
介護給付費分科会で、介護保険にかかわる関係団体との意見交換会が行われました。注目は、同分科会で初めて意見交換に参加した「日本認知症本人ワーキンググループ(JDWG)」です。認知症の当事者の立場から述べられた意見では、現行制度上の課題が浮かびます。
介護保険の原点を改めて考えさせられる
JDWGが求めている要点は3つです。(1)本人の声(意向)を十分に聴いたうえでの当事者が納得できるサービスの提供。(2)本人が社会参加・参画、社会への発信等を行なうための支援。(3)認知症の本人の実態と課題を踏まえた要介護認定の見直し──となります。
これらの実現に向け、(1)、(2)については、それが実践できるような介護報酬のあり方、(3)については「認定調査のアップデートを本人とともに進める」ことを求めています。
介護保険制度における「当事者主体」の理念に照らせば、これらの課題は、本来は優先的に検討されるべきものですが、残念ながらなかなかそうなってはいませんでした。
その背景には、介護保険制度の変遷において、どちらかと言えば「制度の効率化」が優先されてきたことがあげられます。その点で、当事者による今提言は、「介護保険の原点」を改めて考えさせる価値があると言えます。
利用者の声に耳を傾ける余裕がない現実
特に(1)、(2)に関しては、ケアマネジメントにおける評価のあり方を、「当事者の視点」で見直す大きな転機になるかもしれません。
考えてみれば、(認知症の有無にかかわらず)「本人の言葉」にきちんと耳を傾け、どうすれば社会との「つながり」を築くことができるかを「本人と一緒に考える」──これは、対人援助の基本と位置づけられるものです。
もちろん、すべてのケアマネにとって、十分に分かっていることでしょう。問題は、ケアマネ不足にともなう「担当件数の増加」や、各種管理業務等(あるいは現場におけるシャドウワーク等)の拡大による「業務の煩雑化」に追われ、「それができない」という現実がケアマネジメントの現場を覆っていることです。
国としては、ケアプランデータ連携システムなどによる生産性向上を進める中で、「利用者と向き合う時間」の拡大を図ろうとしています。しかし、現状の報酬規模では、効率化による「時間創出」は、収入拡大のための管理業務にどうしても費やされがちです。
その根底には、保険料の上昇を抑えるために基本報酬の伸びが制限され、収入拡大のためには加算取得に頼るしかない状況があります。しかも、その加算取得に際して新たな管理業務が生じがちで、先に述べた対人援助の基本は十分にインセンティブ化されていません。結果、「利用者と向き合う」よりも、「さらなる業務効率化に奔走すること」がケアマネ業務のミッションになりがちです。
「本人との向き合い」に時間をかけるには?
このように、「当事者の求めるもの」と「現実に求められるミッション」が異なる方向を向いているとして、認知症当事者の訴えは、流れを転換させる契機となるでしょうか。
認知症基本法の施行により、サービスのあり方について「認知症の人の意向を十分に尊重」することが必要となりました。その点では、介護報酬のあり方も、今回のような当事者の意見を反映させる対応が求められます。
しかし、それを具体的な報酬体系に反映させるとなった場合、当事者が求める「本人の声を十分に聴き、納得したサービス利用につながる支援」をインセンティブ化させることは簡単ではありません。たとえば、「向き合う時間」をどこまで取ればいいか、「本人の納得が得られたこと」をどう評価すればいいかなどは、指標化が極めて難しいからです。
それならば、客観的な指標が必要になりがちな加算ではなく、基本報酬を引き上げることで評価すればいい──当然ながら、これが1つの方向性となります。とはいえ、財務省と折衝する立場の厚労省としては、漫然と基本報酬を引き上げることは避けたいのが本音でしょう。どこかで、「認知症の当事者の意向を適切に把握する」ための担保(新たな基準上の定め)を設けたいと考えるはずです。
ケアマネのプライドに応える基本報酬増を
ヒントとなるのは、2025年3月に改訂された「認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン(第2版)」です。ここには、認知症の人の特性を踏まえた意思の表出・尊重などの基本原則や意思決定支援のプロセスなどが示されています。
このガイドラインに沿った取組みを、基本報酬引き上げの条件とすることが考えられます。もっとも、こうした取組みを運営基準等で義務化(あるいは、新加算を設けての要件化)してしまうと、これもまた現場の管理業務を増やすことにつながりかねません。
となれば、こうしたガイドラインにもとづく取組みは推進しつつ、業界団体や地域の連絡会を通した現場の自主的な啓発に委ねるのも1つの方法です。基本報酬引き上げの条件としては、「甘い」という意見もあるかもしれません。しかし、ここはケアマネの実績への信頼を土台とすべきではないでしょうか。
ケアマネ不足は、もちろん処遇改善の問題もありますが、長年築いてきた実績への評価や信頼が低いというプライドの問題もあるはず。今こそ、そのプライドに応えるという施策側の度量が求められる時期かもしれません。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。