
民間調査によれば、有料老人ホーム(以下、ホーム)の入居費用の高騰傾向が顕著になっています。今後は、一部住宅型ホームに登録制が導入されることで登録基準のハードル次第で対応コストが上乗せされ、さらなるアップも想定されます。そうした中で創設される登録施設介護支援にも影響がおよびそうです。
登録制基準を見すえた入居者の事前上げも?
有料ホームの高騰要因には、近年の物価・賃金上昇による設備費・人件費・運営費の各コストの上昇があることは明らかです。加えて、各種コスト増を入居費用に転嫁しやすい市場環境があることも指摘されます。
その市場環境とは、介護や各種生活支援のニーズが高い高齢者が増える中、需給バランスが売り手市場に傾いていることです。令和に入ってから、有料ホーム(サ高住除く)の件数は年間4%前後の上昇を続けている一方で、介護保険施設の伸びは停滞しています。介護保険施設が十分に満たせないニーズを、有料ホームが補っている状況が浮かびます。
もちろん、高齢者は、高額な入居費用を払える富裕層ばかりではありません。しかし、高齢者全体のすそ野が広がれば、富裕層も必然的に一定の広がりを見せることになります。加えて株価等の上昇による金融資産の増加の影響もあり、費用が高額でも入居需要が高止まりしやすい構造にあるといえます。
このように、上昇コストを自由価格となる入居費用に転嫁しやすい環境が整う中では、以下のような企業行動も考えられます。それは、将来的な登録制導入による基準を満たすための各種コスト増も見積もりつつ、「今のうちに費用を上げておく」という考え方です。
資産が潤沢でない人も有料ホームに身寄せ
ただし、注意しなければならないのは、拡大する富裕層の中でも所得格差が広がっていることです。同時に、決して保有資産が潤沢とは言えない高齢者も、介護保険施設に入りにくいという状況下で有料ホームに身を寄せるケースも増えている可能性があることです。
公費助成のある軽費老人ホーム(ケアハウス含む)、あるいは月額家賃等が比較的安価なサ高住に入るという選択肢もありますが、前者は近年ほとんど増加が見られず、建物の老朽化から運営継続も難しくなっています。後者も、ここ数年は人材確保の困難さなどから増加に急ブレーキがかかっています。
こうした資源で受けきれないニーズが、住宅型有料等に移行しているとすれば、ぎりぎりの資産で有料ホームに入居するというケースが増えていくことも考えられます。
こうした所得格差のボーダーラインにある入居者が増えるとすれば、新設される登録施設介護支援にもさまざまな影響がおよびます。
たとえば、手がける「生活相談」に、「サービス利用を控えること」や「将来的に住み続けられるかという不安」の話が絡みやすくなるといった可能性です。極端な話として、担当に就いた時点から「(長く住み続けられないことを想定して)次の住まい候補を探してほしい」などの意向が高まりかねません。
潜在的な住み替えニーズは意外に高い可能性
もちろん、登録施設介護支援では、「介護保険施設等の紹介の便宜」などを図ることも業務内容として定められています。しかし、担当するケアマネ等にしてみれば、「(登録制ホームであれば)重度者対応も可能だから、住み替え需要はそれほど高まらないだろう」とつい見込むこともあるかもしれません。
実はそうではなく、在宅と同様(あるいはそれ以上)に、潜在的な住み替えニーズが高まる可能性も頭に入れるべきでしょう。むしろ、「長年住み慣れたわが家(場合によっては地域)」へのこだわりが途切れがちな分、「将来的な生活費用の見積もり」への不安だけが表に出やすくなることも考えられます。
仮に「入居費用」にかかる相談が表に出てきた場合、入居者とホーム側の間に登録施設介護支援のケアマネが立って何らかの調整を行なうのか。「入居費用の話は入居者とホーム側の契約の話だから、ケアマネは関係ない」と完全に引いてしまうのか。このあたりは、今後の課題として浮上するかもしれません。
登録施設介護支援に託される深いテーマ
これから先、介護給付費分科会等で登録施設介護支援のケアマネジメントや相談支援のあり方が議論されることになるでしょう。その際に、現状の有料ホーム入居者が抱えがちな特有の事情について、どこまで掘り下げることができるかが問われます。
先に述べたように、有料ホーム等への「住み替え」というのは、長年にわたって築いてきたその人の「生活歴」の大きな部分(住み慣れた地域での人間関係なども含めて)が切り離される状況を生むことが多々あります。
でも、移り住んだのだから仕方ない、ここで新たな生活歴を築いていきましょう──これが、有料ホーム入居者へのケアマネジメントで生じがちなマインドではなかったでしょうか。その「切り離し」に深い思いを寄せられないと、そのまま「囲い込み」などにつながる土壌が生まれてしまうこともあります。
その点で、登録施設介護支援に託されるテーマは、実は極めて深いものがあります。国による報酬設定においても、ケアマネジメントの新たなノウハウが必要となる可能性をきちんと見すえ、評価することが必要です。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。