
消費者庁の消費者安全調査委員会が、「車椅子使用者を自動車で送迎中の事故にかかる事故等原因調査」についての経過報告を公表しました。事故防止に向け、自動車の固定装置や車椅子の機能に応じた対応が要されるなど、現場負担との兼ね合いも気になります。
消費者庁報告書の提案が制度に与える影響
今回の経過報告については、2027年度の介護報酬・基準改定にも影響を与える可能性があることにまず注意しましょう。
たとえば、同報告内では、「複数の製品およびサービスが関係する事故」であることが指摘され、現状の「事故情報の収集に課題がある」としています。そのうえで、2026年度中に稼働予定の事故情報報告システムに関し、新たな報告内容の入力も提言されています。
具体的な提案内容としては、車両における車椅子固定装置の有無や実際の固定の有無、シートベルトの装着の有無──などが記されています。ただし、この提案は、結果として「適切に固定・装着が行われている・いない」にスポットを当てたものに過ぎません。
今報告では、車種による固定装置の違いにかかる確認が十分に周知されていない点や、車椅子の種類によってシートベルトが適切に装着されない事例なども示されています。つまり、事故防止に向けた対応として、送迎時点における「確認」はもとより、そこから遡って「事前に確認・調整すべきこと」という課題まで視野に入っていることになります。
この事前対応については、通所介護等での送迎に際して「居宅での福祉用具(車椅子)の調整」などを求める案も浮上するかもしれません。それは、福祉用具専門相談員や担当ケアマネのかかわり方にも波及しそうです。
シートベルトの適切な装着を確認するのは?
たとえば、ケアプラン上で通所介護の利用を位置づけたとします。同時に、移動に際して常時車椅子の利用が要される場合、その人に合った車椅子の貸与が行われるとしましょう。その際、先の事故防止の観点では、貸与された車椅子に関しての「シートベルトの適切な装着」を考慮する必要が浮上します。
ちなみに、今報告では、シートベルト装着時の課題として、車椅子のアームサポート(アームレスト、腕の支持装置)、スカートガード(駆動輪に衣類が巻き込まれてしまうのを防止する構造)が、シートベルトの適切な装着を妨げる可能性があるとしています。
もちろん、このあたりも自動車の取扱い説明書をよく読めば、車椅子の形状・構造に応じたシートベルトの適切な装着方法が示されています。その点では、送迎を手がける事業者側での研修・周知の徹底が前提となります。
とはいえ、利用者の確実な安全確保を図るうえでは、チームでの事前確認の必要性も問われそうです。サ担会議などを通じ、福祉用具担当者から通所介護等の担当者に改めて注意を促すほか、初回の送迎時に福祉用具担当者が同行し、シートベルト装着状況の目視によるチェックが求められるかもしれません。
共同送迎などが増えていく時代のリスク
また、以下のようなケースも問題となりそうです。昨今は、送迎車両の運転手確保が困難な地域も増え、車両整備等のコストも事業者経営を圧迫しつつあります。そうした中で、複数事業所による送迎車両のシェアを行なうケースも見られるようになりました(厚労省も、2024年度から共同送迎を認めています)。
その場合、たとえば居宅から利用者を乗せる際には、送迎を手がける事業者によって車椅子の固定やシートベルトの装着を確認することになるでしょう。この時点で、車椅子ごとの注意点などについて確実に申し送りされるかどうかが問われることになります。
すでに、こうした注意点を利用者ごとにAIが指示するアプリなども開発されています。とはいえ、送迎シェアをめぐるシステムは発展途上であり、過渡期においては、異なる事業者間での確認の徹底で抜け落ちが生じるリスクが高まらないとも限りません。
送迎にかかる報酬評価の見直しも必要か
こうした状況を踏まえ、厚労省としては通所時等の送迎に関して、まとまった通知を発する可能性があります。先に述べた担当ケアマネ等の「事前確認」などについても、何かしらの注意点が示されるかもしれません。
なお、送迎ということで言えば、昨今の気象状況との兼ね合いにも注意が必要です。具体的には、先だっての千葉県等の関東地方の豪雨に際して、「アンダーパス(道路や鉄道の下をくぐり抜けるために低くなった立体交差道路など)」で車両が水没して動けなくなるといったケースなどが挙げられます。
事業所における送迎ルートの事前確認では、事故が多発するポイント等の注意点などが共有されているでしょう。加えて、急激な気象変化などが生じやすくなっている時代状況も念頭に置きながら、地域の危険箇所などを改めて見直すことも求められそうです。
こうしたさまざまな状況を考えた時、車両による送迎については(送迎未実施減算ではなく)、リスクマネジメントの強化という観点からの報酬上の新たな評価も検討すべき時期に入っているのかもしれません。今回の消費者庁の方向を1つの契機として、介護給付費分科会でも「送迎をめぐる評価」のあり方を見直す議論が求められそうです。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。