
厚労省が、介護現場向けに「経営の協働化・大規模化の進め方ガイドライン」を示しました。介護事業の協働化・大規模化の推進は、介護サービス資源の維持・拡大に向けて、国が重要なテーマと位置づけています。この「協働化・大規模化」は、特に小規模事業者にどこまでメリットをもたらすでしょうか。
たとえば、1人ケアマネの事業継続の厳しさ
たとえば、小規模事業者の象徴的なケースといえば、一人ケアマネが挙げられます。恐らくケアプランデータ連携システム1つとっても、「自事業所だけ」で対応するのに、国が想定する以上のハードルの高さを感じているケースも多いのではないでしょうか。
ちなみに、今後はケアマネジメント業務の効率化(生産性向上)に向けて、追加的な取組みも数多く求められる可能性があります。2026年度改定で、ケアマネにも処遇改善加算が適用されますが、「月あたり1万円」という規模にとどまる中では、2027年度に向けた「上乗せ」を求める声も高まるでしょう。
その際に、(2026年度の特例要件である)ケアプランデータ連携システムの加入だけでなく、その「活用」に向けた上乗せ要件が設けられることも考えられます。また、ケアプランデータ連携システムだけでなく、より踏み込んだICT等の活用や適切なケアマネジメント手法にかかる地域での研修参加なども要件として想定されるところです。
協働化・大規模化の前に「事業者選別」も!?
このように、さらなる業務の効率化やケアマネジメントの質の向上が求められるとして、先に述べた一人ケアマネなど極めて小規模で取り組む事業者にとって、国の求める改革の入口に立つのは容易ではありません。
その点で「協働化・大規模化」という施策推進は、1つの方策ではあるものの、その流れに乗る前に挫折してしまう「事業者選別」が生じる恐れもあります。それを防ぐうえで、今回のようなガイドラインで好事例を示し、横展開を進めるなどの必要性が高まります。
ただし、問われるのは、小規模事業者に所属もしくは自ら運営するケアマネが抱える課題に本当に寄り添っているかどうかです。
特に考慮すべきは、ケアマネが直面しているのが「日々の業務負担」だけでなく、個人のさまざまな「ライフイベント上の課題」もあることです。たとえば、子育てや家族の介護など。特に現状のケアマネの平均年齢を見れば、後者は大きな共通課題といえます。
従事者のライフイベントに寄り添えるか?
このように、業務の効率化にかかる「ワーク」だけでなく、1人1人の「ライフ」の部分における課題は常に付きまといます。また、ケアマネの年齢層が上がれば、たとえば事業の大規模化などが推進されても、「新たな組織への所属」には「今さら馴染めない」として業界を離れる人も増える恐れがあります。
つまり、業務の効率化以外にも向ける視点が定められていないと、協働化・大規模化の推進はなかなか地に足のついたものにならない可能性も出てくることになります。
もちろん、このあたりについて、今回のガイドラインもふれていないわけではありません。たとえば、大規模法人が職員の希望で事業所内保育所を設置し、これによって職員の就労に対する安心感が増したというケースが紹介されています。確かに大規模化での大きなメリットの1つですが、たとえば保育士の配置をどうするかなど、実際に行なうとすれば知りたいノウハウはいろいろあるでしょう。
こうした職員のライフイベントにかかる課題への切り込みがもう少し増えてくると、協働化・大規模化が「自分たちにどのようなメリットがあるのか」について、より実感が深まってくるのではないでしょうか。
生産性向上に加え生活者としての課題に注目
もっとも、先にあげた「大規模法人による事業所内保育」などは、以前から見られる事例です。これを「協働化」という枠組みで実現するには、もう一押しも二押しも必要です。たとえば、昨今では、「保護者と事業者が協働する」という「共同保育」の取組みも見られますが、こうした参考事例も必要でしょう。
また、先の「家族の介護」でいえば、介護従事者はその道のプロゆえに、外からは「何とかするだろう」という見方も少なくありません。しかし、実際にはプロゆえに「深く」かかわり過ぎるなど、仕事と介護の両立がうまく行かずに疲弊するケースも見られます。
そうなると、ケアマネ自らが直面している「介護」について相談できる新たな環境も求められます。たとえば、地域の事業所同士が連携し(行政の補助金なども活用しつつ)、産業ケアマネと提携するなどのやり方もあるでしょう。同じケアマネ資格保持者なら、ケアマネの日々の業務もよく知るゆえに、「仕事と介護の両立支援」も行ないやすいでしょう。
協働化も大規模化も、生産性向上のビジョンだけが先立つと、現場との溝は広がりがちです。今ある従事者の課題は「生活者の課題」ととらえ、それに寄り添うという考え方がもっと強調されてしかるべきでしょう。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。