
2026年度の臨時の介護報酬改定では、処遇改善加算の上乗せが図られる一方、基本報酬は手つかずでした。では、2027年度の定期改定ではどうなるでしょうか。さまざまな予測が浮上し、業界・職能団体からの要望も強まっていますが、ここでは改めて「基本報酬を上げることの重要性」を整理します。
基本報酬の「要件」にあたるのが基準だが…
「基本報酬」は、言い方を変えれば「厚労省令等による基準等を満たした場合に、基本的なサービスに支払われる報酬」とも言えます。この場合の法令で定められた「基準等」が、加算での「要件」と位置づけられます。
加算の場合、要件ハードルと加算単価のバランスが事業者にとっては大きなポイントです。要件ハードルが高く、多大なコストのかかる体制構築等が必要な場合、それが加算単位に見合わなければ、事業者としては「当面取得を見送る」ということもあるでしょう。
では、基本報酬の場合はどうでしょうか。基本報酬の「要件」にあたるものが「法令で定められた基準等」であるとして、事業者としては「そのハードルが高いから(基本報酬は)算定しない」というわけには行きません。基本報酬が取れなければ加算も算定できず、介護報酬からの収入がゼロとなり、事業所・施設の経営が成り立たなくなるからです。
運営基準等のハードルが上がるとどうなる?
この理屈にもとづけば、「加算要件」にあたる「法令で定められた基準等」のハードルが上がれば、そこで生じる手間やコストとバランスが取れるだけの基本報酬の引上げが求められます。それが叶わないと、事業所・施設は収支の悪化を受け入れざるを得ず、最終的には閉鎖・撤退を選択する流れに至ります。
また、処遇改善加算は所定単位数をベースとして、そこに加算率を乗じる形で算定されます。基本報酬における収入とコストのバランスが崩れた状態では、他の加算取得に必要な体制を整えることも難しくなるでしょう。
そうなれば、処遇改善の効果もなかなか上がらず、必要な従事者数を確保することもままなりません。その中で人員基準を満たすために「利用者の受入れ」を制限すれば、さらに収支は悪化し、いずれにしても閉鎖・撤退を加速させることになります。
結局のところ、基本報酬の単位設定はもちろん、基準を満たすための負担によっても、サービス資源の縮小が生じかねないわけです。
基本報酬は「未来」より「過去」に焦点が?
ここまでは、介護サービスの事業者にとっては「当たり前」の理屈かもしれません。もっとも、先に述べた基本報酬と基準等のバランスは、ともすると崩れやすくなっています。
そのバランスの崩れを引き起こしている要因といえば、基準等を満たすためのコストが、近年の物価上昇によって引き上がっていることがあげられます。加えて、法令上で定められる運営基準等の規定そのものが、膨らんできているという要因も無視できません。
2021年度改定でいえば、感染症対策やBCP策定。2024年度改定では、施設等における協力医療機関との連携や利用者の安全確保等にかかる委員会開催、虐待防止・身体拘束等の適正化に向けた取組みなど。また、口腔ケアに関して、ここ何度かの改定で加算要件が運営基準に組み込まれたものもあります。
これら基準を強化する際は、基本報酬の引上げに反映することが理想です。ここ何度かの報酬改定はプラス改定となっていますが、たとえば訪問介護は、2024年度改定で身体拘束等の適正化の取扱いが新設されたにもかかわらずマイナス改定となりました。
この点から、基準改定等にかかる「未来」の実務上の手間・コスト分を手当てするというより、経営実態調査による「過去」の収支状況に重点を当てつつ基本報酬が設定されていると言えます。改定後に介護現場に「期待すること」を、基本報酬に反映させるしくみは残念ながら十分整っているとは言えません。
「賃金・物価スライド」に加えたい考え方
気になるのは、2027年度改定でも、運営基準等のさらなる改定が予想されることです。カスハラ対策などは「従事者保護」の観点は強いものの、小規模事業所にとっては、対応に向けた管理コストなどが膨らみがちです。
また、国は生産性向上の推進を強化していますが、今後の介護給付費分科会の議論次第では、加算要件だけでなく運営基準でも取組みを促す流れが強まる可能性もあります。いずれにしても、なし崩し的に基準等の範囲だけが膨らんでいけば、基本報酬を多少上げただけでは、先に述べた収入と手間・コストのバランスを埋めることは難しいでしょう。
業界・職能団体からは、ここ数年の物価上昇や他産業との賃金差の拡大を受け、介護報酬への「物価・賃金スライド」の導入を求める声も上がっています。ここに加えたいのが、基本報酬にかかる「基準等改定スライド」とも言うべきものです。たとえば、運営基準等の改定・新設を見込んだうえで、予想される現場のコスト増大を客観的指標で評価し、基本報酬の引上げに反映させるという具合です。
時代に合わせて介護サービスの質を底上げすることは、介護保険への国民の信頼を確保するうえでも重要です。そのためには、必要な基準に見合った基本報酬の引上げはやはり不可欠でしょう。2027年度改定は、こうした考え方を明確に位置づけることが望まれます。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。