慰労金の再支給は実現するか

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介護系の事業者団体が、新型コロナウイルス感染症対策にかかる要望書を、厚労省あてに続々と提出しています。今年9月末に期限を迎える「基本報酬の上乗せ特例」の延長、あるいは「現場従事者への慰労金」の再支給など。果たして実現されるのでしょうか。

予算編成と総選挙がほぼ重なるタイミング

2022年度(場合によっては前倒しとなる補正予算も含む)の予算編成をめぐっては、例年と違う状況がいくつか見受けられます。

たとえば、概算要求にかかるニュース解説でも取り上げましたが、新型コロナ対策に関連した予算要求について、今後の感染状況も見すえながら今後の予算編成過程で上乗せ等が図られていく可能性があることです。

また、衆議院選挙が10~11月に予定される中で、予算編成そのものが有権者に対しての与党側の大きなアピールポイントになることです。総選挙をにらんだとき、思い切った財政出動が図られることも考えられます。

このタイミングで各事業者団体が続々と要望を出してきたのも、9月末の特例期限が迫っているだけでなく、「今なら各種の要望も受入れられやすい」という政治日程をにらんだことも背景にありそうです。今後は事業者団体のみならず、さまざまな職能団体による要望も増えてくるのではないでしょうか。

介護現場への追加的な施策は「待ったなし」

もっとも、政治日程などと関係なく、介護現場への追加的な施策は「待ったなし」の状況であることに変わりはありません。すべての介護従事者は、ぎりぎりの状況下で感染拡大の防止に向き合っています。その実情を国側がどこまで理解・評価しているかという点が問われることになります。

9月3日付ニュースでは、8月30日時点での「直近1週間の高齢者施設でのクラスター発生件数」が47件にのぼったという厚労省発表を取り上げています。その約1か月前7月26日時点の直近1週間では、今年最少となる5件。その時期と比較し、急増傾向にあるとして厚労省は警戒を呼び掛けています。

このクラスター急増への警戒は、要介護高齢者等の重症化リスクが(ワクチン接種がほぼ完了したとはいえ)依然として高いという点が強調されたものです。一方で、最新のクラスター状況全体として見た場合、やや違った面が見えてきます。厚労省が示している「集団感染等発生状況」のデータに着目します。

※クラスターと集団感染等のとらえ方が異なる場合もありますが、内閣府資料では同義で扱われているので同じものととらえます。

現場努力でクラスターは抑え込まれている⁉

それによれば、先のニュースで示された8月30日以降、高齢者施設での集団感染等発生件数は急減しています。減少スピードだけを見れば、医療機関よりも集団感染を短期間で抑え込んでいる傾向が浮かびます。

福祉施設全体では依然として件数は多いのですが、主として押し上げているのは「児童福祉施設」です。それ以上に集団感染等が深刻なのは「企業等」。母数や対象者の活動量などに違いはありますが、相対的には、高齢者施設での集団感染は指摘されるほど高くはないという見方もできるでしょう。

こうした直近の状況を見る限り、要介護高齢者へのワクチン接種率の高さなどを差し引いても、高齢者介護の現場おける感染防止にかかる取組みは、もっと評価されてしかるべきでしょう。逆に言えば、ここで施策による適切な評価が図られなければ、ぎりぎりでしのいでいる現場が「決壊」しかねません。

今も、「ぎりぎり」の状況は加速しつつあります。その要素の一つが、病床ひっ迫を受けての感染者の施設内療養や自宅療養が進んでいることです。たとえば、ここ数カ月、施設内療養者数は2桁以下でしたが、8月中旬あたりから3桁を記録しています。

真に「報いる」べきポイントはどこに?

では、現場を「決壊」させないために、何が必要でしょうか。業界団体が求めている「基本報酬の上乗せ期限の延長」や「慰労金の再支給」は最低限必要なこととして、問題なのは各施策の拡充が図られるかどうかです。

たとえば、前回の慰労金は、対象期間が昨年6月30日までとなっています。あれから1年以上が経過する中、そのブランクを考慮して支給額の引き上げを図るか、あるいは、感染拡大状況をにらみつつ定期にわたる複数回の支給を図る方法もあるでしょう。

もちろん、財政状況との兼ね合いが問題になるかもしれません。たとえば、全従事者に最大20万円が支払われたとして、介護職員+その他の従事者(ケアマネ等含む)で250万人と見積もれば5000億円。確かに、2020年度第2次補正予算で拠出された緊急包括支援交付金の金額に相当する予算が必要です。

しかし、今見すえるべきは新型コロナの感染対策だけではありません。利用者への自立支援等にかかるサービス制限が続いた影響を考えたとき、感染収束後でも余力をもった現場体制を整えることが重要です。そのビジョンを下支えすることも含めた「慰労金」と位置づければ、適切な拠出ではないでしょうか。

今もなお心身を削り続ける現場に、国として何をもって報いるべきなのか。本来であれば「報奨金」とでも命名してしかるべき施策への期待は、ますます高まっています。

・参考:データからわかる-新型コロナウイルス感染症情報-

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。