高齢者にありがちな食事とは? 家族ができる栄養不足の気付きと対策【駒沢女子大学教授 工藤美香先生インタビュー:その6】<PR>

高齢者の食事は、見た目では十分に思えても、実は栄養が不足していることがあります。食欲の低下による食べ残しが増えたり、同じ食品ばかりを摂ることで栄養が偏ってしまうためです。特に一人暮らしの高齢者は、自分の栄養状態に気づきにくく、不足が続いてしまうことも少なくありません。
そこで今回は、多くの在宅訪問栄養食事指導の経験を持つ、駒沢女子大学教授で管理栄養士の工藤美香先生にお話を伺いました。高齢者が陥りやすい食生活の特徴や、栄養不足に気づくための「さあにぎやかにいただく」のポイント、そして手間をかけずに栄養を改善する方法についてご紹介します。

高齢者の食生活の現状とは

自宅で生活している高齢者の中には、火を使って食事を準備することが難しい場合があります。これは一人暮らしの方だけでなく、介護をしている家族が日中仕事で不在となる家庭でも同様です。また、家族としても火を使った調理による事故を心配し、できるだけ簡単な食事を選んでほしいと考えることがあるでしょう。その結果、高齢者の食事は温め不要の菓子パンや、作り置きを電子レンジで温めるだけのものが増えがちです。同じものを購入し続けてしまい食事がワンパターン化したり、食品の値上がりを気にして惣菜を減らす家庭も少なくありません。さらに、栄養バランスの良い宅配弁当を利用しても、本人の味の好みに合わないと残してしまうこともあります。まずは、ワンパターン化した食事の例と、その改善策について工藤先生の解説をご紹介いたします。

高齢者に多い食事とは

今回、3人の方の食事の内容を示していただきました。火を使わない、簡単に準備できるものとなると、全体的には炭水化物(主にエネルギーとなる)に偏ってしまい、たんぱく質(からだをつくる)、ミネラル・食物繊維(からだの調子をととのえる)が不足しています。また、喉の渇きを感じにくいため、水分が不足します。

一人目の食事内容

朝食

朝食

海苔の巻いていないおにぎり
ポテトサラダ
お茶 

昼食

昼食

なし

朝食

おやつ

パン
お茶

夕食

夕食

納豆ご飯・インスタントみそ汁
ポテトサラダ
餃子
お茶

工藤先生の解説

全体的エネルギーは充足しています。主食(主にエネルギーとなる)となるおにぎり、ロールパン、ご飯は十分に摂取できています。
しかし、炭水化物の割合が多く、たんぱく質(からだをつくる)、ビタミン、ミネラル、食物繊維(からだの調子をととのえる)が不足しています。
ポテトサラダを朝食と夕食に摂っていますが、ポテトサラダは野菜ではなく、炭水化物と脂質が多いです。サラダという名称なので、サラダと間違えられることがあります。
昼食は摂っていませんが、昼食がおやつの時間帯で摂っているのでしょう。夕食は比較的バランスが良く、しっかり食べようとしている様子がうかがえます。
食事のバランスを考える上で、主食、主菜、副菜を意識すると良いでしょう。

改善案(ちょい足し)

朝食
朝食
プラス
  • おにぎりの具材に鮭フレークを追加
  • おにぎりにのりを巻く(噛む飲みこみに問題がない方)
  • ポテトサラダをきんぴらごぼう(惣菜)にかえる
昼食又はおやつ
昼食又はおやつ
プラス
  • ヨーグルト、バナナ又はチーズなどを追加
  • (昼食とおやつに分けてもよい)
夕食
夕食
プラス
  • 冷凍ほうれんそうを電子レンジで加熱して、味噌汁に加える
  • 刻みネギを購入して、納豆に加える

 

二人目の食事内容

朝食ジャムパン

朝食

ジャムパン
牛乳(200mlのパック)

昼食サンドイッチとお茶

昼食

野菜の入ったサンドイッチ1/2

おやつどらやきとお茶

おやつ

どらやき

お茶
夕食うどん

夕食

ヘルパーが準備したうどん
(みそ汁の具として売っている乾燥野菜)
(さばの水煮の缶詰などを使用)

工藤先生の解説

全体的にエネルギーは充足しています。昼食をサンドイッチに選択しているところは、良いところです。
おやつのどら焼きは、エネルギーが高いので体重オーバーの場合には、頻度を減らしましょう。
夕食はヘルパーさんが準備しているので、比較的バランスが良くなっています。減塩が必要な方は汁を飲まないようにしましょう。
意識して水分も摂取しているようです。

改善案(ちょい足し)

朝食
朝食
プラス
  • ブロッコリーサラダを追加
  • (冷凍ブロッコリーを電子レンジで加熱し、マヨネーズを添える)
  • (ツナ缶を添えるとたんぱく質が摂取できます。)
昼食
昼食
プラス
  • トマトジュース(食塩無添加のものもあります)※腎機能が低下してる場合には注意が必要です。
おやつ
おやつ
プラス
  • どら焼き➡果物、乳酸菌飲料などにかえる
夕食
夕食
プラス
  • カットしめじ等を追加

三人目の食事内容

朝食パンとコーンスープ

朝食

パン
コーンスープなどのインスタントスープ

昼食パンとコーヒー牛乳

昼食

パン

コーヒー牛乳
おやつポテトチップス

おやつ

ポテトチップス

夕食

夕食

嫌いなおかずの時のための海苔の佃煮

工藤先生の解説

食事の準備がなかなか難しそうな方ですね。全体的に炭水化物の割合が多く、たんぱく質(からだをつくる)、ビタミン、ミネラル、食物繊維(からだの調子をととのえる)が不足しています。
しかし、夕食は、いろいろな食材を使った幕の内弁当を選んだところは良いところです。
おかずによって残すようであれば、のりの佃煮で主食だけは摂ってもらいましょう。
塩分が気になるかと思いますが、おかずを食べなければ、その分塩分も摂らなかったことになります。減塩の佃煮も販売されています。

改善案(ちょい足し)

朝食
朝食
プラス
  • ロールパンを全粒粉のものにすると食物繊維が摂れます
  • カット野菜サラダ(千切りキャベツ)
  • ヨーグルトを追加
昼食
昼食
プラス
  • 野菜ジュース※腎機能が低下してる場合には注意が必要です。
  • ゆで卵または温泉卵(調理済)を追加
  •  
おやつ
おやつ
プラス
  • ポテトチップスをさつまいも(蒸したものが販売されています)にかえる
夕食
夕食
プラス
  • 配食サービスを利用する。
    高齢者向けのものは、軟らかく調理されていて栄養バランスが良いです

(ちょい足し例)

高齢者の食事に、レンジで簡単に「ちょい足し」できるレシピやアイデアはたくさんあります。手軽にできるものをいくつかご紹介します。
★ 野菜のちょい足し
(冷凍野菜の活用)
ブロッコリーやほうれん草などの冷凍野菜は、レンジで温めるだけで手軽に栄養をプラスできます。
スープやおかずに加えるだけでなく、卵と混ぜてレンジで加熱すれば、簡単オムレツにもなります。
(カット野菜の活用)
カット済みの野菜を使えば、まな板や包丁を使わずに済みます。
サラダにプラスしたり、スープに入れたり、炒め物に加えたりと、様々な料理に活用できます。
(野菜ジュース、トマトジュースの活用)
食塩無添加のものを選びましょう。手軽に摂ることができます。※腎機能が低下してる場合には注意が必要です。
★ たんぱく質のちょい足し
(卵)
マグカップに卵と牛乳、チーズなどを入れてレンジで加熱すれば、簡単キッシュ風になります。調理済の温泉卵を追加するのもよいでしょう。
(豆腐)
豆腐はレンジで温めるだけで、温かい豆腐として食べられます。絹ごしの厚揚げは、電子レンジで加熱して、いろいろな薬味で楽しめます。
味噌汁やスープに入れたり、あんかけにしてご飯にかけたりするのも良いでしょう。
(ツナ缶・サバ缶)
缶詰は手軽にたんぱく質を摂取できる便利な食材です。
サラダに混ぜたり、パンに挟んだり、パスタと和えたりと、様々な料理に使えます。
★きのこ、海藻類
(きのこ)
カットしめじ等をレンジで加熱して、ポン酢や醤油かけると美味しくいただけます。
(海藻)
カットわかめやとろろ昆布などを、味噌汁やスープに加えるだけで、ミネラルや食物繊維をプラスできます。

(注意点)
高齢者の方が電子レンジを使う時は、やけどに注意して、加熱後の容器は十分に冷ましてから取り出すようにしてください。
・噛む力、飲みこみの状態によって小さめ切ったり、やわらかく煮たりするなどのの工夫が必要です。

知っておきたい「さあにぎやかにいただく」

工藤先生は、介護予防教室などでフレイル予防の食事について以下のようにお話されています。

「主食のご飯(炭水化物)、おかず(たんぱく質・脂質)、野菜(ビタミン・ミネラル)をバランスよく三角に食べましょう。また、肉や魚は1回の食事で手のひらに乗るくらいを目安にすると適量です。」

実際にどんな食品を食べればよいのか、不足しがちな食品がないかをチェックする合言葉が 「さあにぎやかにいただく」 です。

フレイルとは、高齢期に病気や老化などによって筋力や認知機能などの心身の活力が低下した状態のことです。フレイルを予防することは、将来的な介護予防にもつながります。

 

さあにぎやかにいただく

「さあにぎやか(に)いただく」は、東京都健康長寿医療センター研究所が開発した食品摂取多様性・得点を構成する 10 の食品群の頭文字をとったもので、ロコモチャレンジ! 推進協議会が考案した合言葉です。本サイト上の図は、その内容をもとに(株)エス・エム・エスが作成したものです。」

「さあにぎやかにいただく」 は、魚・油・肉・牛乳・野菜・海藻・芋・卵・大豆製品・果物 の10の食品の頭文字をとった合言葉です。
毎日の食事の中で、同じような食品ばかりを食べていないか、不足しているものがないかを確認するために、この合言葉を活用するとよいでしょう。

主食となる穀類に加え、「さあにぎやかにいただく」 の10種類の食品群のうち、できれば7品目以上を摂取することを目標にしましょう。1~2週間継続してチェックしてみると、自分の食事の傾向や不足しがちな食品が見えてきます。
献立を考える際には、チェックシートを活用し、〇が付いていない食品を意識するとよいでしょう。ヘルパーに調理を依頼している場合は、冷蔵庫にチェックシートを貼り、共有しておくのもおすすめです。
また、好みや食べにくさなどの理由で〇が付きにくい食品がある場合は、栄養補助食品を活用する など、無理なく栄養を補いながら、日々の食事でフレイルを予防していきましょう。

手間をかけずに栄養改善するポイント

工藤先生は、高齢者の食事について「毎日のことだからこそ、できるだけ手間をかけず、洗い物も最小限にすることが大切」と話されています。
また、個食タイプの少量でおいしい栄養補助食品などは、メーカーの通信販売でも手に入るため、手軽に活用するとよいでしょう。

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手間をかけずに、栄養を改善するポイントを確認しておきましょう。

エネルギーをしっかり摂りましょう

工藤先生は、「エネルギーをしっかり摂らないと、いくらたんぱく質を意識して多く摂取しても十分に活用されません。体に必要なエネルギーが不足すると、せっかく摂取したたんぱく質が筋肉の維持ではなく、エネルギー補給のために使われてしまうこともあります。まずは、一日のエネルギー量がしっかり確保できているかを意識することが大切です」と話されています。

特に高齢者は、食が細くなりがちで、気づかないうちにエネルギー不足になっていることも少なくありません。ご飯やパン、麺類などの主食もしっかり食べながら、無理なく栄養を補える工夫を取り入れていきましょう。

たんぱく質+野菜+ご飯を意識しましょう 

ポイントは、肉・魚・卵・豆腐などのたんぱく質を含むおかずと、野菜のおかず、そして主食がそろうこと です。

特に高齢者は野菜が不足しがちですが、野菜に含まれるビタミンB1には、炭水化物の糖分をエネルギーに変える働きがあり、エネルギーをしっかり活用するためにも欠かせません。
また、「おかずを増やすのが大変」と感じるときは、野菜たっぷりのみそ汁 を活用するのもおすすめです。1食あたり両手1杯分の野菜を目安に摂取するとよいですが、みそ汁に入れることでかさが減り、食べやすくなります。

摂りにくいカルシウムや鉄分の対策

高齢者に不足しがちな栄養素として、カルシウムと鉄分 があります。カルシウムは骨を丈夫にし、鉄分は貧血や褥瘡(床ずれ)の予防に役立つ重要な栄養素 です。
カルシウムを効率よく摂取するには、200mlで約200mgのカルシウムが含まれる牛乳が最適 です。さらに、カルシウムや鉄分を強化した牛乳を選ぶのもおすすめです。
しかし、牛乳を飲まない方にとっては、カルシウムを十分に摂取するのが難しくなることも。そんな場合は、ヨーグルトやチーズを食事に取り入れたり、カルシウムを強化したウエハースなどをおやつにしたりすると、無理なく補うことができます。

鉄分を補う方法として、鉄鍋を使って調理するとよいのですが、重くて扱いにくいため、家庭ではなかなか難しいこともあります。
手軽な方法として、炊飯器に入れて一緒に炊くだけで白米に鉄分をプラスできる製品もあるので、こうしたアイテムを活用するのもおすすめです。
食品では、レバーや魚、小松菜やひじき などに鉄分が多く含まれています。特にひじきの煮物は、腸の働きを整えて便通を改善する食物繊維 も豊富です。スーパーで購入する際は、大豆が入った煮物を選ぶと、たんぱく質も一緒に摂ることができます。
ただし、肝硬変などの病気がある方は、鉄分の摂取を控えたほうがよい場合があります。不安がある方は、かかりつけ医に相談しながら適切に取り入れましょう。

また、褥瘡(床ずれ)対策としては、たんぱく質や亜鉛も摂取したい栄養素です。

80歳男性、大腿骨骨折で入院。手術後にリハビリを開始しましたが、食欲不振で摂取エネルギー量が不足していました。体重減少と筋肉量低下が著しく、なかなかリハビリがすすみませんでした。栄養サポートチーム(多職種の栄養治療チーム)で話し合い、嗜好に合わせて食事内容を変更し、栄養補助食品の活用で摂取エネルギー量を増やしました。すると徐々に筋力も回復し、リハビリが順調に進みました。摂取栄養量を充足することは、早期回復につながるのです。

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介護サービスとの連携

ヘルパーに調理をお願いしている場合は、「さあにぎやかにいただく」チェックシートを共有し、不足している食品を確認してもらうと、よりバランスの良い食事につながります。

また、料理の味を変えずにたんぱく質を補える粉末タイプの栄養補助食品もあるので、調理に取り入れてもらうのもおすすめです。

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遠距離に住む家族が栄養補助食品を送っても、本人がなかなか活用できず、そのままになってしまうこともあります。そんなときこそ、介護サービスとの連携が役立ちます。例えば、ヘルパーが「こんなの届いたよ」と声をかけたり、ヘルパーに食べやすいように器に盛り付けたりアレンジしたりしてもらうだけでも、利用しやすくなります。また、場合によってはデイサービスのお昼ご飯やおやつと一緒に出してもらえることもあります。このような介護サービスの活用や連携については、担当ケアマネジャーにご相談してみるのもいいでしょう。

栄養補助食品を選ぶ際は、足りない栄養素や本人の好みに合ったものを意識することが大切です。例えば、たんぱく質を多く含むゼリー飲料なら、おやつ感覚で手軽に食べられるため、無理なく栄養補給ができます。

足りない栄養に気付き、続けられる対策を

高齢になると、食べられるものや食べたいものが限られがちです。 また、スーパーで同じものばかり買ってしまったり、食事が炭水化物中心になったりして、栄養の偏りや不足が目立つようになります。

まずは、「さあにぎやかにいただく」チェックシートを活用し、不足している食品や栄養に気付くことが大切です。その上で、無理のない範囲で対策を考えましょう。

対策は、続けられることが何より重要です。たんぱく質+野菜+ご飯 を意識しながら、必要に応じて介護サービスの助けを借り、無理なく続けていきましょう。さらに、不足しがちなカルシウムや鉄分についても、しっかり理解し、日々の食事で意識することが大切です。

また、食事だけで補うのが難しい場合は、栄養補助食品を上手に活用するのもおすすめです。

管理栄養士 工藤美香
工藤 美香先生(管理栄養士・ 在宅訪問管理栄養士)

病院・施設・在宅の栄養管理に長く携わっており、急性期病院勤務時にはNST(栄養サポートチーム)の中心メンバーとして活躍。現在は駒沢女子大学 健康栄養学科の教授として、臨床栄養学概論や臨床栄養学などの指導を担当するほか、日本在宅栄養管理学会理事も務めている。

2025年3月更新

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