今国会、政府からの法案は乏しい中で… 現場が注目したい議員による提出法案

イメージ画像

10月3日から第210回の臨時国会が開かれています。コロナ禍からの経済回復はもちろん、ここへきて大きな課題となっているのが急速な物価高への対応です。さらに、疲弊している介護・医療現場への支援がどうなっていくのかも見逃せません。今国会の位置づけや、注目したい法案などを取り上げます。

介護保険法等の改正審議は来年の通常国会

今国会の会期(予定)は、年末の12月10日までです。内閣が提出している法案(閣法)は、実はさほど多くはありません。厚労省からの提出法案としては、「感染症の予防・患者に対する医療」にかかる改正法と、コロナ禍での影響に対応するための「旅館業法等」の一部を改正する法律となっています。

内閣による施策審議となると、今国会で焦点となるのは、新型コロナウイルス感染症対策などで費やされてきた予備費(内閣の責任で支出できる費用)の国会における事後承認(支出承諾)でしょう。予備費とはいえ、国民の税金が使われているわけですから、その使途が適切であったかどうかについて、国会でしっかりとチェックする必要があります。

とはいえ、これからの介護現場のあり方を左右する法案審議は、今国会に限れば材料的には乏しいかもしれません。たとえば、介護保険法の改正(年末の介護保険部会の取りまとめを受けて法案化)や介護施策をめぐる新年度予算の審議は、2023年の年明けから開催される通常国会で…ということになります。

現在、現政権が特に力を入れている「全世代型社会保障」についても、恐らくは年内に取りまとめを行なったうえで、次の介護保険法改正案を含めた一括法という形で来年前半に国会提出される可能性が高いといえます。

衆議院議員が提出している法案は40以上

そうなると、介護現場としては「あまり注目すべき点がない」と思いがちです。しかし、ここまで述べたのは、あくまで「内閣府による法律や施策」に限った話です。

国会では、内閣が提出する閣法のほかに、衆参両院の議員が提出する法案もあります。10月10日時点で、衆議院議員が提出した法案は40以上あります(参議院議員の提出法案は1つで、こどもに関する公的給付の所得制限の撤廃等にかかる法案が出ている)。

ちなみに、今回の臨時国会前から提出され、審議未了(廃案)の後に再提出となったものや閉会中審査から引き継がれているものがほとんどです。なので、すでに見聞きしたものも多いですが、関心を持ち続けることが重要である点から改めて取り上げます。

注目したいのは、介護現場にかかわりのあるもの、あるいは利用者等の(コロナ禍や物価高騰下の)生活にかかわるものです。

ケアマネ等の処遇改善にかかる法案もあり

前者では、「介護・福祉従事者の人材確保に関する特別措置法案」があります。野党の立憲民主党によるもので、同種の法案が過去に未了(廃案)となる中、今年4月に改めて通常国会に提出、今国会の審議に至っています。

今年4月といえば、その直前に政府が補助金による月額9000円相当の処遇改善策を打ち出しています(10月からは、ベースアップ等支援加算として介護報酬で対応)。ただし、介護職員の配置基準がない事業所(居宅介護支援事業所など)は対象とならず、対象事業所でも介護職員以外の職種への配分によって給付額が少なくなるケースがあります。

これに対し、上記の法案では、政府の処遇改善策に上乗せする形で「すべての介護・障害福祉の従事者(ケアマネ等のほか、事務職員や調理員も含む)」に「一律で月額1万円の賃金アップ」を可能にするというもの。国が財源を100%拠出する助成金の形をとります。

「上乗せする形」と述べたとおり、現行の政府の施策をリセットするというものではなく、支給対象や金額を拡充することで、「補完する」という意味合いの強い法案といえます。

物価高騰下の消費税引き下げを図る法案も

また、物価高騰下における国民の負担軽減という観点では、やはり野党である日本維新の会が、「現下の物価の高騰による国民生活および国民経済への悪影響を緩和するために講ずべき国民負担の軽減等に関する措置に関する法律案」を提出しています。やはり4月時点での提出で、今国会でも審議されます。

内容としては、ガソリン等の揮発油にかかる特例税率を廃止したり、消費税の軽減税率を段階的に3%(場合によっては軽減税率対象について特例的に0%)とするといった内容です。消費税については、悪影響緩和後に景気回復に資するため一律に5%とするとも記しています。さらに、低所得者への社会保険料の減額・免除もうたっています。

なお、コロナ禍から続く生活困窮者への支援については、政府の「住民税非課税世帯等に対する臨時特別給付金」などを補完する形で、先の立憲民主党が「コロナ困窮労働者給付金法案(通称)」を提出しています。コロナ禍等の影響で減収したいわゆるワーキングプアへの給付金が十分でないという観点から、1世帯10万円を給付するというものです。

このように、今国会での政府による法案が乏しい中、野党議員などからはさまざまな法案が上がっています。これらの法案がどう取り扱われるのかについて、現場としても改めて国会審議に注目してみましょう。

◆著者プロフィール 田中 元(たなか はじめ)

昭和37 年群馬県出身。介護福祉ジャーナリスト。

立教大学法学部卒業後、出版社勤務。雑誌・書籍の編集業務を経てフリーに。高齢者の自立・ 介護等をテーマとした取材・執筆・編集活動をおこなっている。著書に『介護事故完全防止マニュアル』 (ぱる出版)、『ホームヘルパーの資格の取り方2級』 (ぱる出版)、『熟年世代からの元気になる「食生活」の本』 (監修/成田和子、旭屋出版) など。おもに介護保険改正、介護報酬改定などの複雑な制度をわかりやすく噛み砕いた解説記事を提供中。