
厚労省は、先の課長会議や新たな通知で、「第10期介護保険事業(支援)計画」の策定に向けた、都道府県や市町村の留意すべき事項を発しています。その多くは、中山間・人口減少地域における次期改正でのサービス提供のあり方を念頭に置いたものです。
自治体が追われる、今まで以上の早期準備
中山間・人口減少地域等に適用する特例介護サービス等については、介護保険部会の取りまとめ意見で大枠は示されているものの、詳細な規定に関しては今後の介護給付費分科会の議論を待たなければなりません。
とはいえ、各自治体にとっては、大きな改革が必要になるのは間違いありません。早期からの準備も、これまでの計画期以上に重要になるでしょう。厚労省通知でも、このあたりの留意を求めています。
もちろん、各自治体としても、特例介護サービス等の拡充には、前のめりにならざるを得ない事情があります。国が目指す2040年を待たずして、地域の介護サービス資源がニーズに追いつかない状況は、多くの自治体にとって直近で進行している課題だからです。
こうした中では、第10期介護保険事業(支援)計画の策定に向けた準備の段階から、自治体(指定権者)と介護現場の関係性も変わってくる可能性にも注目が必要です。
新たな特例介護サービスについての概要
さて、現在提案されている「新たな特例介護サービス」について、介護保険部会の取りまとめ意見に改めて目を移してみましょう。
ご存じの通り、現行の特例介護サービスには、基準該当サービスと離島等相当サービスがあります。たとえば前者では、厚労省令で定める人員・設備・運営基準の一部を満たしていない場合でも、市町村等が必要と認める場合に、都道府県等が定める基準を満たす場合に柔軟なサービス提供が可能となります。
これに対し、新たな特例介護サービスは、管理者や専門職の常勤・専従要件や夜勤要件等の緩和を行なうなど、「一部基準を満たしていない」ケースよりも踏み込んだ柔軟化が想定されます。また、居宅系(居宅介護支援なども含む)のほか、施設系や特定施設などへの対象拡大の案も付されています。
この新特例を導入するには前提条件があります。それは、職員負担への配慮から「職員の賃金の改善に向けた取組み」や「ICT機器の活用」、「サービス・事業所間での連携」などを行なうこと。また、サービスの質の確保の観点から、「市町村による適切な関与・確認」なども行なうことも想定されています。
サービスへの「市町村の適切な関与・確認」
ここで注目したいのが、最後に述べた「サービスの質の確保の観点からの市町村の適切な関与・確認」です。第10期介護保険事業(支援)計画を策定し、都道府県と市町村の間で「新たな特例介護サービス」等の導入に向けた合意が図られたとして、この「関与・確認」を具体的にどのように行なっていくのかが次に重要な視点となりそうです。
たとえば、運営指導や監査の場合、(一部緩和されているか否かにかかわらず)基準に沿った運営が行われているか──がチェックの入口となります。そのうえで、人員基準等の柔軟化の対象となる事業所・施設に対しては、仮に(緩和された)基準が満たされていたとしても、「サービスの質」へのチェックを今まで以上に重視することが求められます。
しかも、これが市町村全域のサービスが対象となった場合、指導・監査にかかわる行政担当者としては、今までのチェック体制そのもののあり方も問われてくるでしょう。
ちなみに、今までも「利用者の意思・人格を尊重したサービスのあり方」などは運営指導などでチェックされてきました。昨今は従事者による虐待や不適切な身体拘束等を防止するための制度強化もたびたび行われ、行政側のチェックも厳しくなっています(2023年度の指定の効力停止処分では、人格尊重義務違反が対前年度比で倍増している)。
しかし、サービスの質にかかわる市町村等の関与・確認となれば、従来の指導・監査に上乗せされる体制・運営を求める声も強まるのは確実です。明確な運営基準等の違反は見られなくても、「その一歩手前」の “すそ野”が広がっていないかを確認するしくみが整っているかどうか。これが、新たな特例介護サービスが地域の信頼を得るための大きなポイントとなってくるかもしれません。
サービスの質にかかる地域の合意形成も重要
たとえば、地域の専門職や有識者からなる、サービスチェックのための第三者機関を常設すること。さらに、「サービスの質」にかかる判断基準を改めて策定したうえで、特例介護サービスの状況を随時点検する体制を築くことなどが考えられます。
また、サービス資源がひっ迫し、市町村事業によるサービス運営に踏み込むとなれば、この(市町村から独立した)第三者機関の存在はより重要になってくるでしょう。
いずれにしても、「サービスの質」の評価基準を策定するとなれば、「そもそもサービスの質とは何か」について、地域の従事者・(利用者も含めた)住民を含めた意見の集約も求められます。特例介護サービスを機能させるうえで、こうした地域に根ざした合意形成をどこまで行政側が見すえているか。このあたりが問われることになりそうです。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。