
8月28日の介護給付費分科会では、介護従事者の処遇改善や介護現場の生産性向上などがテーマとなりました。両者がセットになりがちな昨今、これまで生産性向上にかかる報酬上のしくみがほとんどなかった訪問・通所等の居宅系サービスで、国がどこまでテコ入れを図ろうとするのかが気になります。
特定地域サービスの議論にどうかかわるか?
訪問・通所系も視野に入れた生産性向上のあり方については、特定地域サービスにおける「人員配置基準等の柔軟化」の議論も視野に入っていることは間違いありません。上記地域では、訪問・通所、そして居宅介護支援まで含めた居宅系サービスの不足が特に深刻で、その対応が大きなテーマだからです。
その解決策の一環として、人員配置基準等の柔軟化に際し、それが「現場従事者の過剰な負担」につながらないような確実な担保策が求められます。その土台として、「居宅系サービスの生産性向上」のあり方を固めておく必要がある──そうした思惑もあるでしょう。
ただし、居宅系サービスにおける生産性向上の推進を制度化するのは、並大抵ではありません。生産性向上の推進を図るための委員会設置1つとっても、小規模事業所も多い居宅系サービスでは、それ自体が「現場負担を増やしかねない」という矛盾をはらみます。
実際、分科会で示されたデータでは、委員会設置が義務づけられている施設・居住系等について(2027年3月末までの経過措置あり)、「委員会設置をしていない」理由のトップは「職員の業務負担が多い」となっています。
現場従事者の複合的負担を解消できるのか
生産性向上の具体的な手段となるテクノロジー導入についても、特養ホームの9割をはじめとして施設・居住系の導入率は高いものの、訪問介護で約4割、通所介護でも5割(地域密着型は4割弱)にとどまります。居宅介護支援に至っては3割を下回ります。
訪問・通所系での4~5割についても、その多くは介護記録ソフト等の介護業務支援機器です。確かに、音声入力等による介護記録の自動作成やAIによる通所での送迎ルート・従事者シフトの作成といったシステムなどは、現場の業務負担軽減にはつながるでしょう。
しかし、それらをもって施設系等の生産性向上推進体制加算や、人員配置基準の柔軟化の要件に位置づけるのは、やや無理があるかもしれません。というのは、職員の業務負担は、「(デスクワーク等の)業務の煩雑化」による「時間的」な負担に加え、(短時間であっても)利用者の介助行為にかかる「身体的」な負担、緊張度の持続にかかる「精神的」な負担が複合的にかかわっているからです。
「時間的余裕」だけではない視点が必要
煩雑業務からの解放で「時間的」な余裕ができたとしても、「身体的」「精神的」負担が持続すれば、たとえば生産性向上推進体制加算の(Iの)指標にある「心理的負担等の変化(SRS-18等)」の改善には結びつきにくくなります。タイムスタディ指標で(時間的に)「休憩」が十分に取れたとしても、その「質」が低下していれば、生産性向上の効果が上がっているとは言えないでしょう。
時間的な負担以外の「身体的」「精神的」な負担軽減のためには、前者であれば介助動作をアシストする機器(装着型のパワーアシスト機器含む)などが想定されます。現場の熱中症リスクも高まる昨今では、従事者個々のリスク(身体に熱がこもりやすい体質など)を測定するデバイスなども開発されています。こうした最新機器も、広い意味で「身体的」な負担の軽減につながるでしょう。
また、「精神的」な負担軽減では、施設等では導入が進んでいる夜間の見守りセンサーなどがあります。ただし、センサーの精度によってはアラームの誤報が多くなりがちで、緊張の持続からなかなか解放されないこともあります。以前よりかなり改善されたとはいえ、最新型への入れ替えコストや精度が上がることでメンテナンスコストが上がることもあり、こうした点も課題となります。
利用者にとっての生産性向上を改めて問う
この「身体的」「精神的」負担の軽減に踏み込む場合、居宅系サービスでどこまで整備が可能でしょうか。たとえばコスト面で、現行のテクノロジー導入支援事業等の補助金でまかなうことができるのか。福祉用具貸与との住み分けが問題となるケースはどうなるのか。このあたりをまず整理し、現場ニーズに則した支援策を拡充することが前提でしょう。
そのうえで重要なのが、「その生産性向上は利用者にとって直接的なメリットがあるのか」という点です。従事者の負担軽減により、「利用者と接する時間が増え、尊厳あるケアに向けた余裕ができる」などがよく指摘されます。しかし、それらはあくまで「余裕が生じること」による「間接的な効果」に過ぎません。
利用者にしてみれば、生産性向上にかかる報酬上の評価導入は、利用者負担や保険料の増大につながりがちです。また、生産性向上が人員配置基準の柔軟化につながる可能性があれば、そもそもケアの質の向上に寄与するのかという疑念も生じるでしょう。その納得を導けるビジョンを示さなければなりません。
居宅サービスは、利用者の多様な生活環境に密着しつつ提供されています。その環境下での「生産性向上」には、より繊細な配慮が要されることを議論の前提にしたいものです。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。