「通いの場」と聞いて何を思い浮かべますか?集会所などに地域の高齢者が集まり、みんなで運動などを通して交流を深め、生活に楽しみを見出してもらい介護予防につなげる。ケアマネジャーの中ではそのようなイメージが一般的ではないでしょうか。
高齢者の介護予防における研究報告を見ると、高齢者が集まり交流する「通いの場」への参加が、フレイルの発症抑制につながるといったものや、他者との交流など「社会参加の機会が多い人」は「社会参加の機会が少ない人」と比べて、要介護認定に至りにくいといった報告があり、通いの場には介護予防へ一定の効果があることがわかります。
通いの場の性質と、コロナ禍で受けた影響
「通いの場」の定義について見てみます。厚生労働省のホームページによると「通いの場とは、地域の住民同士が気軽に集い、一緒に活動内容を企画し、ふれあいを通して「生きがいづくり」「仲間づくり」の輪を広げる場所、また地域の介護予防の拠点となる場所」と説明されており、やはり「みんなで集まる」「一緒に活動する」ところに通いの場としての性質があるようです。
では、通いの場は現在どのくらいあるのでしょうか。13年度に全国で約4.3万カ所(参加率※2.7%)あった通いの場は年々増え続け、19年度には約12.9万カ所(6.7%)に増加しましたが、2020年度には約11.4万カ所(5.3%)に減ってしまいました。「高齢者が集まる」という通いの場の性質上、新型コロナウイルス感染拡大の影響を大きく受けてしまったといえます。厚生労働省も「感染防止対策を取りながら通いの場を続けるための手引き」などを広く通知するなどしていますが、未だコロナ禍前の水準には戻っていないというのが現状のようです。
※通いの場への参加率=通いの場の参加者実人数/高齢者(65歳以上)人口 のこと
コロナ禍のなかリリースされた「バーチャル通いの場」アプリ
そんな中、2020年6月に、厚生労働省および国立長寿医療研究センターから「オンライン通いの場」アプリというものがリリースされました。【通いの場が閉鎖されている状況でも、オンラインで自己管理をしながら運動や健康づくりに取り組めるアプリケーション】という説明がなされていますが、オンラインで自己管理をするだけのアプリなのであれば「通いの場」としての特徴である「みんなで集まる」「一緒に活動する」ところを担っているとはいえず、スマートフォンによくある「健康管理アプリ」との違いが良く見えてきません。
さて、このアプリが名乗っている「通いの場」であるポイントはどこなのでしょうか。オンライン通いの場の機能を詳しく見ていきながら探していくこととします。
>>「オンライン通いの場」アプリケーションを使ってみよう 厚生労働省
高齢者が自力で登録するにはハードルが高い印象
このアプリはiPhoneやandroidのスマートフォンであれば、通常のアプリストアからすぐにダウンロードができます。ダウンロード後にアプリを立ち上げると、まずは会員登録を求められ、電話番号認証や住所登録を経たのちにやっと利用が開始できるようになります。
実際に登録作業を行ってみたところ、セキュリティ重視の対策だとは思いますが、入力した電話番号充てにショートメールで届いた6ケタの暗証番号を、60秒以内に次の画面で入力して認証を行うなど、高齢者のみで登録を済ますにはだいぶハードルが高い印象を受けました。利用を開始するには若い世代の支援が必要になるケースが多いと想定されました。
セキュリティを守るためにはしっかりとした認証作業が必須ですが、反対に「高齢者にわかりやすく使ってもらう」という目的から考えると、安全対策はどうしてもそれを妨げるものとなってしまいます。現状でできることは、身近で信頼できる若い世代が、そういった登録作業などの高齢者にとっては複雑な環境整備を支援してあげることが必要なのだと感じさせられました。
6つの基本機能 その1つに「みんなが集まる」を味わえるものが
アプリを使用開始してみると、このアプリには6つの機能があることがわかりました。
1.おさんぽ
2.コミュニケーション
3.体操動画
4.脳を鍛えるゲーム
5.食事チェック
6.健康チェック
6つの機能を掘り下げて解説していきます。
1.おさんぽ
スマートフォンのGPS機能と歩数計機能を活用したお散歩支援ツールでした。散歩コースは自分で作ることもできますが、条件を設定すると、自分の現在地からの「自動お散歩コース」をAIが作成し、お散歩中も移動ルートや歩数などの記録を取ってくれます。
2.コミュニケーション
同じ興味・関心を持つ相手を探してオンラインの交流ができるツールです。写真や文章、それに対するコメントを載せたりなど、フェイスブックやツイッターのようなSNSの機能をもっています。この機能がこのアプリが「通いの場」であることの特徴のようです。
この、コミュニケーション機能についてはこの記事の後編で詳しく触れていきます。
3.体操動画
実際の通いの場の活動内容としても一番多いのが「体操」ですが、このツールではいろいろな体操動画を見ることが出来ます。実際に検索してみると1135本(2023年4月現在)もの体操動画があり、立ったまま行うものや座ってもできるもの、口腔体操や脳活性化体操など、内容もバリエーションに富んでいます。実際の「通いの場」でもこの動画を活用することで、いろいろな体操に挑戦することが可能です。
課題点としては、スマートフォンの小さい画面だけでは、なかなか体操の動きをはっきりと見ることは出来ませんでした。口腔体操ならまだしも、全身体操のように大きく体を動かす体操については画面から離れて見ることが必要になるでしょう。スマートフォンの画面をテレビなどで大きくして見ることが望ましいですが、テレビと繋げるなどの環境設定も高齢者には難しいポイントのように感じました。
4.脳を鍛えるゲーム
間違い探し、後出しじゃんけんや神経衰弱などの脳トレゲームを遊ぶことが出来ます。すべてのゲームには制限時間が設定されており、時間内に夢中になって取り組むことにより、脳トレとしての機能がさらに強くなるものと思われます。
それぞれのゲームには「やさしい」「ふつう」「むずかしい」の難易度設定があり、やる人のレベルに合わせて楽しむ工夫がされていました。「むずかしい」設定にすると、若い方でも迷ってしまうくらい難しい脳トレもあり、子や孫の世代と一緒に遊んで楽しむ、という使い方もありそうです。
5.食事チェック
介護予防の三本柱は「運動」「栄養」「社会参加」と言われていますが、このツールでは自分の食事管理を行うことができます。朝食、昼食、夕食、間食をそれぞれ登録していくことで、一日に取った食事や総カロリーを知ることが出来ますが、ここで使えるのが「写真から食事チェック機能」です。食事内容を入力する際、写真を送るだけでその食事内容を自動で予想してくれるというものなのですが、試しに使ってみたところ、なかなか高い精度の結果を得ることができました。焼き鳥と春雨サラダ、そしてサラダチキンのサラダの写真を送ったのですが、写真からツールが予想してくれたメニューはすべて合っていました。
6.健康チェック
毎日の歩数管理や既往歴管理、また「基本チェックリスト」のチェックができる機能があります。既往歴と最近の調子、基本チェックリストの結果で、2年後の要介護リスクを判定することもできました。
ここまでで「コミュニケーション機能」以外の機能について、実際の画面を見ながら触れてきました。高齢者に必要な健康管理機能を組み合わせ、さらに高齢者向けにわかりやすく、見やすくなるように整理されていますが、介護予防が必要な世代が使いこなすにはまだまだ難しい面も見受けられました。
さて、通いの場の大事な要素である「みんなが集まる」という機能はどこにあるのでしょう?このアプリを通して「社会参加」を感じることは出来るのでしょうか。後編ではこの大事な「みんなが集まる通いの場としての機能」の代わりとなる、コミュニケーション機能について触れていきます。
