時期改定のカスハラ対策強化で問われること。 たとえば疾患起因のケースをどう考えるか?

8月の介護給付費分科会では、介護現場におけるハラスメント対策もテーマに上がりました。カスタマーハラスメント(以下、カスハラ)対策をすべての事業者に義務づける法律(改正労働施策総合推進法)が10月に施行されるのを受け、運営基準における義務化の範囲などがどこまで広がるか注目されます。

2022年改訂マニュアルが対策のベースに

今回の改正法成立の以前から、介護現場でのカスハラ対策の強化は、最重要課題の1つとして浮上してきました。

すでに厚労省は、2022年に改訂された「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル」において、主にカスハラ(利用者やその家族からのハラスメント)に関する対策の基本的な考え方や具体的に取り組むべきことを示しています。2027年度の運営基準の改定や、新たな体制加算等の要件が設けられるとすれば、このマニュアルもベースとなりそうです。

基本となるのは、カスハラに関する事業所・施設としての基本方針を定めたうえで、従事者に「カスハラは働き手の権利侵害にあたること」を改めて周知することでしょう。

その際に不可欠なのは、「何がカスハラに当たるのか」を同時に明確にすることです。これにより、仮に従事者がカスハラを受けた際、「相談していいのかどうか」などの迷いから対応窓口へと早期につながらない(相談窓口が機能しない)ことを防ぎます。

何をもって「カスハラとするか」が課題に

たとえば、「かなりこじれた状態になって初めて相談が寄せられる」というケースも報告されています。その時点で相談に乗っても、すでに従事者は深刻なダメージを受けていて、当人にとっての効果的なケアが行き届かず、結局は休職や離職につながってしまう──これは管理側にとって大きな悩みでしょう。

このように、相談対応を機能させるうえでも、「何をもってカスハラとするのか」を明確にすることは、事業者責務の前提となります。先のマニュアルでは、「カスハラにつながるリスク要因」の把握も提示されています。これも「何をもってカスハラとするか」を明確にすることで初めて機能することになります。

ただし、他の業界と異なり、介護現場特有の難しさもここにはあります。今回の改正法におけるカスハラの趣旨では、「利用者・家族等の言動であって、従事者の業務の性質等に照らして、社会通念上許容される範囲を超えたもの」とされています。この「業務の性質」と「社会通念上許容される範囲」が、介護現場ではどうなるのかが気になります。

認知症等に起因する場合、契約解除は可能?

たとえば、介護現場では、「認知症によるBPSD」や「高次脳障害」などで利用者の感情コントロールが困難になるといったケースがよく課題となります。もちろん、こうした疾患等に起因するとしても、従事者が具体的な危害を被るとなれば、そうした事象から従事者を守ることは事業者にとって必須です。

問題は、従事者を守る場合に、採りえる事業者側の手段です。カスハラに対する対応策には「サービス提供の拒否」つまり「契約解除」も想定されますが、介護保険法上では「正当な理由」があった場合のみの適用です。この場合の「正当な理由」は、個別具体的な事情に照らして判断されるとされています。

先のマニュアルでは、認知症のBPSDに起因する事象については、「ハラスメント」としてではなく、あくまでBPSD改善に向けた医療的なケアや組織的なアプローチの必要性が強調されています。しかし、現実問題として従事者に具体的な被害が及んでいる場合、組織的なアプローチ等へと「つなぐ」時点で、事業者自体は「契約解除」ができるのか否かが議論になる場面も生じるでしょう。

組織アプローチできる体制づくりが大前提

仮に、その利用者の言動が何らかの疾患に起因する場合に、「契約解除」の要件は適用されないという規定が定められたとします。そこで問われるのが、地域によって医療的ケアや組織アプローチにつなげるだけの体制が築かれていないケースです。その場合、行政等が「契約解除はできない」という判断だけが下されてしまうと、現場としては「なすすべなし」の状況に追い込まれかねません。

逆に(地域のサービス資源の消耗などを行政が恐れて)「契約解除もやむなし」という判断に至れば、今度は利用者側の支援が宙に浮く恐れが生じます。極端な話として、「認知症BPSDの悪化防止」の効果を上げるだけのケア体制が整っていないという環境要因だけで、「従事者がカスハラに準じる事象を受けたから」と、サービス利用が閉ざされてしまうという事態も生じることになります。

厚労省としては、認知症等の疾患に起因するケースは「契約解除の正当な理由にならない」と明記したいところかもしれません。認知症基本法や障害者総合支援法といった法体系との整合性が常に求められるからです。

しかし、必要な支援体制が不十分であれば、各法との整合性だけを掲げても、従事者および利用者の混乱と不安を招くだけとなりかねません。ここは、「守るべき者」の立場に立った資源の拡充をどのように図るのか、「契約解除」等の判断を誰が・どのような基準で決定するのかを徹底的に議論することが必要です。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。