特定地域サービス等の議論の進め方に疑問。 基準緩和等の検討はなぜ後回しなのか?

改正介護保険法が成立し、特定地域サービス、さらには特定地域居宅サービス等事業が設けられることになりました。今後、社会保障審議会で地域指定や人員基準のあり方が検討されることになりますが、被保険者や現場を巻き込んだ激しい議論になることは必至です。

制度の骨格部分までも厚労省令に委ねられる

今改正法における特定地域サービスや特定地域居宅サービス等事業については、条文上で「特定地域」の定義に「人口減少その他」という文言はあるものの、「厚労省令で定める基準に該当する地域」とされているだけです。

弾力化が予定される人員配置基準についても、都道府県が定める条例は厚労省令で定める基準に従うとされています。その厚労省令では、「(特定地域の)人口の減少の状況」や「従事者の状況」等を勘案するとはしていますが、それ以上の具体的な文言はありません。

いわば、土台だけコンクリートで固めてはあるものの、その上にどんな建物が築かれるのかという「骨格」部分までも、すべて厚労省令任せになっているのが実情です。

もちろん、介護保険部会や介護給付費分科会といった社会保障審議会での議論が必要となりますが、厚労省が素案を示すことで一定のレールが敷かれることになります。介護保険制度では、これまでもたびたび見られた光景ですが、この特定地域サービス等については、「国会よりも厚労省(政府)主導」で決められていく色合いがさらに強まっています。

「特定地域の範囲」から入るのは妥当なのか

社会保障審議会での議論の進め方についても、今後異論が強まりそうな要素があります。それは、最初に介護保険部会で「特定地域の基準(特定地域の対象範囲)」の議論から入り、「特定地域サービスの人員配置基準や包括報酬等のしくみ」がその後になることです。

後者のスケジュールは未定ですが、直近の介護給付費分科会では、「(中山間・人口減少地域のサービス提供など)今回の制度改正を踏まえた事項」について、別途に議論するとしています。既存サービスの議論がまだひと周りしていない状況なので、この後に業界団体のヒアリングをはさむとなれば、夏場過ぎとなる可能性もありそうです。

また、「特定地域居宅サービス等事業における制度設計や事業費」については介護保険部会での議論となりますが、上記の介護給付費分科会での「特定地域サービスの基準等」の状況を踏まえるとしています。少なくとも介護給付費分科会での議論と同時並行か、もしくはさらに後になると考えていいでしょう。

地域範囲では、すでに厚労省の素案も提示

現場として、あるいは特定地域サービスが適用される市町村としても、何より注視しているのは「人員配置基準がどこまで緩和される可能性があるのか」、「従事者の状況等をどのように勘案するのか」という点でしょう。

その先行きが見えない中で、特定地域の対象の議論を先行しても、「現場との実情との照らし合わせ」が難しくなる恐れがあります。現場はもちろん、市町村としても「対象地域となること」を受け入れるかどうかは、基準緩和や報酬設定の動向が見えない限り、検討のしようがないかもしれません。その「検討時間」を確保するうえでも、優先すべきなのは基準や報酬に関することではないでしょうか。

ちなみに、今回の「特定地域の対象」にかかる厚労省の素案では、「特別地域加算」および「離島等相当サービス」の対象地域に加え、「75歳以上人口」や「その人口密度」、「人口変化率」などの指標を組み合わせて指定するとしています(これ以外に、サービス基盤の維持が困難な地域なども対象とする案も)。

ここで、たとえば特定地域の対象となった場合に、例外なく「特別地域加算(プラス15%。離島等相当サービスも含まれる)」を適用するという可能性もあるでしょう。その場合、その上乗せも論点になるかもしれません。うがった見方ですが、報酬上のインセンティブも携えたうえで、特定地域の範囲を早急に固めてしまいたいという意図も垣間見えます。

重要論点が煮詰められないと何が起こるか?

このようにタイミングは不透明ですが、何度も述べるように、人員配置基準の弾力化や包括報酬の導入、特定地域居宅サービス等事業の事業費等の検討に入った時点で、各審議会の議論の紛糾は間違いありません。

両審議会委員には、認知症の人と家族の会も含まれ、同会では今回の改正内容について強く異を唱える緊急要望書も出しています。また、自治体についても、地域住民に過剰な不安を与えるレベルの緩和策等が定められてしまうと、特定地域の対象となるのか否かという点での姿勢は定まりにくくなるでしょう。

こうした状況が予想される中、時間をとって慎重に検討するという意味でも、「基準緩和のあり方」や「従事者の状況をどのように勘案するのか」という議論を早急にスタートさせることが極めて重要です。できれば、被保険者や現場従事者の代表も招いて、どのような不安があるかなどについてヒアリングを行うことも求められるでしょう。

厚労省としては、「波風をなるべく抑えつつ円滑にスタートさせたい」のでしょう。しかし、重要な部分の検討が十分に尽くされず、不十分なコンセンサスのもとで施行に至れば、人材の地域を超えた流出が生じるなど、かえって地域・業界の混乱は増しかねません。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。