短期的な人材課題だけではない。在留手数料引き上げがもたらす「介護の未来」への懸念

政府は、外国人の在留資格の変更・更新にかかる手数料を10月から引上げることを閣議決定しました。たとえば、在留許可期間が3年以上だと、現行では許可期間にかかわらず窓口申請で6000円ですが、これが10倍以上となります。介護現場にとっては、短期的な人材確保にとどまらない影響が危惧されます。

手数料大幅引き上げが業界に与える衝撃

昨年末から今年にかけて、全国介護老人福祉施設協議会が実施した外国人介護人材受入れ実態調査では、「受入れ」を行なっている介護施設・事業所は51.4%と5割を超えました。そのうち、「増やしたい」+「やや増やしたい」という回答も5割を超えています。

この数字は、2025年度の介護労働実態調査の受入れ状況(18.6%)と比較すると、かなり高くなっています。老施協会員対象のwebアンケートという特性もあると思われますが、業界として「外国人介護人材への期待感」がなおも伸びている状況が現れています。そうした中、今回の在留手数料の引上げは、業界にとって大きな衝撃なのは間違いありません。

ただでさえ、割合の高い「特定技能1号」の受入れ上限が近づく中、すでに現場で働く外国人人材に対し、早期に介護福祉士を取得し在留資格「介護」を得られるよう、施設・事業所は従来以上に力を入れています。

ところが、在留資格「介護」を取得しても、在留期間の更新に必要な手数料が跳ね上がるとすれば、仮に施設・事業所として費用サポートをするにしても、10倍以上というコストに耐えられるのかが問題となります。

在留資格「介護」を目指す当の人材にしても、帯同する家族分の手数料までサポートされるかが不透明であれば、介護福祉士取得の意欲は大きく低下しかねません。

「生計が立てられない」外国人人材が急増⁉

今回の手数料の改定は、欧米並みに近づけることが狙いとされています(今改定で一部の国を上回る可能性もあります)。しかし、ここまで高い引上げ幅を一度に行なうなら、現に働いている人、そしてその人が働いている現場への影響は当然考慮されるべきでしょう。

まず、当人にしてみれば、「生計が立てられない」という状況に直面します。賃金が確実に伸びる業界ならともかく、他産業との賃金格差が一向に埋まらない介護業界では、早晩「日本での勤務継続は無理」となるでしょう。

事業所・施設としては、できる限り費用面のサポートを行なうにしても、現行の介護報酬では限界があるのは明らかです。短期的には、介護人材の確保環境は急速に悪化し、施設等では利用者の受入れを制限せざるを得ないといった事態も生じる可能性があります。

以前から「外国人に頼らず、日本人を雇えばいい」という意見があります。しかし、現に就労している外国人介護人材が7.5万人規模で、(2040年に向けて)1年あたりに必要な介護人材の増員数の2年分に相当します。介護報酬や処遇改善の現状を見れば、それだけの日本人人材を確保することが非現実的であることは言うまでもありません。

現場を支えるベテラン人材も失われる懸念

考えなければならないのは、今回の手数料引上げによる影響がおよぶのは「短期的な人材確保」にとどまらないことです。

すでに外国人介護人材の中には、介護福祉士を取得して在留資格「介護」を得ている人も多数います。現場を統率する力量や高いマネジメント力を発揮できる人の中には、特養ホーム等の施設長やケアマネとして勤務しているケースも見られるようになりました。

そこまでの立場でなくても、在留資格「介護」が設けられてから10年が経過しようとする中で、ベテランの域に入って定着している外国人人材もいます。新人職員を指導したり、現場のシステム構築や(日本人の)同僚の相談に乗る場面も見られます。

そうした人材が仮にいなくなれば、組織自体が機能しなくなる現場も出てくる恐れがあります。手数料引上げは今年10月ですが、その後に訪れる2027年度改定に向けた対応体制にも影響を与えることになるでしょう。

世界に誇れる「日本の介護」を閉ざすのか?

あらゆる業界も事情は同じでしょうが、特に介護分野は事業者のコストねん出も従事者の賃金も、ほとんどは公定価格による介護報酬で成り立っています。となれば、今回のような在留にかかる手数料の一気の引上げに対し、事業者が十分に費用サポートできるだけの報酬を上乗せすることが国の責務でしょう。

どうしても手数料を欧米並みに近づけたいなら、業界特有の事情に応じて漸進的な引上げとし、それに合わせて介護報酬をスライドアップさせることもしかるべきです。仮に介護報酬でまかなえないのであれば、公費による恒久的な補助金も検討されるべきでしょう。

介護業務は、個々のバックボーンにかかわらず、その人らしい人生のあり方を一緒に考えサポートすることが理念の根底にあるはずです。そうした理念を実践しようと日本を訪れた人の職業人生を、「外国人」というバックボーンだけで閉ざしてしまう──そうした施策が、(若い人材が胸をはって就業できるだけの)世界に誇れる「介護の未来」を創造できるのでしょうか。もう一度立ち止まって考えるべきなのかもしれません。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。