
政府が、「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)2026」を閣議決定しました。この骨太の方針は、毎年度の予算編成に向けた基本方針(重点枠などを設定)という位置づけともなり、今回は2027年度の介護報酬・基準改定の動向にも直結します。
保険料引下げと報酬増を両立する3つの方法
今回の骨太の方針で特筆されるのは、社会保障関係費について「現役世代の保険料率の上昇を止め、引き下げていく」という文言です。これまでも、現役世代の保険料負担の軽減や抑制という言葉は使われてきましたが、今回はさらに踏み込んだ表現となっています。
現役世代の保険料負担を「引き下げる」となれば、介護保険財政を維持し、現場が求めるレベルの報酬引き上げを行なううえで、以下の3つの方策が考えられます。
それは、(1)現役世代以外(1号被保険者)の保険料を引き上げる。(2)利用者負担を引き上げる。(3)給付にメリハリをつけることです。
(1)については、介護保険財源の1号保険料割合の引き上げなどが考えられます。現状では1号と2号の人口比で按分するしくみとなっています。今後、この人口比按分のしくみを見直す議論が出てくる可能性はありますが、今回の骨太方針では触れられていません。
「2割負担拡大」は現役負担減につながるか
(2)については、今回の骨太方針でも「2026年度中に結論を得る」としています。仮に、厚労省が示す素案のうち、もっとも所得基準を引き下げる案(負担増加上限の設定などの配慮措置含む)が実現したとします。しかし、給付額の減少は約220億円にとどまります。
現状で、給付費は年間で1000~3000億円伸びています。そうなると、2割負担者の拡大による給付費抑制の効果は極めて限られます。一方で、物価上昇下で年金生活者の生活状況はさらに厳しくなっていて、その時期の2割負担拡大の強行は、サービス利用控えを生じさせる懸念だけが膨らみかねません。
2号被保険者の多くが「親の介護を担う世代」であることを考えると、保険料上昇の抑制は限られる一方、サービスの利用を控えることにより、現役世代が担う家族介護の負担はむしろ大きくなる可能性もあります。
「給付のメリハリづけ」もいっそう困難に
また、(3)ですが、骨太方針でも「物価と賃金の変動に適切に対応」し、医療・介護・福祉分野の「経営の安定」および「処遇改善」を図るとしています。その中で「メリハリをつける」といっても限界があるでしょう。「経営の安定」に向けては基本報酬の底上げが、「処遇改善」のためには処遇改善加算の上乗せが、それぞれ前提になるはずだからです。
そうなれば、年間の給付増は、先に述べた1000~3000億円をはるかに上回り、保険料引下げの道筋は険しくなります。
仮にこの前提を抜きに、介護分野のDXやAX(AI活用を前提とした業務改革)を報酬上のインセンティブの土台に位置づけるとします。確かにDX・AXにおいて先行する事業所・施設はより発展を続けるかもしれませんが、それ以外の撤退が加速しかねません。
現在、特定地域サービスの「特定地域」の範囲が議論されていますが、上記施策が実行されれば、日本全国が「特定地域」と同じサービス資源不足の状況に陥る恐れもあります。
このように考えると、「現役世代の保険料を引き下げる」という踏み込んだ方針を担保するには、上記(1)~(3)ではない「もう1つの道」を模索することが必要になります。それが、ここでも何度か取り上げている「介護保険の公費負担割合」の引き上げです。
政府は「公費負担拡大」を見すえている?
今回の骨太の方針では、「予算編成の抜本的な見直し」という文言が登場します。今方針に先がけた経済特命担当大臣の政策ファイルでは、以下のような計画が示されています。
それは「歳出規模の総額」は「経済の成長力強化と名目の経済規模の拡大にふさわしいものとする」という内容です。注意したいのは「名目の」という前置詞です。つまり、物価上昇の影響を織り込んだうえでの歳出規模の拡大が視野に入っていることになります。
ここで思い浮かぶのは、昨年度の国の税収額が過去最高を記録したことです。これは、円安にともなう物価上昇が影響を与えていると指摘されています。この過去最高の税収額により、国債発行などに依存せずに国の予算を増やす、つまり介護保険等の社会保障施策において「公費投入の拡大」に踏み込むという施策も浮上する可能性があります。
仮に「現役世代の保険料を引き下げる」ことを最優先し、しかも先の(1)~(3)にこだわらないとなれば、1つの両立策かもしれません。
さらなる物価上昇が土台となる施策への懸念
ただし、この方法は長期化する物価上昇に依存することになります。これによって基本報酬等が上がっても、さらに物価が上昇すれば、現場が実感できる効果は打ち消されかねません。そこで、さらなる物価上昇による税収確保で、さらに報酬の上乗せを図る──このサイクルが延々と続くことになります。
その間に、現場従事者および利用者の生活はどうなっていくでしょうか。今回の骨太の方針は、保険料引下げと拠出拡大という異なるベクトルの両立を何とか図ろうという苦心に走るあまり、介護現場にとっては危険な方向に歩み出しているのかもしれません。
まずは物価上昇を抑えて人心の安定を確保し、社会保障強化による安心を取り戻すこと。現役世代の保険料引下げを問うのは、安心に見合う社会保障となるかどうかを国民が見極める余裕を持ってからではないでしょうか。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。