
厚労省より、「保険薬局等規則第2条の3の2第2項」に規定する「経済上の利益の提供による誘引の禁止」についての通知が出されました。同規定は、高齢者施設等への利益提供(患者紹介等の対価)により、特定の調剤薬局への患者の誘導を禁止したものです。
リフィル処方箋との兼ね合いにも注意
この規定をめぐる制度背景について、もう少しかみ砕きましょう。処方薬は、患者が医療機関の診察を経て受け取った処方箋を提示することで、全国の保険調剤薬局での受け取りが可能です。薬局側は、その処方箋に沿って調剤を行なって調剤報酬を受け取ります。
では、要介護の高齢者など、自分で調剤薬局に行けないケースはどうなるでしょうか。この場合、代理人が調剤薬局に出向いての処方薬受取りが可能です。患者本人の処方箋や健康保険証、お薬手帳(推奨)があれば、原則として委任状などは必要ありません。
この場合の代理人としては、主に家族、あるいは居宅ホームヘルパー等が想定されます。本人が施設等に入っていて、しかも家族等が対応できない(身寄りがないケースなども含む)場合、その施設側で代わって受け取ることもあります。今回の通知は、そうしたケースにおける問題事例に対処したものです。
ちなみに、このケースでは、施設側の通院同行などの際に本人に代わって受け取ることが多いかもしれません。ただし、リフィル処方箋(症状が安定している患者等を対象に、一定の期間内に最大3回まで、診察なしに薬を受け取れる処方箋)が2022年度に導入されたことで、通院時以外で薬だけを受け取りに行くケースはさらに増える傾向にあります。
「利益供与」にあたる範囲は意外に広い?
薬局側としては、処方薬を要する利用者が集住している施設等が「受取りの常連」となれば、給付による収入が増えます。
そうなると、施設側に対して利益供与を行ない、調剤依頼の誘導を図るという行為も生じやすくなります。こうした癒着があると、患者(施設等の入所・入居者)が調剤薬局を選択する権利が損なわれます。そこで、冒頭の保険薬局等規則で禁止されているわけです。
しかしながら、利益供与にあたる「金品」の範囲は、これまで明確にされていませんでした。そこで、2026年度の診療報酬改定で、以下のようなケースも含まれることが示されました。今回の厚労省通知では、介護施設等に向けて、その周知を図ったことになります。
明確化されたケースには、施設等で活用する配薬カートや調剤棚、あるいは施設職員による入所・入居者への配薬を支援するシステムなども含まれます。一方で、服薬カレンダーや服薬ボックスなど、保険薬局の薬剤師が個別の患者に対する服薬管理指導業務の一環と判断したものは対象外となっています。
配薬ミスを防ぐシステムも「利益」対象に
たとえば、介護施設等では、利用者への配薬ミスを防ぐために、QRコードや顔認証によって本人確認を行なうといったシステムなどを導入するケースが増えています。
配薬ミスは、(特に配薬が集中する食前・食後、就寝前など)現場が慌ただしくなるタイミングでリスクが高まります。現場の人員不足が常態化する時代に、介護施設等には深刻な課題の1つであり、先のようなシステムへのニーズが高まるのもうなずける話です。
ただし、こうしたシステムの導入や設定、メンテナンスなどには、相応のコストがかかります。そこで、薬局側から「こうしたシステムがある」と紹介され、「設定も含めてお手伝いしましょうか」という申し出があれば、施設側が「つい受けてしまう」というケースも十分に考えられることです。
注意したいのは、こうした申し出が第三者(薬局から依頼を受けたメーカーの営業など)経由であったり、安価で貸与するといったケースでもNG対象になることです。「見返りでの患者紹介はしていない」と言っても、(アクセスがいいなどの理由で)特定の調剤薬局での受け取りが集中すれば、実態として「見返り」と見なされる可能性は高いでしょう。
調剤薬局と施設等の距離感がますます課題に
さて、先に述べたような配薬システムは、AI搭載などにより急速に進化しています。それだけ現場ニーズが高いことの証とも言えます。そして、実際に「なじみの調剤薬局」の薬剤師などにシステム導入等のアドバイスを求めるケースも多いのではないでしょうか。
厚労省としても、そうした実情を踏まえたのか、これまで規則の明確化が図られていなかったことを受けて、以下のような経過措置を示しています。それは、「2026年6月23日」時点において、保険薬局の継続的な費用負担(一部負担による安価な設定含む)によって行われている行為(システム運用など)については、「2027年5月31日」までは「経済上の利益の提供に該当しない」という内容です。
それだけ、調剤薬局と介護施設等の距離感が縮まっている時代を反映しているとも言えます。たとえば、調剤薬局を併設している住宅型有料老人ホームなども増える傾向にあります。その薬局が住まい運営と同一法人である場合の患者の薬局選択権は、どうやって担保されるのか。老人福祉法の改正による入居契約条項をめぐる省令・通知をめぐり、より詳細な内容が示されることも考えられます。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。