コロナ禍後の重要課題の1つは 「短期入所・利用」資源の不足解消

イメージ画像

2021年度の介護給付費実態統計が公表されました。各サービスの受給者数や1人あたり費用額の中で、今回注目したいのは短期入所・利用のサービスです。コロナ禍前の状況と比較した時、気になる変化が生じています。家族状況も視野に入れて確認してみましょう。

短期入所全体で実受給者は前年度比1.5%増

まずは、2020年度の状況を再確認しておきましょう。短期入所系サービスについては、新型コロナウイルス感染症が拡大した影響もあり、受給者数は大幅に減少しました。

実受給者(名寄せした人数)で見ると、利用者の多い短期入所生活介護だけでも、減少数・割合ともに、通所介護(地域密着型含む)を上回っています。感染拡大によって「利用したくてもできない」というケースも想定される中では、レスパイトニーズの高い家族介護者にとっては厳しい年度だったといえます。

では、2021年度はどうなっているのでしょうか。短期入所系サービス全体で、実受給者数は約1万1000人の伸び、伸び率にして1.5%となっています。伸び数のほとんどは、短期入所生活介護によるものです。

ちなみに、コロナ禍前の状況と比較すると、2017年度は約1万4000人(1.7%)の伸び、2018年度は約6000人(0.7%)の伸びが見られます。2019年度は一転して約1万2000人(1.4%)の減少となりましたが、これは同年10月の消費増税によって家計が厳しくなる中、居住費・食費への負担感から利用を控えるなどの動きが出たことが想像されます。

累計の受給者に限れば、微減に。なぜか?

いずれにせよ、2021年度に限ればコロナ禍前の状況に戻ったと見ることもできそうです。もっとも、2020年度の減少が著しかっただけに、本当に居宅ニーズに対応できるレベルに戻ったのかといえば、疑問の余地はあります。

そのあたりの疑問を深めそうなのが、2021年度の累計受給者数(名寄せ前の数字)です。短期入所系サービス全般では、逆に7500人(0.2%)の減少。短期入所生活介護に限れば、1万人以上(0.3%)減少しています。1人あたりの利用頻度が下がっているといえます。

先に述べた2019年10月の消費増税による家計負担が続いていることに加え、無視できないのは、2021年8月からの施設および短期入所の居住費・食費にかかる補足給付の見直しでしょう。ここに、2022年初頭からの急激な物価上昇による、さらなる家計負担が追い打ちをかけていると考えられます。

もちろん、ニーズの伸びに事業所整備が追いつかないという事情(つまり、利用したくても資源が足りない)もここに加わります。これらを総合的に勘案すると、家族のレスパイトニーズが高まる一方で、短期入所が「使えない」あるいは「使いにくい」という状況の慢性化が改めて実感されるところです。

特定施設等の「短期利用」も戻りは鈍い

短期入所系サービスの利用がコロナ禍前に戻っていないとなれば、その状況をカバーする資源はどうなっているかが気になります。たとえば、特定施設入居者生活介護(以下、特定施設)や小規模多機能型、認知症GHの各「短期利用」の状況です。

これらについて、2021年度は伸び率が大きいのですが、これも2020年度の大幅減からの反動といえます。ただし、短期入所の実受給者・累計受給者の「戻り」が鈍い中でそれをカバーするまでには至っていません。

特に、特定施設の短期利用は「戻り」が十分ではなく、コロナ禍による資源ダメージが大きかったことがうかがえます。小規模多機能型、認知症GHの短期利用はコロナ禍前よりも増加しましたが、特定施設の短期利用の減少分をカバーするまでには至っていません。

つまり、短期入所サービスの「戻りの鈍さ(特に、医療機関による短期入所療養介護の受給者はマイナスのまま)」に、各種短期利用の「戻りの鈍さ」が加わり、短期入所の数字以上に「家族介護者のレスパイトニーズの受け皿」が厳しくなっていることになります。

「ぎりぎり状況」に必要な短期入所・利用

国は「家族の介護・看護による離職者」を減らすべく、仕事と介護の両立支援に力を入れています。また、高齢者夫婦世帯が増える中で、高齢介護者の「介護倒れ」などをいかに防ぐかも大きな課題です。

ポイントとなるのは、包括やケアマネによる支援が入った段階で、「ぎりぎりまで家族だけで頑張ってしまっている」という状況です。たとえば、家族の体調悪化や就業継続の困難状況、さらには虐待リスクの増大など、さまざまな課題が複雑に絡み合っている中で支援に入るケースも多いでしょう。

その時に、いったん利用者を短期入所・利用によって家族から離し、集中的な課題整理やサービス調整を行なうことも必要です。居宅内の介護が厳しくなるほど、短期入所・利用の資源を拡充させることが、その後の支援を円滑に進めるうえでもカギとなるわけです。

このことは、ヤングケアラーの支援などについても言えるでしょう。国は当事者支援のピアサポートなどに力を入れていますが、短期入所・利用の資源整備(養護老人ホームなどの空床を活用した介護保険外サービスも含む)の予算も拡充してこそ、支援の実効性は高まるはずです。現場のケアマネも、長期にわたる支援を軌道に乗せるための重要ポイントとして、地域の短期入所・利用資源のリサーチにさらなる力を入れるタイミングです。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。