協働化に向け中心的法人にインセンティブ? よりよい「地域づくり」に向けた落とし穴も

9月18日の介護保険部会で、中山間・人口減少地域への対応に関し、「介護事業者の連携強化」をめぐる論点が提示されました。介護事業所間の連携に向け、中心的な役割を果たす法人・事業所にインセンティブを付与する考え方です。介護サービス事業の協働化を進めるうえで、有効な手段となるのでしょうか?

厚労省が示したインセンティブの素案

厚労省が示す素案では、インセンティブ例として、「法人間での人材の連携等を前提とした配置基準の弾力化」や「ICT等テクノロジー導入補助金の補助率引上げ」、「介護報酬の加算におけるさらなる評価」が挙がっています。介護報酬・基準に加え、補助金支給上の優遇策などを総動員する施策を広く挙げている点で、地域のサービス維持の「切り札」に位置づけようとする意図が強くうかがえます。

人材確保・育成、および必要な備品購入の手間・コストなどを考えた場合、特に小規模な事業所としては、協働化を進めたいというニーズは全国的に高まっているでしょう。一方で、小規模事業所同士で協働化を進める場合、その体制構築のための人員・労力をかけること自体が難しいというケースもあります。

そうなると、やはり一定以上の規模があり、かつ地域で多様なネットワークを構築しやすい中核となる法人に、「とりまとめ」を期待する傾向は強くなります。たとえば、自治体が旗振り役として協働化を取りまとめる動きもあります。ただし、自治体でかけられる人材と労力に限界がある地域も多い中では、現場に近い組織体が中軸を担うことが、やはりスタンダードな流れとなるのかもしれません。

中核法人が果たしてきた実績は偉大だが…

しかし、ここにはクリアすべきいくつかの課題があります。たとえば、異なる法人間では、組織風土はもちろん、介護・福祉をめぐる「理念」や事業を展開するうえでの「考え方」が異なることも多々ある点です。

長年地域で中心的な役割を果たしてきた法人の多くは、幅広い人々の信頼を得て地域に貢献してきたという実績があるのは間違いないでしょう。一方で、さまざまな大規模法人のトップの話を聞いていると、時として「それが利用者の尊厳の確保につながるのか」という疑問符も浮かぶことがあります。

たとえば、利用者の自立支援は強調するものの、そこに本人自身の「どうありたいか」という意思の表出・決定のビジョンが浮かんでこないというケースも見られます。

自立支援に関するさまざまな加算についても、それを取得することで、利用者のどのようなメリットにつながるのかというビジョンより、どちらかというと、「加算の取得によって収益を上げること」の重要性が先に立っているという言説を見ることがあります。

法人間の理念の差異が協働化にもたらす影響

確かに、介護報酬がなかなか上がらない時代に、「事業存続のための経営努力」の話が先に立ちがちなので、仕方ない面もあるかもしれません。問題は、その考え方が現場従事者の「何のために介護現場で働くか」という労働の哲学にも波及してしまうことです。

たとえば、「加算取得の効率性を高める」という視点だけで従事者の働きぶりを評価してしまうと、それが「利用者の幸福感」を本当に上げることになるのかという現場の視点が時として薄れがちとなります。その積み重ねで形成された職場風土をもって、協働化による人材採用・育成を進めていくと、参画する他法人の中には「違和感」を抱くというケースも出てくる可能性があるでしょう。

もちろん、そのあたりの課題は、協働化への参画に向けてていねいに法人間の協議を積み重ね、合同の理念を構築することで乗り越えるべきものでしょう。しかし、中軸となる法人側がつい独断的になり、「協議も現場実務に則したものに限るなど合理化すべき」という姿勢を打ち出してしまえば、それは協働化を阻害する要因につながりかねません。

協働化に向けた包括的な協議のルール化を

そうした法人間の「溝」をていねいに解消する道筋がないまま、中心となる法人にインセンティブを付与すれば、(収益改善のために)それ自体を目的とした法人が強硬な主導を進める恐れも出てきます。極端な話、「自法人の方針に従えない法人には、協働化に参画してもらわなくて結構」という姿勢で臨もうとする法人も出てくるかもしれません。

こうした懸念を取り除くには、協働化に向けたインセンティブに際し、国として「サービス理念を含めた包括的な合意形成のための協議」や「双方が納得できる合意書の締結」などを義務づけることが必要かもしれません。

また、実際の協働化においては、「定期的な法人間の人材交流を必須とする」といったルールを設ける方法もあるでしょう。実際、協働の取組み内容のデータを見ると、従事者の合同研修や人材交流が取組み内容の大半を占めているので、ハードルは高くありません。

この双方の人材交流を進める中で、従事者同士がお互いの職場風土の違いを認識し、自らの組織の長所・短所を考えるという機会となりえます。これが、ボトムアップで双方の組織をよりよい方向で変えていく推進力となるかもしれません。理想論かもしれませんが、現場の感性や思考をもって地域全体のサービスの質を底上げできれば、そこで初めて協働化の真の意義が実現できるはずです。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。