
7月9日の介護給付費分科会では、介護保険施設等がテーマに上がりました。施設系に関しては、特に特養と老健で他サービスとの比較で収支差率が低く、赤字施設も半数近くにのぼります(2025年度介護事業経営概況調査より)。業界団体から上がる要望も切実です。
続く物価上昇で危機的状況の施設経営
同部会において、全国介護老人福祉施設協議会(以下、老施協)から、2027年度改定に向けた要望書が提出されました。
そこでは、老施協の独自調査で2024年度の特養の収支差率が0.0%と過去最低水準になったことが明らかに。また、2026年度臨時改定で食費の基準費用額が引き上げられましたが、食費の高騰に歯止めがかからないため、十分に賄えていないとも述べています。
いずれも急速な物価上昇に、現行の施策が追いついていないことが大きな要因です。こうした状況を踏まえたうえで、要望書では「3年ごとの介護報酬改定サイクルの見直し」にも言及、「毎年の状況に応じて柔軟に対応していくしくみ」の必要性を訴えています。
この「3年ごとの改定サイクルの見直し」については、全国老人保健施設協会も、与党ヒアリングの場などで訴えています。特に食費や光熱費などの拠出が多く、その時々の物価上昇の影響を受けやすい施設系・居住系サービスでは切実感が増す部分と思われます。
介護保険誕生以来、直面したことのない事態
確かに、昨今の消費者物価の動向を見ると、2021年から2025年で約12%伸びています。1年あたり3%ですから、単純計算では2024年度改定で3年分の上昇率9%の報酬引き上げが必要だったことになります。
しかし、実際は+1.59%。厚労省は、光熱費等の基準費用額の増額などによる増収効果を含めると+2.04%としていますが、それでも厳しいことは一目瞭然です。
ちなみに、介護保険制度がスタートした2000年以降の物価動向は、どうなっていたでしょうか。たとえば、2012~2015年で3%超伸びたことはありましたが、それ以外はおおむねフラットかダウンという状況でした。
その点では、介護保険の現場は、制度誕生以来直面したことのない事態を迎えているといえます。2021年度以降、臨時(期中)改定が2回も行われているのも、「3年に1度のサイクルでは追いつかない」ことを政府自らが認めているからと言ってもいいでしょう。
仮に毎年度の見直しとなった場合はどうなる
では、「3年に1度」の改定サイクルを見直すとして、どのような方法が考えられるでしょうか。1年あたり3%アップという物価上昇スピードに合わせるとなれば、当然、毎年度の見直しを求める流れとなりそうです。
ただし、そのつど基準や加算(要件含む)の見直しが付いてくれば、現場としては対応が追いつかないのは必至です。となれば、基準や加算などを含めた大きな見直しは「3年ごと」、物価上昇に合わせた基本報酬、さらに、他産業の平均賃金の伸びに合わせた処遇改善加算の加算率は「毎年度」という具合に、改定範囲を区分する方法が考えられます。
上記の「毎年度」に関して、業界・現場としては、物価や平均賃金の伸びに自動的に合わせる「物価・賃金スライド」を求めたいところかもしれません。しかし、これは社会保障費の高騰を嫌気する財務省などが、首を縦にふらないことは容易に想像できます。
そうなると、毎年度の予算折衝で「物価・賃金の上昇を勘案する」というルールだけを設け、最終的にその時々の政府が決定するということが考えられます。もちろん、「改定率が物価上昇等に追いつかない」ケースは出てくるでしょうが、「どれだけ追い付いていないのか」が見えやすくなるメリットはあります。
公費負担割合のアップ論も付随する可能性
問題は、毎年度「物価上昇に合わせて基本報酬や処遇改善加算を上げる」となった場合に、介護保険の1号保険料にどのように反映させるのか(毎年度反映させるのか)という点です。介護保険事業計画期ごとにまとめて引き上げるというやり方も考えられますが、やはり大きな論点となるでしょう。
それ以前に、物価上昇に追いつくレベルの報酬改定が今後も続くとして、その間の報酬もほぼ自動的に引き上がるとなれば、「物価の上昇規模とともに、保険料も上がる」という状況が生じます。主に年金で生活する1号被保険者はもちろん、第2号被保険者となる現役世代にも大きな負担となります。
そうなると、介護保険財政における公費の負担割合(市町村財政が厳しい状況を考慮すると、特に国および都道府県の負担割合)の見直し論も一気に浮上することが考えられます。つまり、「3年に1度サイクル」の見直しを図るとして、介護保険財源のあり方も見すえる必要が出てくることになります。
もちろん、改定サイクルの見直しを求める中には、「2027年度改定率の大幅引き上げ」に向けた駆け引きの面もあるかもしれません。それでも介護保険がここまで急激な社会変動に追い詰められているとすれば、遅かれ早かれ抜本的な改革の議論は必要となるでしょう。
2027年度改定の動向や、その後の再度の臨時改定の可能性などを見すえつつ、2030年度に向けて「介護保険はどうあるべきか」を根本から考える空気を醸成したいものです。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。