医療介護連携の課題について ハラスメント対策にもう1つの視点を。 多職種連携での「モラハラ」について

労働施策関連で、カスタマーハラスメント(以下、カスハラ)などのハラスメント対策が次々と強化されています。2027年度の介護報酬・基準改定でも、他法制の動きに合わせた対応が行われることになるでしょう。一方、介護現場で懸念されるもう1つのハラスメントについても、何らかの施策が求められます。

職場内での対策だけでは解決できない課題

「もう1つのハラスメント」とは、多職種連携における、特に他機関の医療職等による介護職への「モラルハラスメント(以下、モラハラ)」です。モラハラとは、言葉や態度で相手の尊厳を傷つけたり、精神的に追い詰めていくという状況を指します。

たとえば、サ担会議などの場面で、医師などから(威圧的な態度でなくても)皮肉をこめた物言いをされたり、介護側の訴えに真摯に向き合ってくれないといったケースを経験したケアマネや介護職もあるでしょう。

職種によって「自分たちの方が知識豊富」といった思考が生じやすいせいか、つい上から目線での連携となることがあります。仮に当人に悪意はないとしても、介護職等にとっては少なからぬストレスとなりがちです。

問題は、介護側において対医療連携実務が急速に増える中、この連携時のストレスが積み重なり、精神的なダメージによって業務の遂行に影響をおよぼしかねないことです。そうなると、職場内でのハラスメント対策に力を入れても、それだけでは介護従事者の働く環境の改善には足りないことになります。

医療職等に対する教育・研修の必要性も

たとえば、施設系・居住系では協力医療機関とのやり取りが増え、協力医療機関連携加算を算定していれば、相手機関の医療職との平時からの会議もさらに必要になります。

ケアマネでいえば、入退院以外でも通院時や看取り期の情報連携などの機会も増えています。今後の法改正で地域ケア会議などに参加するケースが増えれば、さらに他機関の医療職等との連携は増えていくでしょう。

そうした他職種による「モラハラ」的な態度が改善されないと、ケアマネや他の介護職の「憂鬱な時間」が増え、燃え尽きなどを加速させかねません。これを防ぐうえで、たとえば医療機関等で「対介護連携」等を担う職種へのモラハラ防止の研修や、その他の倫理面の啓発を行なうことが求められます。

倫理面といえば、2026年度の診療報酬改定において、患者に対して特定の介護サービス・施設等を紹介・誘導した見返りに、介護側から「金品その他の財産上の利益を収受してはならない」という規定が明確化されました。

これは職業倫理に反する極端なケースですが、これを1つの契機として、対介護とのやり取りの適正化に向けた「医療職等への倫理教育」を深められるかが問われます。

医師会は職業倫理の指針を示しているが…

ちなみに、日本医師会は「医師の職業倫理指針」を示しています。その中で、「他の医療関係職種(介護職含む)との連携」について、以下のように記しています。それは、「医師はこれらの職種の業務内容と法的責任を正しく理解し、これらの人々の立場と意見を尊重しながら、出される意見を真摯に受け止め相互協力を進めるべきである」というものです。

この他職種に対する「理解」と「尊重」、「意見の真摯な受け止め」が実践できていれば、先の医療職等によるモラハラなどは発生しないでしょう。しかし、具体的にどのような態度・心得で多職種連携にのぞむべきかについて、当事者が明確に意識できていなければ、人によって態度にバラつきが生じがちです。

先に述べたように介護・医療連携機会が急速に増えていく中では、この「バラつき」を解消し標準化を図るしくみが必要です。

たとえば、組織内でのパワハラ・セクハラに関しては、各機関での方針の明確化や医療等従事者への周知・研修などが義務づけられています。ここに、他機関の多職種に対してのケースを想定した取組みを加えていくような通知改正も求められるでしょう。

多職種連携時のモラハラ対策マニュアルを

2015年度に在宅医療・介護連携推進事業が包括的支援事業に組み込まれてから、10年以上が経過しています。その間、地域によっては、医療職・介護職などが揃って参加する共同研修の機会も増えました。

たとえば、職種間で「どのようなコミュニケーションが要されるか」などを話し合い、相互理解を進めるという取組みも多々見られます。医療職・介護職がそれぞれプレゼンを行なう機会を設け、発表者への(他職種からの)賛辞などのリスペクトを意識的に行なうといった風土作りを見ることもあります。

こうした取組みは地域によって差もあるでしょう。厚労省としては、こうした事例を集約したガイドラインなどを改めて取りまとめ、そこにモラハラ対策なども盛り込むこともできるはずです。その作成に際して、医療職と介護職のそれぞれの職能団体による協議の場を設けることも有効かもしれません。

国が進めている地域包括ケアシステムも、それを現場で担う「人」の健全なコミュニケーション環境が築けていてこそ成り立つものです。介護・医療の各制度を適切に機能させるうえでも、力を入れたいテーマといえます。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。