2025年度介護労働実態調査より── スポットワーク動向から浮かぶ管理側の責務

公益財団法人・介護労働安定センターが、令和7(2025)年度の「介護労働実態調査」の結果を公表しました。今調査では、特に介護現場でのスポットワーク(ネットによる1日単位での募集・雇用)をめぐる動向が取り上げられています。この調査から、どのような展望・課題が浮かんでくるでしょうか。

スポットワークをめぐる行政・業界の動き

過去1年のスポットワークの利用については、「ある」と答えた事業所が8.9%です。この数字を「多い」と見るか、「少ない」と見るかは意見の分かれるところでしょう。そこで注目したいのが、行政・業界の動きです。

今回の調査が行われたのは、2025年10月です。その直前(7月)に、厚労省がスポットワークの「労務管理」にかかる注意点をまとめたリーフレットを示しました。

そこでは、事業者の求人に対し、就業希望者(スポットワーカー)が応募した時点で労働契約が成立することが明確化されました。そのうえで、いったん確定した労働日や労働時間等の変更は、事業主とスポットワーカー双方の合意が必要な点も強調されています。

さらに、事業主の都合で休業や早上がりをさせる場合には、休業手当を支払う必要があることや、事故等でケガをした場合の労災給付の対象となること(事業主の労災保険料が発生する)、その他、労働基準法(労働条件の明示など)の適用も守らなければなりません。

なお、上記のリーフレットを受けた、業界団体である一般社団法人・スポットワーク協会が「スポットワークサービスにおける適切な労務管理へ向けた考え方(2026年3月改定)」を示しました。同年9月には、上記にもとづく業界ルールの適用も始まっています。

スポットワーカーとの労働契約をめぐる懸念

つまり、今調査は、スポットワークに関する規制の動きが慌ただしくなったタイミングで行なわれたことになります。その点で、「規制内容を検討しつつ、スポットワーカー雇用の有無を判断する」といった、一定の熟慮期間を要する事業者も多かったと思われます。

この点を考えれば、スポットワーク利用が8.9%という1割近い数字に上ったことは、「意外に多い」のかもしれません。

その半面、すでに人材不足が常態化している中では、早期からスポットワーク利用に踏み込んでいた事業所も相当数あり、その数字がそのまま現れているとも考えられます。

その場合に浮上するのは、果たしてすべてのケースで、厚労省のリーフレット(通知)や業界ルールに則った労働契約などがきちんとなされているのかという懸念です。事業者側の「使い勝手がいい」という考え方が先行している場合、さまざまな労働上の問題が潜んでいる可能性はないのかが気になります。

人材が「過剰」なのにスポットワーク利用?

今調査からは、気になる点がもう1つ浮かびます。それは、介護職員の「過不足状況別」のスポットワーク利用割合です。

結果を見ると、やはり介護職員の不足感が強い現場ほど利用率が高くなっています。一方で、人材が「過剰」というケースでも利用割合が約12%にのぼります。この数字は、人材の充足が「適当」の8.2%を上回っています。

人材が「過剰」であるなら、仮に職員が有給休暇や育児・介護休業等を利用しても、今いる職員で業務を補うことは可能なはずです。にもかかわらず、スポットワークを利用するというのは、「人材不足のカバー」ではない目的があると考える必要もあるでしょう。

たとえば、スポットワーク利用の理由を尋ねた調査では、目下の人材確保(必要とするマンパワー〈人数〉の確保が容易にできるなど)以外に、以下のような項目で一定の回答が見られます。それは、「正社員や(日々雇用でない)有期雇用職員への雇用につなげられる(27.8%。全項目中3位)」というものです。

スポットワーク時代こそ求められる育成力

たとえば、スポットワークでの勤務状況を通じて「有望な人材」を見極め、その後に正規職員として改めて採用するケースが想定されます。スポットワークの雇用仲介を行なう事業者の中には、こうした「お試し雇用」的なメリットを打ち出している例も見られます。

この点で、先の「(人材が)過剰」という事業者において、常に一定数のスポットワーカーを雇用しつつ、正規登用につなげていくという戦略が立てられている可能性があります。確かに職場と人材の適切なマッチングという観点では、1つの考え方と言えるでしょう。

ただし、常に「一定程度のスポットワーカーが現場にいる」という環境下で、利用者の「ちょっとした異変」などを組織で共有することに支障が生じないかどうかは気になります。人材の流動化が進む可能性もある中では、利用者の個人情報などが外部に漏れないようなセキュリティ強化も課題となるでしょう。

正規職員を募集しても「反応がない」という状況も多い中、スポットワークを雇用の入口とする流れは今後も強まることは確実です。そうした時代だからこそ、人を育て、組織を活性化していくための事業者の力量は今まで以上に問われます。今調査での「スポットワーク利用の理由」では、「労務管理の負担が少ない」という回答も一定程度見られますが、こうした認識には危うさも漂います。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。