自然災害ハザードエリアが急拡大する時代、 BCP効果を上げる地域のサポート強化を

今年7月に発生した熊本地震や頻発する豪雨災害など、全国的に大規模災害リスクを痛感する機会が増えています。こうした中、介護給付費分科会でも、災害時等における業務継続の取組み強化が論点となりました。人員不足等で介護現場が疲弊する中、地域を守るだけの「枠組み」のあり方が問われています。

「現場でできることには限界あり」を前提に

気象庁の資料によれば、わが国では大規模地震につながる活断層数は、約2000あるとされます。また、近年の気候変動によって線状降水帯の発生等の豪雨災害リスクも増しています。今や、全国どこで介護サービスを運営していても、自然災害とは無縁という地域はほとんどないのが実感でしょう。

そうした環境変化においては、自然災害発生時を想定した業務継続計画(BCP)の策定も、いざという時に「それが現場で本当に役立つのか」がますます強く問われています。

いったん大規模災害が発生した場合、人的被害やインフラの途絶などが次々と発生すれば、たとえ大規模な事業所・施設でも「現場単位でできること」はどうしても限られます。やはり、市町村や都道府県を含めた、多機関との連携強化を「災害発生時の実情」にもとづいて再構築することが不可欠です。

行政によるコーディネート力も問われるが

この場合の多機関連携では、たとえば利用者を一時的に他の事業所・施設へ移す(あるいは、他地域からの応援を受け入れる)ためのコーディネートなどが考えられます。

ただし、そのコーディネートに向けては、行政等が各現場の被害実態を迅速に把握することが必要です。その実態把握に向け、施設・居住系サービス等を対象に設けられているのが、「災害時情報共有システム」です。

同システムは、介護サービス情報公表システムを通じ、現場の人的・建物被害やライフラインの状況、支援の要否などを国や都道府県、政令市に報告するしくみです。この報告をもとに、国や自治体から被災施設への適切な支援につなげることが目的とされています。

ただし、同システムについて、介護給付費分科会では「被害が特に甚大な施設ほど停電や通信障害によって、そもそもシステムに入力できない」といった点が指摘されました。

また、被災下での「入力作業の負担」という問題もあります。こうした入力作業もBCPにおける訓練の一環とする施設もありますが、そもそも「同システムを知らない」、あるいは「知っているが入力方法を把握していない」という施設が6割を超えています。

自治体との情報共有チャンネルの整備

こうした状況を考えると、同システムの普及・啓発を行なう一方で、現場状況を自治体と共有するチャンネルについて、地域の実情に即した手法を整理することも必要でしょう。

たとえば、BCPの策定・見直し時に自治体担当者と協議し、先のシステムが使えない場合やシステム入力の対象外となっている居宅系サービスに関して、一義的な情報を自治体が集約する手段を検討するという具合です。

自治体によってはLINEを使った防災チャットボットなどを採用していますが、その一環として被災事業所・施設とやり取りできるしくみを構築する方法もあるでしょう。大規模な通信障害が発生した場合を想定し、指定避難所に衛星通信が活用できる環境を設置するなどの対応策も、自治体と事業者との協議を通じて検討することも考えられます。

問題は、この指定避難所あるいは重度者が避難する指定避難所の整備です。BCPや非常災害対策計画では、利用者がこうした避難所に身を寄せた場合の対応のポイントなども記すことが求められますが、避難所によって環境が異なることに注意が必要です。

内閣府が2022年10月時点で調査した内容ですが、指定避難所における防災機能設備等の確保状況を見ると、4割近い避難所で冷房機器や非常用発電機等が整備されていません。通信設備についても同様です。断水時のトイレ対策も未整備が3割近くにおよびます。

指定避難所を連携拠点として強化するには

先の通信環境について言えば、仮に指定避難所に少なくともwi-fi等が完備されていれば、避難した利用者の状況を確認しつつ、随時被害状況を自治体と共有できる可能性は高まります。スマホの充電や豪雨災害でPCが浸水したといった場合の機器貸与が可能であれば、やはり自治体との連携を維持し、適切な支援への期待値も上がるでしょう。

しかし、冷暖房機器さえ備えられていない避難所もある中で、上記のような通信環境の整備はどうしても二の次となりがちです。この点を考えると、事業所・施設単位でBCPをいくら拡充させても、地域での連携の途絶により実効性が発揮できない可能性が生じます。

国としては、基準強化や報酬上のインセンティブ、システムの構築で現場の対応強化を促すだけでなく、災害時の受け皿となる環境整備への予算投入をさらに進めることも必要でしょう。先の自治体と事業所の事前協議でも、避難所の拠点としての機能を強化できれば、そこをベースとした連携を想定しつつ業務継続をサポートする力となるはずです。

大規模災害時に、もっとも現場を疲弊させるのは「孤立」です。それを防ぐための土台作りに知恵を絞ることも求められます。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。