
今年度も最低賃金が、今年10月から地域ごとに順次引き上げられます。全国加重平均(都道府県ごとの労働者数を考慮した全国の平均値)は、前年度から56円引き上げの1,177円となります。昨今の物価上昇に加え、最低賃金の引上げも、特に小規模事業所の多い介護業界への影響は少なくありません。
対前年度比較でアップ幅はダウンしたが…
過去の最低賃金の推移を見ると、2022年頃からの物価上昇にともない、加重平均のアップ幅は右肩上がりが続いてきました。今年10月も引き上げではありますが、アップ幅は対前年度から10円程度ダウンしました。これは、昨年10月頃からの生活必需品等の物価上昇がやや鈍化したことを受けたものです。
もっとも引上げペースがダウンしたとはいえ、50円を超える引上げですから、特に小規模事業所にとって経営の重荷になることに違いはありません。加えて、労働者側にしてみれば、今年の半ばから再び物価(総合指数)の伸びは加速し、さらなる賃金増のニーズは高まることは確実です。最低賃金からの上乗せ幅が限られる規模の事業所からすれば、今回の最低賃金の伸び以上に人件費コストをかけないと、人材流出がさらに進みかねません。
こうした課題に対し、厚労省や中小企業庁は、小規模事業所への各種支援施策を紹介するリーフレットやマニュアルを示しています。
生産性向上に資する設備助成などのメニュー
たとえば、前年度より給与等の支給額を増額させた場合には、一定条件を満たすことで法人税額等が控除されるという「賃上げ促進税制」が。あるいは、公庫の融資を受ける際、従事者の賃上げに取り組む小規模事業者に対して、融資後の一定期間、利率を控除するという「賃上げ貸付利率特例制度」があります。
気になるのは、やはり助成金・補助金でしょう。一例としては、生産性向上に資する設備投資等を行なう小規模事業者に、その費用の一部を助成する「業務改善助成金」。また、小規模事業者等の業務効率化やDX化等に向けたAIを含むITツールの導入を支援する「デジタル化・AI導入補助金」があります。
後者の管轄は経産省ですが、厚労省管轄では、ご存じの通り「介護テクノロジー導入支援事業」があります。同一の機器類で両制度を同時に使うことはできませんが、たとえば事務系機器の経費だけを、「デジタル化・AI導入補助金」であてるといったことが可能な場合もあります。このあたりは、同補助金の専用コールセンターに相談してください。
賃金引上げに対する直接的な支援策は?
ここまで述べた支援策は、賃金引上げに対する直接的な支給ではありません。賃金引上げ分の支援を期待する場合、注目したいのは、賃金引上げ分の助成金「キャリアアップ助成金」です。これは、有期雇用労働者や短時間労働者などの非正規労働者を対象に、基本給の賃金規定を一定以上引き上げた場合に支給されるものです。また、こうした非正規労働者を正規労働者へと雇用転換した場合にも、支給されるコースがあります。
ただし、受給にあたっては、キャリアアップ管理者を配置したうえで、対象労働者にかかるキャリアアップ計画を作成することが必要です。処遇改善加算でも賃金改善計画の作成が求められますが、こうした申請実務やそのための体制構築が煩雑化しやすい小規模事業所では、対応に時間やコスト(社労士等への外部委託コストなど)がかかりがちです。
もちろん、今回の答申前から最低賃金が昨年度並みに上がることは十分予想されていました。しかし、(今回はやや鈍化したとはいえ)ここ数年の上昇ペースは、小規模事業者の経営体力を奪っています。その点では、各種支援策が行き届かない事業所が増えることも、国として想定する必要があるでしょう。
カギとなる基本報酬引き上げをめぐる動き
となれば、すでに業界全体で大合唱となっている「基本報酬の引上げ」がやはりカギとなります。増え続ける管理コストを、基本報酬のアップでいかにカバーするか。すべての事業者が注目するポイントでしょう。
2027年度予算の概要要求段階では、毎改定年度と同じく「財政影響への対応について、予算編成過程で検討」するとされました。一方で注目したいのは、「昨今の物価の変動に適切に対応するため、経営状況等を踏まえた対応をする」という文言が加わったことです。
さらに、最新(2024年度)となる介護保険事業状況報告の年度版では、年度別給付費の推移のグラフに、「名目GDP(国内総生産)」に対する給付費の比率の推移が重ねられています。「名目GDP」なので、物価変動が反映された数字です。これを見ると、急速な物価上昇が始まった2022年以降、給付費は1年あたり3%ほど伸びている一方、対名目GDP比率は低下もしくは横ばいとなっています。
つまり、給付費は伸びてはいるが、物価上昇分は反映されていないと解釈できます。現場にとって、物価上昇がいかに足かせになっているかを端的に表したグラフと言えます。厚労省がこうしたデータを加えたのは、「現場がいかに苦境にあるか」を財務省等にアピールする意図があるのかもしれません。
こうした流れを見ると、基本報酬を物価・賃金の上昇に合わせて改定サイクルを短縮するしくみなど、介護給付費部会の議論と並行して検討が開始される可能性もありそうです。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。