
施設・居住系における「夜勤」については、介護保険スタート時からの課題ですが、人員不足が進む中で事態はより深刻化しています。開催中の介護給付費分科会でも、認知症GHの「夜勤」に関して厳しい指摘が上がっています。改めて介護現場の「夜勤」体制のあり方と、未来に向けた施策について考えます。
夜間こそリスクが高い中で16時間勤務も
介護現場の人員不足が今ほど深刻でなかった頃でも、「夜勤」職員の確保は、特に中小規模が多い認知症GHでは難しい状況がありました。当時からほとんどが2交代制シフト(夜勤の場合は、16時間におよぶこともある)でしたが、現在ではその割合が9割近くに達しています。夜勤を派遣職員等が担う割合も増え、それだけ人員確保が難しくなっている様子がうかがえます(日本医労連の調査等より)。
夜間は自律神経が乱れやすく、認知症の人のBPSDの悪化や、慢性疾患のある人の容態急変リスクは高まりがちです。半覚醒の状態で起き出した利用者が、転倒などの事故を起こしやすいという懸念もあります。日中よりリスクが高まりやすいうえに「配置人数が極端に少なくなる」となれば、職員の緊張状態は長時間継続することになります。
仮に3交代制で8~10時間ほどの勤務としても、たとえば「1人で夜勤を担う」となれば、その疲労が後々まで蓄積するという人も多いでしょう。まして2交代制で16時間勤務もありとなれば、夜勤明けの休日も十分に心身を回復させることは困難です。
無理な夜勤は職員のホルモンバランスも崩す
職員自身も夜間には自律神経が乱れやすくなります。それを考えれば、「1人」という体制は、見守り機器等のテクノロジーを導入しても解消できるものではありません。訪問看護ステーション等との連携で、いざという時に電話等で24時間の相談対応体制が築かれたとしても、「今ここにいるのは自分だけ」という状況に変わりはありません。
つまり、夜勤は原則3交代制としたうえで、1ユニット1人夜勤を解消するための増員が行われない限り、職員の継続勤務にとっての大きな壁となり、ますます人員不足を加速させるという悪循環に陥ることは確実です。
昼夜逆転は人間のホルモンバランスを崩しやすくするため、女性であれば乳がん等のリスクも高めます。労働安全衛生の面でも、国の不作為が問われることになるでしょう。
また、昨今は強盗事件なども多発し、防犯面からも「1人夜勤」の不安は高まりやすくなっています。地域住民と防犯の協力体制が築きにくい立地などでは、警備システムの強化などが必要ですが、そのコストを(地域によって差がある)自治体からの補助金等でまかなえるかどうかも問題となります。
管理者が穴埋め⇒リタイア⇒加算取得も困難
介護給付費分科会で提示されたデータでは、夜勤をめぐる課題として「夜勤ができる従事者が限られていてシフト調整に苦慮している」という回答が6割近くにおよびます。「夜勤職員の確保ができない」も約38%、「夜勤のシフトが調整できず、管理者がその穴埋めをすることがたびたびある」も35%を超えます。
1人夜勤の状況でも「不足」傾向は明らかなうえ、「管理者が穴埋めする(しかもそれが2交代制で16時間近い勤務)」という状況が積み重なれば、現場管理を担う人材までリタイアしかねません。これでは、認知症ケアや対医療連携などのさまざまな加算の取得も困難となり、「収支の悪化」⇒「人材確保がさらに困難」となるスパイラルも訪れるでしょう。
この厳しい流れを押しとどめるには、国として労働安全衛生施策の観点から、「夜勤」対策の徹底を図るほかはありません。
本来なら、「1ユニット2人夜勤」と「3交代制」、「1人あたり夜勤時間を10時間以内にとどめること」を基準上で明記することが必要でしょう。もちろん、現状でそれをすれば、地域からGHがなくなりかねません。
だからこそ、この目標基準を達成するには、どれくらいの報酬が必要なのか、各種補助金や行政からの人員派遣(夜間の警備員派遣含む)などのしくみをどこまで整備すべきかについて、「夜勤」対策に集中化した施策の体系を構築することが何より必要となります。
国の「人を守る」という意思が伝わらない
処遇改善加算などは、他産業との賃金格差を埋めるだけの規模がまず求められるのは言うまでもありません。しかし、それだけでは「夜勤人材確保」の問題は解決しないでしょう。
大切なのは、「介護従事者の健康と安全を守る」、つまり「人を守る」という施策側の強い意志が現場に伝わるか否かです。(労働力人口の本格的な減少を前に)ここまで介護現場の人員不足が加速しているのは、現場従事者の中に「私たちは国に守られていない」という疑念が蓄積しているからではないでしょうか。
たとえば生産性向上というのは、従事者の心と身体の健康が十分に確保されてこそ成り立つものです。現場の委員会で「職員の負担軽減策」をどんなに話し合っても、それを担保できる国のバックアップがなければ、(特に法人のバックアップ機能が乏しい中小規模事業所などは)限界が生じるのは明らかです。
2027年度の改定および予算編成では、「夜勤」対策など「人を守ること」を軸に掲げること。ややオーバーな言い方ですが、介護人材確保策はまさにここから始まると言えます。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。