カスハラ対策法の施行にのぞむ中で── たとえば、利用者心理の変化にも注目を。

10月から、労働施策総合推進法の改正にもとづく事業者によるカスタマーハラスメント(以下、カスハラ)対策の義務化がスタートします。介護保険分野では、2027年度改定での運営基準見直しに反映されることも確実です。今回の法施行により、たとえばケアマネジメントにどのような影響が及ぶでしょうか。

改めて問われる「サービス拒否」の線引き

カスハラ対策にかかる事業者の義務化内容としては、方針(カスハラへの毅然とした態度での対応と労働者保護)の明確化や、その方針の従事者への周知啓発、相談体制の整備などが定められています。これらに加えて必要なのは、カスハラに該当する内容、およびその「対処」を労働者に周知することです。

この「対処」例には、管理監督者にその場の対応方針の指示をあおぐ、労働者に一人で対応させない、犯罪に該当しうる言動は警察へ通報するなどが示されています。一方、介護現場として気になるのが、「サービスの提供拒否」ができるか否かという点でしょう。

以前も述べましたが、この「提供拒否」については、介護保険法上の「『正当な理由』なくサービス提供を拒否してはならない」という規定との兼ね合いが問題となります。つまり、カスハラを上記の「正当な理由」として明確に位置づける場合、その線引きをどこまで明確にするのかが問われることになります。

「社会通念上の許容範囲を超えるもの」とは

厚労省は10月からの施行を前に、事業者向けの制度周知のリーフレットを出しています。その中には、カスハラの定義の1つである「(顧客の言動のうち)社会通念上許容される範囲を超えるもの」の例が示されています。

大きくは「手段や態様」と「言動の内容」に分けられています。前者であれば、(1)身体的な攻撃(暴行、傷害等)、(2)精神的な攻撃(脅迫、中傷、名誉棄損、侮辱、暴言、土下座の強要等─SNS活用含む)、(3)威圧的な言動、(4)継続的・執拗な言動、(5)拘束的な言動(不退去、居座り、監禁)が挙げられています。

いずれも、事業者としては従事者保護の観点から、「サービス提供の拒否」などの厳正な対処が求められる事例です。

もちろん、認知症や病気・障害の特性によるケースも想定されます。その場合、多機関連携での専門的知見による対処が必要であり、「サービス提供の拒否」へと即座に結びつけるべきものでありません。とはいえ、従事者保護への対処が必要なことに変わりはなく、担当者の交代に加え、先に述べた多機関によるチーム対応などが求められるといえます。

このあたりは、地域での対処フローが必須となる課題であり、運営基準等でも「カスハラ対策」とは別の規定を設けたうえで、対応の明確化が図られる可能性がありそうです。

シャドウワーク的要求もカスハラになる?

ところで、問題は後者の「言動の内容」に関してです。これについては、顧客の要求内容について以下の例が挙げられています。(1)そもそも理由がない、(2)商品・サービス等とまったく関係がない、(3)契約等に想定しているサービスを著しく超える、(4)対応が著しく困難あるいは不可能である、(5)不当な損害賠償にかかわるもの──という具合です。

ここでは、「まったく」とか「著しく」などの強調表現が付されていますが、その「程度」の解釈は今後も問われそうです。たとえば、ケアマネへのシャドウワーク的な要求があったとして、「(3)に該当する(=サービス提供拒否に該当する)」と機械的に判断する事業者が出てくる可能性がないとは言えません。

もちろん、現場のケアマネとしては、一見(2)、(3)に該当する要求でも背景にケアマネジメント上の課題が潜んでいる可能性を探ろうとするでしょう。もしかしたら、その課題は介護保険上の支援につなげる余地があり、それによる解決が可能になることもあります。

仮にシャドウワークによる対応が要されるケースであっても、その時点で包括や社協等と連携して解決されることもあります。2027年度予算でも、ケアマネのシャドウワーク対策が強化される方向にあり、「他機関にどうつなげて有効な解決を図るか」というフローなども統一化の流れは進むと考えられます。

良識的な利用者ほど「正当な訴え」を自粛?

ただし、ここで懸念されることがあります。厚労省あるいは自治体として、今回のカスハラ防止法の施行に際して、利用者側にも理解を得るための広報を行なうかもしれません。テレビや新聞の一般報道でも、10月1日を皮切りにカスハラ防止法の施行がクローズアップされる機会が増えることは確実でしょう。

その場合、皮肉なことに「良識的な利用者」ほど、「ケアマネ等に過度な要求はできない」と(本来はケアマネに伝えてしかるべき正当な意向などがあっても)抑え込んでしまう可能性があります。そうした過剰反応が強くなると、ケアマネとして、アセスメント時のやり取りの中から利用者の真の意向を探ることが難しくなる恐れも生じかねません。

もちろん、カスハラの社会的周知は、介護従事者の業務改善や危険防止の観点から不可欠な対応です。しかし、そこでケアマネジメントのあり方に何らかの影響が及ぶ可能性があるなら、現場として対応策を検討する機会も必要になりそうです。職能団体や厚労省に対しても、改正法の施行後に利用者心理をめぐる調査などの実施を求めたいものです。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『ここがポイント!ここが変わった! 改正介護保険早わかり【2024~26年度版】』(自由国民社)、 『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。