬」の2種類に分けることになります。これにより、従事者の処遇改善はあくまで、すべての事業所・施設がベースとして受け取る報酬によって成り立つという位置づけが明確になります。

「人づくり」という土台を基本報酬で評価

これだと財政上のモラルハザードが発生するのでは…と思う人もいるかもしれません。しかし、基本報酬の扱いであるならば、先に述べたように人員基準や運営基準は満たさなければなりません。報酬を受け取るうえで、一定の法令順守は必要となります。

そもそも運営基準では、従事者に対して、その資質の向上や認知症ケアのレベルアップ、利用者の人権確保等に向けた「各種研修」の措置を事業者に義務づけています。つまり、現場のケアおよびケアマネジメントの質向上に向けた制度上のしくみは(まだ不十分とはいえ)備えられていることになります。

このように、「人づくり」という理念に向けた条件が(一応は)備えられている点で、処遇改善を目的とした基本報酬の要件とすることは、過剰な飛躍には当たらないと言えます。この考え方を土台とし、「上乗せ」の加算部分に限り、現行加算の生産性向上の取組み等を要件として取り入れる──これにより、両者の報酬上の位置づけは整理しやすくなります。

処遇改善=「生産性向上の対価」の是非

そもそも、生産性向上の取組みは、結果としての従事者の負担軽減を図る手段に過ぎません。負担軽減によって利用者と接する時間が増えたとしても、それをケアの質の向上に結び付けられるかどうかは、「人づくり」の土壌ができているかどうかに左右されます。

その土壌がきちんと整えられていなくては、どんな生産性向上の推進を図っても「ケアの質の向上」という成果には差が生じがちです。だからこそ、基本報酬によって土壌をきちんと固める考え方も必要ではないでしょうか。

もちろん、その基本報酬部分が他産業の賃金アップ率に追いつかなくては意味がありません。仮に全産業の来春の賃上げ率がやはり5%超とするなら、2027年度改定での基本報酬部分もそれに見合ったものとする(2026年度分については、補正予算による補助金によって補う)──これにより、「幅広い従事者」の生活安定を図る道筋が見えてきます。

処遇改善が、いつしか「生産性向上」という手段の対価とされて久しいのが現状です。確かに、被保険者の保険料を原資とするからには、一定のハードルは仕方ないかもしれません。しかし、被保険者にとっての納得は「生産性向上」そのものでなく、本来は「ケアの質向上」にあるはず。その本来の目的地を見すえた制度の再設計が求められます。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。