基本報酬のアップ率だけに目を奪われない。 ひっそり増え行く現場負担との均衡に注意

2027年度の介護報酬改定に向けて、各業界・職能団体から国への要望も目立っています。いずれも、焦点は基本報酬の引き上げです。その基本報酬のあり方に向けては、運営基準等との兼ね合いにも注意しなければなりません。たとえば、今回の法改正が、どこまで基準改定に影響を与えるかもポイントです。

現場負担に見合うだけの基本報酬という視点

基本報酬が上がっても、たとえば運営基準で「現場がなすべきこと(義務化)」の範囲が広がれば、現場負担に対して「賃金の上がり方が少ない」という懸念が生じます。

たとえば、2021年度改定を例に取ると、改定率はプラスとなりましたが、その上げ幅は1%に満たない数字(+0.70%)でした。

一方の運営基準ですが、新型コロナの感染拡大等を受け、感染症対策の取組み強化やBCP策定などが義務化されました。無資格の介護職員に認知症介護基礎研修の受講が義務づけられたのも、この時の改定です。

いずれも3年の経過措置は設けられましたが、コロナ禍を経て、ただでさえ現場が疲弊している中での義務化対応は、従事者に大きな負担となったのは想像に難くありません。

ちなみに、経過措置の最終年となる2023年度には、初めて介護職員の総数が減少に転じました。他産業との賃金格差が下地にあることは間違いないとしても、その賃金格差のさらなる拡大が2024年度であることを考えると、それ以前から現場における「業務負担と賃金のバランス」は崩れていたと言えます。

「算定率の低い加算」の整理で生じること

2027年度改定においても、基本報酬や処遇改善加算が何%上がるかに着目すると同時に、「基準改定等による業務負担増」とのバランスにも注意する必要があります。特に次期改定においては、上記のバランスが崩れかねない要因がいくつか見られます。

1つは、介護給付費分科会のこれまでの議論を通じて、「算定率の低い加算」の整理が示唆されていることです。現場としては「加算を廃止して、その算定分を基本報酬に上乗せする」というやり方を望むところでしょう。

しかし、厚労省に「加算創設の目的(サービスの質向上)を維持したい」という思惑が強いと、以下のような手法に力を入れてくる可能性があります。たとえば、加算を廃止するとして、その要件を運営基準に組み込み、それをもって基本報酬を上げるというもの。あるいは、加算区分を統合して、残す区分の単位を上げると同時に、廃止区分の要件を積み上げるというやり方などが考えられます。

前者では、2021年度に施設系で、2024年度に介護付き有料ホームで、それぞれ口腔衛生管理体制加算が廃止され、その要件が運営基準に組み込まれました。すでにこうした改定例がある点で、同様のやり方がいくつかの加算に適用される可能性は高いと言えます。

今改正で創設・強化された協議体・会議体

業務負担と報酬のバランスに関連した、もう1つの要因は、今回の介護保険法および社会福祉法の改正にあります。

今回の改正を見ると、地域における新たな協議体や会議の開催がいくつも見られます。たとえば、介護・福祉人材確保のための協議会、地域の権利擁護支援(成年後見制度含む)の情報交換・連携体制の整備を担う会議体、その他の地域住民支援のための多様な課題を検討する支援会議の設置も規定されました。

また、既存の地域ケア会議では、頼れる身寄りのない高齢者等への支援課題が、話し合うべき内容に加えられました。ここは、ケアマネのシャドウワークにかかる支援検討も含まれるという位置づけです。

こうしたさまざまな協議体・会議体に、介護現場からの参加がどこまで求められるのかは定かではありません。しかし、少なくとも介護・福祉人材確保のための協議会には、介護事業者の参加も想定されています。地域ケア会議には、以前から介護現場からの参加ケースも見られますが、検討範囲が広がれば、参加メンバーの拡大も考えられます。

協議体等への協力を基準等で定める可能性

これらの協議体・会議体の設置は、自治体に対してすべてが義務化されているわけではありません。しかし、国会制定法で明記した以上、今法制の担当省庁である厚労省としては、できる限り円滑な運営を省令の整備などでサポートする必要があります。

そうなると、介護保険にかかる省令でも、運営基準や加算要件(特定事業所加算など)に「自治体や包括が主催する協議体・会議体への参加要請への協力(その実績を報告するなど)」を明記してくる可能性があります。

このあたりは、やはり今改正の「災害時福祉業務従事者の登録制」などでも同様です。現場従事者に登録の強制はできませんが、自然災害BCPの記載要綱に「登録者を明記する」などを追加することはありえます。

いずれにしても、介護保険の範囲外も含めた地域の支援体制参加が、新たな業務負担となる流れは生じつつあります。その業務実態の変化に、基本報酬や処遇改善加算がきちんと反映されていくのかどうかに注意が必要です。改定議論の最終段階で出てくる話かもしれませんが、負担と報酬のバランスの観点から見過ごさないようにしたいものです。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。