家事支援サービスの国家資格化で、 やはり気になる介護保険との関係

政府の日本成長戦略本部が、家事支援サービスの国家資格化を2027年にも実施する旨を打ち出しました。介護業界からは、訪問介護の生活援助との関係をめぐり、戸惑いの声も上がっています。政府は高止まりする介護離職の解消を目的の1つに上げていますが、本当にその効果に結びつくものなのでしょうか。

ホームヘルパーは国家資格ではないのに…

国家資格化というのは、重い意味を持ちます。国の制度で定められた介護保険制度においても、報酬や運営基準上で規定されている国家資格は、医療職を除けば介護福祉士のみです。介護保険の要となるケアマネも、訪問介護のホームヘルパー(生活援助従事者含む)も国家資格にはなっていません。

社会保険外の民間サービスとなる家事支援でも、2015年あたりからその資格をめぐる議論はありました。しかし、ここへきて一気に「国家資格化」が打ち出された状況を見ると、長年介護保険を担ってきた現場としては「なぜ?」という疑念は拭えないでしょう。

もちろん、省令等による基準に縛られないサービスだからこそ、「国家資格化による人材の資質を担保することが必要」という考え方もあります。しかし、資質の担保という点では、現行の家政士検定も厚労省の認定を受けています。また、家事支援サービス従事者の「社会的地位の向上による参入拡大」をうたうのであれば、対医療連携などを通じて利用者の健康と安全にかかる責務を担う介護保険のホームヘルパーが、ここまで人材不足に陥っている状況との整合性が問われます。

家事支援利用に税制優遇──その財源は?

そうなると、やはり「現行の生活援助を介護保険から切り離すという思惑と連動しているのではないか」という推測がどうしても付きまといます。実際、財務省の審議会(財政制度分科会)では、今年も「軽度者(要介護1・2)の生活援助の地域支援事業への移行」が提案されています。

ちなみに、今回の家事支援サービスの国家資格化とともに、政府が打ち出しているのが、税制改革との関連です。具体的には、先の国家資格保有者による家事支援サービスなどを利用した場合の税制措置を設けることです。たとえば、利用者に対して税制優遇を行なって使い勝手をよくするなどが考えられます。

税制優遇を行なうとなれば、その財源を確保するうえで財務省との調整が必要です。うがった見方をすれば、介護保険にかかる公費投入を抑える分、家事支援サービスの活用促進を図るという構図も見えてきます。

なお、介護保険をめぐる議論では、報酬を引上げつつ保険料や利用者負担を抑えるために、「公費負担割合の引上げ」を求める声も出ています。家事支援サービス利用に税制優遇を行なうとなれば、「その財源を公費負担割合の引上げに使うこともできるのでは」という議論が起こる可能性もあるでしょう。

「介護保険と関係なし」は通用しなくなる?

現状では、今回の家事支援サービスの国家資格化と介護保険の生活援助のあり方が、明確にリンクされているわけではありません。厚労省としても、「介護保険とは切り離したままにしたい」と考えているかもしれません。

しかし、そうは行かなくなる可能性は、早晩訪れることになりそうです。政府は、国家資格化の前に「講習プログラムの開発を促進する」としていて、そこで「家事支援サービスの価値とは何か」を具体的に議論することが必要になってくるからです。

先の家政士検定などを見ると、「利用者とのコミュニケーション」や「接客マナー」などが重視されています。ここに、「仮に訪問中に利用者の具合が悪くなったらどうするか」というテーマも絡んでくるとします。

家事支援なのだから、そうした状況は想定していない──とは行きません。政府は「対応の方向性」の中で、家事支援サービスの利用促進にかかるアウトカム評価として「介護をしている者に占める有業者割合の上昇(介護離職者の減少)」をかかげています。

つまり、「要介護者がいる世帯」において「家族が(仕事等で)不在の場合」のサービス提供も想定されることになります。

訪問介護の社会的役割との整理が不可欠に

もちろん、訪問介護であれば、生活援助の提供であっても、上記のような「利用者の異変」に遭遇した場合のマニュアルは定められています。また、清掃等の援助を通じつつ、「適切な服薬がなされていない可能性」への気づきが、ケアマネ経由で主治医に伝えられることで、ポリファーマシー等によるリスクの軽減を図るということも、訪問介護の基準で明確に規定されています。

こうした重度化防止も介護離職を防ぐうえで不可欠な要素であることを考えれば、「家事支援サービスにも同様のスキルが必要ではないか」という議論が出てしかるべきです。

もし「それは必要ない。それを担うのは介護保険の訪問介護」となるなら、介護離職防止に向けては、訪問介護の生活援助の評価を高めなければつじつまが合いません。つまり、ここで家事支援サービスと訪問介護 of 生活援助の役割分担と社会的役割について、整理を行なうことが必要になってきます。

今後の介護給付費分科会等で、この家事支援サービスの話が持ち上がるのは確実でしょう。その時に、政府としてどのような説明を行なうのか、注目したいところです。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。