ケアマネ等の安全確保の基本は多機関連携。 「現場を孤立させない」を施策の柱に

埼玉県川口市のケアマネ殺害事件は、ケアマネのみならず訪問系現場に深刻な影を落としています。この事件をめぐっては介護給付費分科会でも取り上げられ、ケアマネをはじめとする訪問従事者の安全確保に向けた対策に注目が集まります。果たして、現場を覆う大きな不安を解消するものになるのでしょうか。

10月からカスハラ防止法は施行されるが…

今年10月から、カスタマーハラスメント(以下、カスハラ)防止のための雇用管理上の措置義務が全事業者に適用されます。2027年度の基準改定でも、この措置義務にかかる具体的な取組み内容が示されるでしょう。

たとえば、基本方針の策定やその周知(利用者含む)、相談対応体制の確立、マニュアルの整備、研修の実施などは、事業者が最低限取り組まなければならない事項として明記されるのは間違いないと思われます。

問題は、今回の川口市の事件に限らず、訪問系を中心に従事者の安全がおびやかされる事例が頻発する中、「介護現場特有の状況」を加味した対応策が上乗せされるかどうかです。

ちなみに、厚労省が策定した「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル」では、利用者やその家族等に関する「リスク要因の把握」に関してふれられています。

たとえば、過去に「違法行為や暴力行為、攻撃的な言動があった」などの状況について、事前に多機関・多職種で情報共有を図ること。こうした情報等をもとに、やはり多機関・多職種による対応の検討も示されています。

多機関によるハラスメントリスク把握・共有

いずれもカギとなるのは、地域における多様な機関との連携です。

対象となる利用者が初めて介護保険を利用する場合でも、その利用者および家族が介護保険を利用する際には、市町村や包括の担当者とのやり取りが行われています。利用者が直前まで入院・通院していた場合には、医療機関のかかわりが大きいはずです。

こうした介護以外の多機関から、サービス提供前に「ハラスメントリスク」にかかる情報の入手を事業所の措置義務に加えることが考えられるでしょう。この場合、情報の標準化も必要な点を考えると、国が(各種相談機関や公認心理師、精神保健福祉士などをメンバーとする)専門の検討会を開き、情報提供の様式を確立することも求められます。

ただし、こうした情報について「受け取る」側だけに義務化を図るのでは足りません。やはり、情報を「収集し、提供する」側の対応を促すことも欠かせません。このあたりは、自治体や包括、医療機関の地域連携担当者向けに「協力要請」を図るべきでしょう。

ハラスメントをめぐる周知をいかに広げるか

また、行政や包括などの多機関の協働で「カスハラ防止のための地域としての指針(例.〇〇市では、介護・福祉現場の従事者の安全を守るために、以下の取組みを行なっています、など)」を策定し、介護保険のサービス提供者へとケースがつながる前に、その指針を利用者に周知することが求められます。

たとえば、認定申請の窓口において、「認定後のサービス利用」の流れを説明するとともに、その時点で先に述べた「地域としての指針」と「ハラスメントに該当する言動・行為」についてもリーフレット等で周知するという具合です。さらに、「ハラスメントに該当した行為が認められる場合、サービス提供が停止される可能性がある」ことも伝えます。

これは、医療機関において「介護サービス利用が想定されるケース」での多職種による共同指導などでも同様です。たとえば、医療機関が介護支援等連携指導料を算定する場合に、やはり上記のような「ハラスメント」をめぐる周知を義務づけるという具合です。

地域全体で取り組んでいるという印象を

こうした多機関による協働は、どのような効果が期待されるでしょうか。

たとえば、サービス担当者とのやり取りで、初めてハラスメントに関する周知を受ければ、「それは、その担当者個人の見解」と受け取られる恐れも生じます。しかも、その場面が「利用者宅(つまり、公の場ではない)」となれば、利用者・家族によっては「真摯に受け取らない」ような空気も醸成されがちです。

多機関の協働は、少なくともこうしたリスク軽減を図るうえでは有効と言えるでしょう。いずれにせよ、重要なのは「特定の事業者や従事者を孤立させないこと」。そして、「地域全体でハラスメント防止に取り組んでいる」と、相手に印象づけることです。

これが土台にあってこそ、複数人訪問体制などの施策も活きてきます。とはいえ、同じ事業所の複数人では、やはり「特定の事業所」としての対応に過ぎません。必要なのは、ここでも「多機関を交えての複数人」の体制づくりを模索することではないでしょうか。

たとえば、多機関で訪問先のハラスメントリスクを評価したうえで、必要に応じて、行政や包括の職員に訪問時の同席を要請できる省令改正なども考えられます。どうしても同席が難しい場合、事業所内での複数人訪問が可能な報酬を設定したうえで、タブレットを使ったテレビ通信で多機関の職員も(画面上で)参加するというやり方もあるでしょう。

先に述べた「現場を孤立させない体制」こそを、施策の柱に位置づけたいものです。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。