次の介護報酬・基準改定を議論する社会保障審議会・介護給付費分科会が、約2か月ぶりに開催されました(オンラインでの開催)。これからの議論は、新型コロナウイルス感染症にかかる現場対応をどう評価するかも中心的なテーマとなります。検討に際して、どのような方向性が望まれるでしょうか。
給付費分科会議論で注視したい3ポイント
新型コロナ対策については、二次補正予算が今週中にも成立する公算が高くなっています。そして、同予算案では、介護現場の全従事者に対する給付(慰労金)が設けられています。この施策が現場の対応力向上へと安定的に結びつくためには、次のステップである介護報酬による評価をどこまで高めるかにかかっているといえます。
議論に際して注視したいポイントは3つあります。1つは、新型コロナ対応への報酬上の評価のしくみについて。つまり、新たな加算で評価するか、基本報酬の引き上げで対応するかという点です。2つめは、これまでの改定の流れをどう評価するか。たとえば、機能訓練や口腔ケア等に一定の制限が生じる中で、今までの「重度化防止」という流れの延長でいいのかどうかという点です。
そして、3つめは先に成立した改正社会福祉法等との関連です。今改正は、包括的な支援体制の強化という大きな軸があり、新たな交付金による重層的支援体制整備事業も設けられました。要介護世帯内の複合的なニーズへの対応なども想定した制度変更というわけですが、奇しくも新型コロナの影響でニーズの複合化傾向はさらに高まっています。つまり、ケアマネやサ責、生活相談員等による相談援助等の困難状況が強まる中で、今回の法改正を現場実務への評価へときちんと反映させるしくみが欠かせないことになります。
過去の「工程表」にこだわらない議論も必要
以上の3点は、三位一体で総合的にとらえる必要があります。なぜなら、新型コロナへのリスク対応が「日常」化する中、そもそも介護保険によるサービスの全体像が「今までのままでいいのか」が問われているからです。
たとえば、重度化防止に向けて、今まで通り報酬上でのインセンティブを図るとします。しかし、感染防止への配慮との両立が必要となれば、現場のハードルは一気に上がり、従事者の耐えられる負担を超えることで人員基準が満たせないなどの懸念も膨らみます。
また、再び感染が拡大した場合、利用者・家族の訴えや課題の変化が激しくなることも想定されます。そうした中で、上記のように健全なサービス提供体制が揺らいでいれば、何とか課題分析を進めても、受け皿となるサービス調整がうまく行かないというケースも増えかねません。いずれにしても、ケアマネ等には「感染拡大」という1つのインパクトで、二重三重の負担が増してくるわけです。
このように、先にあげた3つのポイントはつながっています。これらの課題をトータルで見たうえで、過去にかかげられた工程表にこだわらない議論も必要となるでしょう。
今、基本報酬アップでの対応が必要な理由
具体的には、どのような方向性が必要でしょうか。確かに、介護保険制度において重度化防止そのものの方向性は重要です。しかし、そこに過剰なインセンティブを集中させることは見直すべきでしょう。たとえば、算定率の低い重度化防止関連の加算をいったん絞り込み、少なくとも、効果測定などが煩雑になりがちな「アウトカム評価」の議論はいったんストップさせることが望ましいといえます。
そして、加算を絞り込む分、基本報酬のアップで感染防止策との両立を可能にするだけの運営基盤の底上げを図ります。同時に、ケアマネ等の相談援助業務にかかる従事者を対象とした「相談援助職処遇改善」のための加算、もしくは交付金を新たに設ける──こうした制度設計も浮かぶのではないでしょうか。
インセンティブ加算を絞って基本報酬を上げれば、事業所のサービスの質が保てない──という見方はあるかもしれません。しかし、今回の新型コロナ禍により、事業所・施設のリスクマネジメントが厳しく問われることになりました。従事者や利用者を守るという意識が乏しければ、たちまち集団感染などから一気に経営悪化につながりかねません。
問題なのは、どんな意識が高くても、もともとの経営体力が乏しいゆえに対応が追いつかないというケースです。こうした事業所まで撤退となれば、それは本格的な介護資源不足に直結しかねないでしょう。だからこそ、優良な事業者を維持するうえで基本報酬のアップが必要になるわけです。これから年後半にかけての議論は、介護保険制度そのものの存立を左右するものになるかもしれません。
◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)
昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。
立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。