
中山間・人口減少地域を対象とした「特定地域サービス」について、人員配置基準の弾力化や包括的な報酬のしくみに関する議論が、介護給付費分科会でスタートしました。特に前者の「人員配置基準」のあり方については、職員の負担増やサービスの質低下につながることへの懸念が根強くあります。
介護保険部会の意見で示された5つの担保策
人員配置基準の弾力化が図られた場合の懸念に対し、昨年の介護保険部会の取りまとめでは、以下のような担保策が示されています
「職員負担の配慮への観点」からは、(1)職員の賃金の改善に向けた取組み、(2)ICT機器の活用、(3)サービス・事業所間での連携等を前提とすること。「サービスの質確保の観点」では、(4)市町村の適切な関与・確認、(5)配置職員の専門性への配慮を前提とするものです。
なお、「これらの要件が自治体で厳しく解釈されると、必要な配置基準の緩和が進まなくなる」という意見があったことにもふれています。とはいえ、これらの担保策の着実な実施が保障されない限り、介護給付費分科会の議論は今後も紛糾することは確実でしょう。
たとえば、(2)の場合、いわゆる生産性向上の推進が視野に入りますが、実効性のある負担軽減に本当につながるかについては疑問が残ります。国がかかげる生産性向上は、テクノロジーのランニングコストや全体を管理・運営できる組織体制が必要という観点から、資力・規模ともに一定以上の法人・事業所でこそ効果が発揮されるという意見もあります。その「一定の規模」等の法人・事業所が、中山間・人口減少地域においてそもそも少ないという課題も指摘されるところでしょう。
「連携体制の確保」には入念な準備が必要
そこで次に浮かぶのが、地域の事業者同士の協働によって体制規模を確保する((3)の連携体制の確保)というビジョンです。
しかし、異なる事業者同士の連携というのは、双方の組織風土の溝をどのように埋めるかといった点で入念な準備が必要です。この準備が中途半端だと、職員の身体的・精神的負担は逆に高まる恐れがあり、結果として利用者にも不都合が生じかねません。
これを防ぐうえでの「入念な準備」となれば、行政の強いリーダーシップとマネジメントが求められます。行政の中で、それらを発揮できる人材を育てるしくみが整っていないと、今度は行政側の人材がつぶれかねません。
結局のところ、(2)および(3)は、(行政の担当者も含めて)すべての人材が「地域の高齢者を支えること」への価値を見出し、施策への求心力を高められるかがカギとなります。
ただし、すべての人材が上記の価値を見出すには、それに見合う安心・安定が確保されなければなりません。ボランティア精神に期待するのでは、到底実現は不可能です。
やはり大前提は「賃金改善の取組み」に
となれば、やはり大前提は、(1)の「賃金の改善に向けた取組み」となるでしょう。
問題は、その原資をどこに求めるかという点です。たとえば、特定地域サービスの報酬について、特別地域加算を超えるレベルでの上乗せを図ること。同時に、処遇改善加算の加算率も引き上げることが考えられます。
こうした報酬上の優遇策の強化に加え、たとえば、新規入職者の住居確保等にかかる費用補助なども拡充できれば、担い手を都市部から引き寄せる一助にもなりえます。
もっとも、高い介護報酬をつけることは、1号保険料の引き上げにつながりかねません。また、補助金(地域医療介護総合確保基金含む)も、地元負担分を考えると、自治体による財源確保が難航することも予想されます。
その点では、対象地域を定める(予定)の都道府県や該当する市町村が、「地域の財政」と「住民の介護に対する安心感」のバランスをどう考えるかが問われることになります。
ケアマネをサービスの質チェックに登用?
厚労省としても、2027年度予算編成に向けた財務省等との折衝を念頭に置けば、(1)にかかる大幅な予算増は避けたいのが本音でしょう。とはいえ、(1)の設定が不十分なら、(2)、(3)の対応強化だけで、介護給付費分科会の総意をまとめることは困難が予想されます。
結果として、人員配置基準等の柔軟化は、すでに設けられている施策の範囲内で、激変を回避しつつまとめていくことになりそうです。すでに素案で出ていますが、現行の基準該当サービスの基準設定例(例.訪問介護における常勤要件の緩和など)や、テクノロジー活用等によって配置基準の弾力化が図られている特定施設などを参考にするものです。
とはいえ、こうした弾力化対象の地域・サービスが広がるとなれば、「柔軟化がスタンダードになりかねない」という危惧も浮上するでしょう。そこで問われるのが、サービスの質確保に向けた(4)の内容、つまり、保険者によるサービス提供状況の確認が、随時かつ確実に行われるしくみを設けることです。
その場合、(やはり人材が不足する)行政の担当者が、そのしくみを適切に担えるかどうかが問題となります。ここで気になるのが、厚労省が示す論点の中に、「ケアマネをはじめとする地域の関係者」と事業所の連携が登場することです。つまり、ケアマネを「サービスの質」のチェック役に据える可能性が示唆されているわけです。これも、新たな論争を巻き起こす火種となるかもしれません。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。