フレイルとは、加齢に伴い筋力や心身の機能が低下した状態を指します。進行すると要介護のリスクが高まるため、「年だから仕方ない」とあきらめず、予防・改善に取り組むことが大切です。
今回は、在宅訪問栄養食事指導の豊富な経験を持つ、駒沢女子大学教授で管理栄養士の工藤美香先生にお話を伺いました。フレイルに気付くポイントや、日常生活でできる対策について詳しくご紹介します。
フレイルを早期発見する方法
フレイルは、進行する前に対策を講じ、改善を目指すことが重要です。そのためには、日常生活の中で早期に気付くことが欠かせません。フレイルを見逃さないためのチェック方法を知っておきましょう。
体重を測定する
栄養状態を把握するうえで、最も分かりやすい指標の一つが体重です。デイサービスなどの通所サービスを利用している場合は測定の機会がありますが、そうでない場合は自宅で定期的に体重を測る習慣をつけましょう。もし本人が嫌がらなければ、ヘルパーや訪問看護師に協力をお願いするのも一つの方法です。
「指輪っかテスト」でサルコペニアの危険度をチェック
東京大学高齢社会総合研究機構(IOG)の飯島勝矢先生が提唱する「指輪っかテスト」は、簡単にサルコペニア(筋力減少症)の危険度を確認し、転倒、骨折のリスクをセルフチェックできる方法です。やり方は、両手の人差し指と親指で輪をつくり、ふくらはぎの最も太い部分を囲むだけ。
指がちょうど届く、または掴めない場合は問題ありません。しかし、輪の中に隙間ができる場合は、筋肉量が不足している可能性があります。加齢とともに筋肉は落ちやすいため、ふくらはぎの太さを定期的にチェックすることが大切です。

握力の低下にも注意
握力は全身の筋力を反映する重要な指標です。握力計がないと測れないと思われがちですが、身近なもので簡単にチェックすることもできます。
例えば、これまで問題なく開けられていたペットボトルのフタが開けづらくなったと感じる場合、握力が低下している可能性があります。また、はさみで物を切るのが難しくなるのも、握力の衰えのサインです。日常生活の中でこうした変化に気付いたら、筋力を維持・向上させる運動を意識して取り入れましょう。
MNA ® - SF(MNAショートフォーム)で低栄養をチェック
高齢者の低栄養をチェックする指標の一つに、「MNA®-SF (MNAショートフォーム)」があります。これは、「過去3ヶ月間で食欲不振や消化器の問題、そしゃく・嚥下の困難によって食事量が減少しましたか?」といった6つの質問に答えるだけで、栄養状態を簡単に評価できる方法です。
専門的な知識がなくても実施でき、所要時間はわずか5分程度。定期的にMNAショートフォームを活用し、栄養状態の低下がないか確認する習慣をつけましょう。
MNA®-SFは、65歳以上の高齢者に特化した栄養スクリーニングツールです。
フレイル対策のポイント
フレイルを防ぐためには、日常生活の中で無理なく続けられる対策を取り入れることが大切です。特に、以下の3つのポイントを意識することで、フレイル予防につながります。
社会参加も大切です
自宅で過ごす時間が長くなり、外出の機会が減っている方も少なくありません。フレイル予防のためには、人との交流を持ち、社会とのつながりを維持することが大切です。例えば、デイサービスを利用すると、ほかの利用者やスタッフと会話をする機会が増えます。おしゃべりをすることで口の筋肉を動かす「口の体操」にもなり、脳への刺激にもつながります。また、デイサービスでは食事のサポートも受けられるため、栄養面の不安を軽減することができます。
さらに、毎日15分ほど散歩をして日光を浴びると、骨の健康に欠かせないビタミンDが体内で作られます。丈夫な骨を維持するためには、カルシウムの摂取だけでなく、適度な外出も意識しましょう。
バランスの良い食事を
まずは、前回の記事で紹介した「さあにぎやかにいただく」チェックシートを活用し、食事の偏りがないか確認してみましょう。特定の食品を避けていたり、同じものばかり食べていたりすると、栄養バランスが崩れやすくなります。
不足している食品や栄養素に気付いたら、毎日の食事に少しずつ取り入れてみましょう。もし、好みや食べにくさの問題で摂取が難しい場合は、栄養補助食品を活用するのも一つの方法です。無理なく続けられる形で、栄養のバランスを整えていきましょう。
高齢者にありがちな食事とは? 家族ができる栄養不足の気付きと対策【駒沢女子大学教授 工藤美香先生インタビュー:その6】<PR>はこちら
栄養補助食品を使い分けましょう
近年、高齢者の栄養を考えた栄養補助食品が開発されています。加齢に伴い食が細くなると、エネルギーやたんぱく質などの栄養素が不足しやすくなり、フレイルに陥るリスクも高まります。フレイル予防のためには、バランスの取れた食事が基本ですが、不足しがちな栄養素を補う手段として、適切な栄養補助食品を活用することも一つの方法です。
シーンに応じて、次のように使い分けると効果的です。
<シーン1>食欲がないとき
食欲が落ちてしまったときは、効率よく栄養を摂れる栄養補助食品が役立ちます。体調が回復するまでの間や、どうしても不足しがちな栄養素を補う手段として、上手に活用しましょう。
1日1回でも、できるだけバランスの良い食事を摂ることが理想ですが、食べられない日が続くと体力の低下につながります。そんなときに備えて、すぐに飲んだり食べたりできる栄養補助食品を常備しておくと安心です。
<シーン2>朝食抜きでデイサービスに行くとき
朝起きる時間が遅く、朝食を摂らずにデイサービスに行くことが習慣になっている方は、1日の栄養バランスが崩れやすくなります。朝に摂れなかった栄養を昼食や夕食でしっかり補うことが大切です。
デイバッグに栄養補助食品を1つ入れておき、昼食と一緒に摂れるようにデイサービスのスタッフにお願いするのも良い方法です。また、体重が減ってきたことに気付いたら、「栄養補助食品を持参するので、昼食時に提供してほしい」と相談してみるのもおすすめです。食事の時間に無理なく栄養を補う工夫をしていきましょう。
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栄養補助食品の取り入れ方
栄養補助食品を選ぶ際は、「簡単・おいしい・安全」の3つのポイントを満たしているかを確認しましょう。市販の栄養補助食品は、見た目も良く、味の工夫がされているため、取り入れやすいのが特徴です。
しかし、中には「なかなか食べてもらえない」「そもそも口にしてくれるかわからない」と悩む方もいるかもしれません。そんなときは、次の方法を試してみましょう。
見た目や味にひと工夫を
栄養補助食品をそのまま出すと抵抗を感じる方もいます。そんなときは、器に盛りつけて一般的なおやつのように出してみてください。見た目を変えるだけで、自然と手が伸びることもあります。
また、ホイップクリームを添えたり、ひと工夫するのもおすすめです。味や食感に変化をつけることで、楽しみながら食べてもらいやすくなります。
生活習慣に合わせて
ご本人の習慣に合わせて、無理なく栄養補助食品を取り入れることが大切です。例えば、朝食がパンとスープという方には、コーンスープ味の栄養補助食品を活用するとよいでしょう。これなら、肉や魚を食べなくても、たんぱく質をしっかり補給できます。普段の食事に自然に組み込むことで、抵抗なく続けやすくなります。本人の好みや食べやすさを考えながら、取り入れてみてください。
災害対策に
万が一の災害に備え、栄養補助食品を非常用持ち出し袋に入れておきましょう。高齢の方にとっては、避難所で提供される食事が硬くて食べにくいこともあります。そのため、食べやすく、必要な栄養を補える食品を準備しておくことが大切です。
ただし、非常時だけのために備蓄すると、いざという時に味に慣れておらず食べにくかったり、賞味期限が切れてしまったりすることがあります。日常的に食べながら、消費した分を買い足す「ローリングストック法」を取り入れると、無駄なく備えられて安心です。
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専門家に相談を
既往症がある場合、単に不足している栄養を補えばよいというわけではありません。たとえば、肝硬変の方は鉄分の摂取に制限があるなど、病気によっては特定の栄養素を摂りすぎることで健康に悪影響を及ぼすこともあります。
自己判断で栄養補助食品を取り入れるのが不安な場合は、医師や管理栄養士に相談しながら、自分に合った方法で活用するようにしましょう。
また、たんぱく質は、摂り過ぎると腎機能が悪化する恐れがあるため、中にはたんぱく質が多く含まれる栄養補助食品は良くないと思っている人もいます。まずは、どの栄養素がどれぐらい不足しているのかを確認してから、足りていない分の栄養を補給ようにしましょう。
悪化する前にフレイルに気付きましょう
フレイル予防で最も大切なのは、「早く気付くこと」です。一度悪化してしまった状態を元に戻すのは大変なため、できるだけ早い段階で変化を察知し、対策を講じることが重要です。ヘルパーにも協力をお願いしながら、栄養状態が悪くなる前に気付けるようにしましょう。
体重測定が難しい場合は、ふくらはぎの太さをチェックしたり、ペットボトルのフタが開けにくくなっていないかなど、握力の変化に注意を払うのも一つの方法です。また、立ち上がりがしにくい、歩行速度がゆっくりになった等の状態に気が付いたら、早めに対応していきましょう。
バランスの良い食生活や社会参加を意識し、必要に応じて栄養補助食品を活用するなど、無理のないフレイル予防を続けていきましょう。
もし栄養状態の悪化に気付いたら、早めにケアマネジャーやかかりつけ医に相談し、適切な専門職につないでもらうことが大切です。

病院・施設・在宅の栄養管理に長く携わっており、急性期病院勤務時にはNST(栄養サポートチーム)の中心メンバーとして活躍。現在は駒沢女子大学 健康栄養学科の教授として、臨床栄養学概論や臨床栄養学などの指導を担当するほか、日本在宅栄養管理学会理事も務めている。
2025年3月更新
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