ケアマネジメントにおけるAI活用は、 本当に制度に組み込むことができるのか?

2027年度改定に向け、介護給付費分科会の議論が進んでいます。居宅介護支援に関しては、国会審議中の介護保険法等に左右される部分が多いため、本格的な議論は改正法成立後になると思われます。その際に大きな論点の1つになると予想されるのが、生産性向上です。

ケアマネのAI活用推進を報酬上で評価?

ケアマネの生産性向上に関して、政府の財政制度諮問会議における社会保障改革の方向性の1つに、「AIによるケアプラン作成」が挙がっています。ここからは、内閣府主導で「ケアマネ業務へのAI導入」の推進を加速させる意図もうかがえます。仮にケアマネジメントへのAI導入を制度上で位置づけるとして、どのような形が予想されるでしょうか。

現行、ケアマネの生産性向上に関しては、「ケアプランデータ連携システム」が取扱い件数の緩和要件や新たに適用された処遇改善加算の要件で取り上げられています。今後は、介護情報基盤との連結を考慮に入れつつ、より広いシステムの枠組みを生産性向上に活かすという流れも強化されそうです。

ここに、たとえば「ケアプラン作成支援AI」の活用が加わるとすれば、上記システムを含めた総合的な活用を要件に、居宅介護支援に特化した「生産性向上推進体制加算」のようなしくみが誕生する可能性もあるでしょう。

利用者の意思決定支援におけるAIのあり方

ケアマネ業務に関連するAIといえば、ケアプラン作成支援に加え、音声入力(昨今では、介護現場で専門的に使う用語の音声解析機能も見られる)、センサーやカメラによる解析を手がけるフィジカルAIなどさまざまなものが視野に入ってきます。何をどのように組み合わせて使うかによって、ケアマネ業務の負担軽減は確かに進むことになるでしょう。

問題は、AIの働きが「課題分析」の領域に入ってくる場合です。ケアマネジメント支援のAIに関しては、ケアマネの思考フロー可視化の研究が進められ、それをAIに学習させる取組みが進められています。これをどこまで実用化することができるのか、また、利用者の生活の質の向上に寄与することが果たして可能なのか──が注目されます。

たとえば、医学的に合理的な支援の方向性が打ち出されたとして、果たしてそれがその人にとっての「合理性」に合致するかという点がたびたび問われます。そこで視野に入れるべきは、利用者自身の意思決定であり、それを専門職として支援することです。特に問われるのが、次期改定でも大きなテーマになると思われる認知症の人の意思決定支援です。

認知症の人の意思決定支援をAIは担えるか

一つの視点として、この認知症の意思決定支援を、AIはどこまでサポートできるでしょうか。この課題に向けても、近年のAIモデル研究は踏み込んでいます。たとえば、心疾患や脳血管疾患、大腿骨頸部骨折にかかる疾患別ケアの思考フローを確認しつつ、「認知症」の複線的モデルを作成するという具合です。

複線的モデルというのは、複数のモデルを組み合わせながら、より複雑な問題を解決する手法です。つまり、認知症の人に何らかの疾患がある場合、その疾患を念頭に置いた療養・生活支援の方向性に、その人の認知の状態や生活歴にもとづく個人因子などに注目した思考を組み合わせていくことになります。

当然、その先には本人が「その人にとっての自分らしさ」を獲得し、家族や地域との関係も良好に展開される姿がなければなりません。その土台となる意思決定支援に関しては、支援者が本人・家族と良好な関係を築きつつ、チームによる粘り強い継続支援が必要です。

この過程を、AIが支援するとして、どのようなビジョンが描かれるでしょうか。

たとえば、「利用者のこうした動作・言動に注目してはどうか」、あるいは「(近親者のうちの)この人に尋ねてはどうでしょう」といったヒントをAIがアドバイスするとします。それによって、支援者(医療職なども含む)に新たな気づきが得られるなら、それだけでもAIとの協働の大きな効果といえます。

進化途上のAI導入を評価することの難しさ

懸念されるのは、そうした複線的モデルの開発が不十分なまま、単一的モデルのAIだけで「生産性向上に資する」という考え方が、制度に組み込まれてしまうことです。

もちろん、「単一的モデルによって課題解決できるケースもあるはず。それによる負担軽減の分、認知症の人の意思決定支援等に尽力すればよい」という考え方もあるでしょう。しかし、ケアマネおよびチームを組む支援者が、どれだけ複雑な思考パターンを要するかを考えた場合、そう簡単に「業務負担の割り振り」ができるものではありません。

その点では、認知症の人や(本人の意思を代弁できる)家族・親族がいない人が増える時代において、意思決定支援への評価をまず手厚くすることが先決でしょう。AIがそれを支えるにしても、その範囲は限られます。にもかかわらず、AI導入ありきが進めば、「AIが活用しやすい利用者から受ける」といった経営マインドにもつながりかねません。

ケアマネの生産性向上を求めるのであれば、社会が求めるケアマネジメントのあり方とその評価をもう一度立て直すことから始めるべきではないでしょうか。ケアマネ不足をAIが埋めるという思考だけでは、ケアマネジメントの土台はますます揺らぎかねません。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。